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スティールスマイル  作者: ガブ
第五章 最後の戦い
227/621

episode 227 「死」

三剣士の一人、ムゲン。圧倒的な戦闘能力をみせ、不死身のアンを退けた。その規格外の戦闘に終始圧倒されていたヴィクトルたち。だが彼らをそれ以上の衝撃が襲った。


塵と化したアンの横を通りすぎ、家を目指すヴィクトルたち。その家の前でそれは見つかった。



「レフ……!!」



家の前にはレフが血と涙を流しながら倒れていた。助けを求めてもがき苦しんだのだろうか、彼の爪の中は血と土が混じり混んでいる。苦痛な表情のレフをやさしく抱き抱えるヴィクトル。


「済まぬ、済まぬ! 助けてやれなかったっ!!」


大粒の涙が冷たくなったレフに降り注ぐ。ヴィクトル同様にレフの死を悔やむシェイクとドエフ。


その近くには真っ二つに切り裂かれた死体も見つかった。死体の損傷が激しく、ダインスレイヴによって血と魂を吸いとられたためか干からびており、誰だか判別がつかない。だが、レフと全く同じその服装からその死体がライということは誰もが理解していた。


レフの死体をドエフに預け、ライの死体のもとに座り込むヴィクトル。


「ライ、お前のことは決して忘れぬぞ……」


ヴィクトルは見にまとったきらびやかな衣装を脱ぎ、ライの死体を包み込む。


何と声をかけたら良いかわからず、ただ見ていることしかできないレイア。ガイアの安否が気になったが、とても言い出せる雰囲気ではない。


「……行こう」


ヴィクトルたちはディケンズの死体を持ってどこかへ運ぶ。


「どちらへ?」

「テノン神殿っす。仲間の死体はあそこで供養してるんすよ」


シェイクが黙っているヴィクトルの代わりに質問に答える。



テノン神殿にはいくつもの隠し扉が存在する。レイアを拐ったときもそのうちのひとつを用いた。今回もその中のひとつを開けて中に入る。その扉は地下へと続く階段になっていた。五分ほど階段を下ると広い空間に出た。真っ暗な地下だと言うのになぜかほのかに明るい。


「ここが本当のテノン神殿っす」


そういうとシェイクは両手の指を顔の前で組む。ヴィクトルとドエフも同様の所作を行う。すると空間の明かりは大きくなり、神殿全体を照らし始める。


「……!!」


レイアは圧倒された。


地上を遥かにしのぐ神殿の大きさ。巨大な一枚のアテナのレリーフ。そしておびただしい数の墓。



「我々の国には他国で言うところの兵隊は存在しない。だが帝都をはじめ、他国は我々の事情など考えもせず攻め混んでくる。仕方がなく我らは神殿に仕える者たちを兵士とした。それが戦僧だ」


ようやくヴィクトルがレイアに向かって話し始める。


「当然聖職者たる我らが負けることは必然だった。我らは最後の生き残りというわけなのだ」



ヴィクトル、シェイク、ドエフの三人はディケンズを埋葬する。そして、祈りを捧げた。するとレフの死体から光輝く何かが解放される。ライの体からもわずかに何かが出ていく。


「彼らの魂はヴァルハラへ導かれるのだ」


ヴィクトルが涙を流しながらそれを見送る。気がつくとレイアも涙を流していた。



「さて、レイアさん。お主には聞くことがある」


埋葬を終えたあと、彼らは上の神殿でシェイクの手当てをしていた。そこでヴィクトルがレイアに真剣な顔で話しかける。


「はい。アンのことですね」


何を聞かれるのかレイアにはわかっていた。


「やはり知り合いか。ならば話が早い。結論から聞く、奴は仲間か?」


不信感、敵意。明らかな不の感情がレイアに向けられている。


「お主のことは信じたい。だがこちらは仲間が二人も殺された。これは聞いておかなければならないことなのだ」


いつもの情けない表情のヴィクトルはどこにもいなかった。


「彼女は……ある組織の構成員です。わたくしの仲間ではありません。もちろん、ガイアさんとも」


正直に答えるレイア。


「……そうか。良かったのだ。お主とは争いたくなかった」


息を吐くヴィクトル。額から汗が吹き出す。そんなレイアに深々と頭を下げるレイア。


「済みません! それでもわたくしとガイアさんがここにいなかったらあなたたちは襲われていなかったかもしれない! わたくしたちのせいであなたたちは……」

「それ以上言うな。お主らのせいではない」


今にも泣き出しそうなレイアのくちびるに指を当てるヴィクトル。


「その事について我々がお主とあの兵士を責めることはない。それよりも先程の両目に傷があった剣士に見覚えはあるか?」

「い、いえありません」


恥ずかしくなって後ろに下がるレイア。


「む、そうか。あの男の出で立ち……明らかに我々の国の人間ではない。お主らの関係者かと思ったが……仕方がない。あの兵士にも聞いてみるとしよう。生きていればの話だが」

「ちょっとリーダー! 無神経っすよ!」


ヴィクトルの発言をシェイクが咎める。


レイアの顔が険しくなる。


「す、済まぬ! 断じて死んでいてほしいなどと言うことではない!」

「わかっています……」


急いで弁解を図ろうとするヴィクトルだが、レイアの表情は暗い。


「と、とにかく急ぐぞ! もうあの女はいないのだからな!」


先頭をきって歩き出すヴィクトル。


「大丈夫っす。きっと動けなくなってるだけっすよ」


シェイクがレイアを励ましながら続く。


「……」


ドエフは無言のままレイアの背中に手を当て、ヴィクトルたちについていく。


(ガイアさん……)


レイアは不安を抱きつつもヴィクトルたちの家を目指す。






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