episode 235 「神の力」
ジャンヌの強さはまさに神掛かっていた。最強と恐れられたアーノルトがまるで子供扱いだ。
「私の加護は強さ。単純な戦闘能力の強化。エクスカリバーと回復の加護さえなければ、あのイシュタル元帥にだって負けはしないわ」
ジャンヌは息を切らすアーノルトに語りかける。ジャンヌの攻撃に対してアーノルトは全くついていくことができず、防戦一方だった。それでもなお立ち上がれるのは、マリンの服のお陰としか言いようがない。
「それにしてもまだ生きているのね。一応これだけやれば元帥だって血みどろよ? やっぱりその服ただの服じゃないわね」
ジャンヌはほつれひとつ起こさない服に俄然興味を示す。アーノルトはなにも答えない。
「そ、なら仕方ないわ。気になるけど殺して奪って科学者にでも渡すとするわ」
アーノルトは防御を布の無い顔に集中する。
「一応本気でいくからっ!」
ジャンヌは言葉通り強烈な一撃を放つ。とっさに顔をガードするが、攻撃はアーノルトの腹を貫く。
「カッ!」
「あら、これでも刃が通らないのね」
ジャンヌの攻撃はアーノルトの肉を裂くまでには至らなかったが、衝撃は内蔵に届く。体内をぐちゃぐちゃにされ、口から大量に吐血しその場に倒れるアーノルト。
ジャンヌは座り込んでアーノルトの顔を覗きこむ。
「よく戦ったわ。大人しく拘束されなさい? 一応最後のチャンスよ?」
ジャンヌの冷たい二つの目がアーノルトを睨み付ける。
「立って! 負けないで!」
遥か後方から子供が叫ぶ。戦いの余波によって小屋の鍵が破壊され、子供たちが外に逃れたのだった。
「あら、逃げればいいのに」
「馬鹿どもが……」
戦意を失いかけていたアーノルトに再び闘志が宿る。ジャンヌが子供たちの方を気にした一瞬の隙にジャンヌの足首にクナイを突き刺すアーノルト。
「痛た!」
ジャンヌが足を押さえている間に子供たちの方へと駆けていく。
「やってくれたわね……」
クナイを引き抜き、アーノルトを追いかけようとするジャンヌ。だが急に力が抜け、その場に倒れる。
「な、何? この力は……加護?」
ジャンヌはそのまま気を失う。そんな事に気がつかず、必死で子供たちに向かっていくアーノルト。
「お兄ちゃん!」
子供たちが叫んでいる。子供たちの手前で転んでしまうアーノルト。急いで後ろを振り返るが、ジャンヌが追ってくる様子はない。
が、突如アーノルトと子供たちの間に謎の空間が出現する。一瞬マリンの登場を期待するアーノルトだったが、そこから現れたのは全く別の人物だった。
「久しぶりだな。アーノルト」
「貴様……なぜここに」
現れたのはなぜかずぶ濡れになったイルベルトだった。
イルベルトはアーノルトの力無い腕を引っ張る。
「来い。いつあの女が目を覚ますかわからないぞ」
状況を把握できないアーノルト。イルベルトの手を振りほどく。
「失せろ。貴様ら裏切り者の手は借りん」
「裏切り者? 何のだ。組織か? 組織はもうない。目を覚ませ! 子供らを救いたいのだろ!」
目線をそらすアーノルトに怒鳴りかけるイルベルト。子供たちも不安そうな目でアーノルトの事を見ている。
「……事情を説明しろ」
「ああ、だがそれはここを離れてからだ。俺とてあの女と戦いたくはない」
アーノルトと子供たちは、イルベルトの作り出した亜空間へと吸い込まれていった。




