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スティールスマイル  作者: ガブ
第五章 最後の戦い
232/621

episode 232 「預言者マリン」

ジャンヌはまとわりついている子供たちを無理矢理引き剥がす。ジャンヌの力に抵抗できるものは居らず、なすすべなく地面へと転がり落ちる子供たち。


そんな彼らも組織の端くれ。転ばされて泣きじゃくるような精神の持ち主は、一人もここまで生き残ってはいなかった。各々が武器をとり、ジャンヌを敵として認識している。


「勇ましいわね。いえ微笑ましいのかしら? でも私も子供の遊びに付き合っている暇はないのよ?」


ジャンヌから殺気が放たれる。子供たちにとっては初めての実戦。初めての命の取り合い。気分が高揚し、精神が麻痺した子供たちはジャンヌの迫力に耐えきったが、ほとんどの子供は泡をふいて倒れてしまう。


「あら、優秀な子供たちじゃない。一応驚異なる前に摘んでおこうかしら」

「うわぁぁぁぁ!!」


ジャンヌに突っ込んでいく子供たち。当然その攻撃はジャンヌの体にかすり傷すらつけることができない。


「うがっ!」


ジャンヌに吹き飛ばされ、廃材の上を転げ回る子供たち。体に無数の切り傷をつくってしまう。


「もうやめましょ。説得力ないかもしれないけれど、私痛め付けるのって趣味じゃないのよ?」


ジャンヌは落ちている剣を拾い上げ、こびりついている血を拭き取る。



「だから死にたい子は一撃で殺してあげる。人質はこんなに要らないもの」



これ以上ジャンヌに抵抗しようとするもの日現れなかった。



アーノルトはジャンヌを殺すべく、傷を癒していた。思ったよりも傷は深く、簡単に治りそうはない。


「仕方がない。不本意ではあるが、あの女を頼るとするか」


アーノルトは体を引きずり、ある場所を目指す。組織の訓練所からそう遠くは離れていない広場。そこで突如立ち止まるアーノルト。そしておもむろに手を前に出す。するとなにもない空間にドアが現れる。アーノルトは躊躇なくその扉を開き、中へと入っていく。



「おや、珍しいお客さんじゃないか」

「よく言う。全てお見通しなのだろう? 預言者マリン」



扉の向こうは小さな建物のなかに繋がっていた。そこには魔女のような帽子をかぶった三十ほどの女性が椅子に腰かけ、アーノルトの方を見ていた。


「まさか組織が壊滅するとはね。エージェントで生き残ったのはあんたと裏切り者の連中だけのようだな」


マリンは突然の来客に驚くようすは微塵も見せず、アーノルトに語りかける。


「そうだ。エクシルも死んだだろう」


アーノルトも本来なら知り得ない情報を持つマリンに驚く様子も見せず、淡々と質問に答える。


「そうか。それは残念だ。アレの作るオモチャは実に愉快だったというのに……」



魔殺のマリン。先代Mの殺し屋。圧倒的な魔術の力を持ち、それに加えて近い将来を見通すことができる予知の加護を受けている伝説の殺し屋。組織設立時のメンバーで、伝説でありながらも彼女の存在を知るものは少ない。殺し屋を引退した今は魔術で異空間に身を隠し、隠居生活を続けている。



「それで、私になんのようだ?」



全てを知っている風な顔ぶりで尋ねるマリン。


「俺はあの女に勝てるのか?」


マリンの顔ぶりから聞く前から答えはわかっていた。


「不可能だ。確かにお前は強い。だが相手が悪いな。あのジャンヌという女剣士、彼女はこの世の十傑にはいる戦士だ。そして彼女にはこの先に輝かしい未来も約束されている。お前がどうあがいても勝てはしない」

「そうか……」


マリンの予想通りの答えに肩を落とすアーノルト。


「しかし解せんな。なぜあの子供たちに構う? 今まで通りのお前ならあそこでジャンヌを子供たちごと殺すことができた。それを見逃したおかげで未来は変わってしまった」

「さあな。俺自身わからない。組織が壊滅したことで、俺の中の何かが壊れてしまったのだろう」


アーノルトの顔に苦悩が浮かぶ。ゼロと同様に感情を捨て去ったはずの男に。


「案外それは壊れたのではなく治ったのかもしれんな」


マリンは独り言のように呟く。


「どのみちその傷では戦うことはできんだろう。とにかく今は休め」

「そんな悠長なことをいってはいられない。薬をくれ」


あせるアーノルトを魔術で椅子に座らせるマリン。


「案ずるな。魔術でこの空間の時間を遅らせてやる」

「……何でもありか」

「ああ。何でもありだ」



アーノルトの心にほころびが出来ていることに、マリン以外に気がついたものは誰も居なかった。






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