episode 23 「巨大タコ」
ゼロはタコに向けて銃を乱射するも、案の定たいしたダメージは与えられない。
タコは一本の足を船に向かって叩きつける。船は大きく揺れ、ケイトの脳も大きく揺れる。あと二三発食らえばどちらも持たないだろう。
レイアはゲロゲロケイトをつれて船室に避難する。
ゼロは船上のタコの足をナイフで切りつけるが、文字通り全く刃がたたない。
キャプテンは奥から古びた大砲を運んできた。
「おい、坊主!こいつを使え!かなり古いがちゃんと整備はしてある!あとは坊主の腕次第だ!」
それを聞くとゼロはタコの隙を見て大砲を一発ぶっぱなす。大砲は腹部に命中し、タコは水中へと身を隠す。
「タコの弱点は!」
「目の間だ!触手の付け根を狙え!」
ゼロはタコを追いかけて海にもぐる。
自分の独壇場にわざわざやって来た愚かな人間を返り討ちにしようと迫り来るタコ。
しかしこの男はただの人間ではなかった。
「俺は惨殺のゼロ。貴様のような格下に遅れをとることはない。」
ゼロから発せられる強烈な殺気に一瞬硬直するタコ。ゼロはその一瞬の隙にタコの眉間に一撃を加える。タコはくねくねと苦しみ、足を二本残して逃げ去った。
「やりやがったな坊主!」
水上に顔を出したゼロに声をかけるキャプテン。
「いや、失敗だ。逃げられた。」
ゼロは悔しそうに目を背ける。
「何いってんだ。追い払えただけで十分さ。タコはバカじゃない。こんな目に遭えばもう人前に出てきたりしないさ。」
キャプテンはゼロを船上に引き上げる。
獲得した足はとても船に乗りきる大きさでは無いので、船に結びつけて引っ張る。
港では噂を聞きつけたたくさんの人たちが彼らの帰りを待っていた。
ベルシカでは壮大なたこ焼きパーティが催された。
そこにはフェンリーの姿もあった。
「驚いたな。エージェントだけでなくタコまで標的にするとは。」
タバコの代わりにつまようじをくわえるフェンリー。
キャプテンは船長仲間に、今日起きた出来事を自慢して回る。ゼロの噂は瞬く間に町中に広まる。と同時に金髪の嬢ちゃんと、ちいさいお嬢ちゃんの話も話題となり、嬉しそうに恥ずかしそうな二人。
しかし、名前が知れわたるということは、同時に危険も呼び込むということである。
噂は隣町、更にその隣町へと広がり、やがて組織の耳にも入る。
しかし、組織の人間が数人ベルシカにたどり着いた頃には、もうすでにゼロたちは海の上にいた。
海にも大分なれたケイトは、景色を楽しむ余裕も出てきた。老婆に拾われる前は草木を貪り、泥水を啜っていたケイトにとって、大好きな人たちとの旅は本当に楽しかった。体験することのすべてが新鮮で、ケイトの人生を彩る。
幸せそうに笑うケイトを見守るゼロとレイア。
モルガント帝国まではあと五時間もあれば着くだろう。それまでは各々好きに時間を過ごした。
ゼロはタコとの戦いで消耗したナイフの手入れをした。
レイアはこれまでの体験を忘れないようノートに書き留めた。
ケイトはキャプテンに様々なロープの結びかたを教わった。
モルガント帝国が見えてきた。
モルガント帝国はこの世界で最も栄えた国だ。人口は三億人を超え、三万人の軍隊が国民を守っている。その軍のなかにも何人か組織の人間が紛れ込んでいるだろう。
そんなことを考えているうちに船はモルガント帝国に上陸した。キャプテンが入国の手続きをしてくれている間、目的地であるヴァルキリア家への道筋を確認する。
ヴァルキリア家はここから南に約1000キロ行った帝国中心地に住んでいる。
ヴァルキリア家は領主、妻、そして三人の娘達からなる一族だ。長女ジャンヌ、次女ローズ、三女リザベルトは全員軍に属しており、長女ジャンヌに至っては中将の地位まで上り詰めている。
三人ともレイアより年上だが、レイアの事をよく可愛がってくれていた。
だが、メル家の前例もある。
ヴァルキリア家も決して安全とは言い切れない。しかし、レイアにほかに頼れる知り合いはいない。
たとえそこが敵地であろうとも、飛び込む以外に選択肢は無いのだ。
キャプテンに別れを告げ、再び陸路を行く三人。
新天地モルガント帝国にて待ち受ける試練とは。新たなる驚異はすぐそこまで来ていた。




