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スティールスマイル  作者: ガブ
第五章 最後の戦い
236/621

episode 236 「思い人」

十一ある国の一つ、サンジェロ。ここで療養中なのはアーノルトと並んで組織最強と恐れられた恐れられた男、ゼロ。彼は今、失意の最中にいた。


ゼロとアーノルトが最強と呼ばれた所以、それは彼らが一切の感情をもたず、標的が女であろうが子供であろうが、泣き叫ぼうが、命乞いしようが関係なしに殺しを全うしてきた部分にある。


そんなゼロに感情を与えた少女、レイア。ゼロは組織での立場と最強の称号を失う代わりに、心を得た。


ゼロとレイアの目的。それは二人が穏やかに暮らすために邪魔なもの、組織の壊滅だった。長く険しい道のりだった。出会いと別れを繰り返し、それが現実味を帯始めた時だった。



彼らは突如引き裂かれた。



ゼロには何が起きたのかわからなかった。いきなり押し寄せた圧倒的な力。抗うことなどできなかった。離すまいと心に誓った大切な人の手も気がついたときには離れてしまっていた。


そして今、彼女の生死も不明だった。


ゼロの心は黒く、深く沈んでいく。かつての自分に近づいていく。



(レイア、お前は俺にとっての光だ。お前がいるから俺の道は照らされる。だが、今はどこを進めばいいのかわからない……)


ゼロの心は動かない両足のように折れ始めていた。



ゼロを海岸で拾い、部屋まで貸し与えている老人は、ゼロのことが心配でならなかった。



「入ってもいいかい?」


ドアを叩く老人。ゼロの返事が無いと、老人はそのまま語り始める。


「私にもかつては孫がいた。生きていれば君ぐらいの歳にはなっていただろう。それはそれは可愛らしい子だったよ」


老人は孫の事を思い出す。無邪気で愉快で他人思いの少年だった。


「生意気にも将来を誓った娘さんもいてね。二人でよく遊んでいたもんさ」


老人の顔に涙が浮かぶ。


「でもね、二人が結ばれる未来は訪れなかった」


ゼロは顔をあげる。


「身代金目的でね、娘さんがさらわれたんだ。孫は必死になって探したさ。でも私たちには知らせようとしなかった。孫としては心配をかけたくなかったんだろう。娘さんの家にも私の家にもお金なんて無いことは知っていたからね」


ドアの向こうから老人が座り込む音が聞こえる。


「それが間違いだった」


そこからの老人の声は涙混じりでよく聞き取ることができなかった。わかったのはその二人が死体となって出てきたことだけだった。



「ぎみはあのどぎの私によぐにている」


突然咳き込む老人。昔の事を思いだし、発作を起こしたようだ。駆け寄り、背中をさすりたいところだが、ゼロはベッドから動くことができない。


次第に咳は小さくなり、鼻をすする音が聞こえてきた。どうやら落ち着いたようだ。


「とにかく、君はまだ若い。これから先長く苦しむかもしれない。だが死を選んだところで思い人に会うことはできない。生き抜くのがその人の為になるんじゃないかな」


遠ざかる老人の足音が聞こえる。それだけ言い残して去っていったようだ。


「……勝手なことを。俺の心を見透かしたつもりか?」


だが、死にかけのゼロの目には再び生気が宿っていた。


「俺は死など選ばない。レイアは死んではいない。きっとどこかに流れ着いているはずだ。それを確かめるまでは、俺は意地でも生き抜いてやる」


ゼロは心に誓った。その言葉を去る振りをした老人が聞き耳をたてているとも知らずに。




その頃戦僧たちのもとにいたレイアも重い腰を上げていた。


「やっぱりわたくし、探しに行きます」


レイアは姿を消したガイアの事を心配していた。


「大人しくしているのだ。我々にはほぼ戦闘能力はない。お主を守ってやることなどできん」


戦僧のリーダー、ヴィクトル・ルドガーがレイアを止める。


「そうっすよ。さっきみたいな連中に襲われたらみんな死んじまうっす。ここは安全すからここで待った方がいいっす」


シェイクもベッドに腰かけながら残るように促す。


「ですが! 今このときにガイアさんが危険にさらされているのかもしれません! そんなときにわたくしだけ安全な場所に居るなんてできません!」


レイアは二人を怒鳴り付ける。一人でも出ていってしまいそうな勢いだ。


「むぅ……」


ヴィクトルは眉間にシワを寄せる。


「会いたくはないが大司祭様のもとへいくのだ」

「え! まじすか!?」


シェイクはこれでもかというほど嫌な顔をする。


「仕方ないのだ……レイアさんをこのまま行かせたら間違いなく死んでしまう」


ヴィクトルもひどく落ち込んでいる。


「誰なんです? その大司祭様って?」


もくもくと出発の準備を進めているレイアが尋ねる。


「我々のお師匠様だ」


ヴィクトルはうなだれて答える。


「ドエフを起こしてくるっす……」


シェイクは諦めたようだ。


「大司祭様に知らないことはない。きっと兵士の居場所もご存じなのだろう」


それを聞いたレイアの顔が明るくなる。


「なら急ぎましょう! その方の所へ!」

「うむ……」


そこはかとなく顔色の悪い戦僧たちと屈託のない笑顔を見せるレイア。正反対の彼らの冒険が始まる。








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