episode 225 「セルバ」
アンのでたらめな動きに苦戦するガイア。
「あれ、あなた弱くなりましたか?」
少し残念そうな顔を見せるアン。ガイアの傷口は開き、血が流れだす。そしてその傷口からどんどん血と魂が吸い取られていく。
(クソ……体に力が入らない……)
壁にもたれかかるガイア。棒を手に持つが、全く頼りにならない。武器らしい武器も見つからない。
「この剣すごくいいです。この剣を手に入れてからすごく体調がいいんです。ありがとうございます! 最高のプレゼントです!」
満面の笑みを見せるアン。返り血さえ浴びていなければ天使に見えるかもしれない。
「やはり戻るのだ」
「何言ってんすか! 死ぬっすよ!」
ドエフに抱えられながら逃げるヴィクトルの発言を咎めるシェイク。
「あそこは我々の住処だ。我々で守らないでどうするのだ」
「いやいやいや! リーダーは対峙していないからそんなこと言えるんすよ。あの女は異常っす!」
シェイクは魂を吸い取られる感覚を思い出し、身を震わせる。二度とあの場所に戻りたくないと思わせるほどに。
「そういえばディケンズ兄弟はどうしたのだ? 一緒ではないのか?」
「あいつらは散歩だ。家に居なくてよかった」
寝ていたため事情を知らないヴィクトルに説明するドエフ。
「む、ならなおさら戻らねばならないではないか! 家に戻って襲われたらどうする」
ドエフの上で暴れるヴィクトル。仕方なくヴィクトルを降ろすドエフ。
「……ディケンズを迎えに行くだけっす。家には戻らないすよ」
「む。わかった」
ヴィクトルたちは来た道を引き返す。
その家の中ではガイアが地面に倒されていた。顔色は青白く、体も小刻みに震えている。
「残念です。あの時のあなたは本当に強かった。そういえば一緒にいたあの女剣士はどうしたんですか? まさか死んじゃったんですか?」
アンはジャンヌのことを思い出す。ガイアへの興味が薄れてきているようだ。
「答えませんか……もういいです。あの人がそう簡単に死ぬとも思えませんし、探す楽しみもありますから」
ガイアに会話をするだけの力は残されていなかった。アンは剣をガイアに向かって突き刺す。だがそこにあるはずのガイアの姿は影も形もなかった。
「え? なんで」
驚くアン。ガイアがあの状態で動けるはずはなかった。奥の手を隠している様子もなかった。だがアンの顔は苦痛よりもむしろ喜びであふれていた。薄れていた興味が再びわいてくる。
「ふふふ、ははは! 最高ですよ! あなたはまだまだ私を喜ばせてくれる!」
ガイアは家のすぐ外にいた。もちろんガイア一人の力で脱出できたわけじゃない。ガイアはある男に支えられていた。
「大丈夫か?」
「……誰だ……お前は」
ガイアはその男に見覚えがなかった。いや、実際には見ているのだが、記憶から排除されていた。
男の名はセルバ。戦僧の一員だ。
「とりあえず休めるところへ。傷がひどすぎる」
セルバはガイアを連れてどこかへと歩いていく。
「離せ、逃げろ。どうやったかはわからんが、奴がすぐに追いかけてくる。今の俺ではお前まで面倒を見ることができない」
ガイアはセルバから逃れようとするが、その力さえ残っていない。
その時、アンが勢いよく飛び出して来る。
「クソ! 早く逃げろ!」
「慌てるな。大丈夫だ」
セルバは落ち着いているが、アンはどんどんこちらに近づいてくる。ガイアは息をのみ、迎え撃つ覚悟を決める。
だがアンはガイアたちと目を合わせることなく、そのまま通り過ぎていく。
「……どういうことだ?」
「加護さ」
セルバが答える。
「俺は認知されない。たとえ目に映っていてたとしても」
セルバは通り過ぎていったアンの背中をたたく。アンは何の反応も示さず、そのまま歩いていく。
「俺が認知させようと思わなければ、何があっても俺は気づかれない。おかげでこんな傷を負ってしまったが……」
ドエフに押しつぶされた腕を悲しそうに見つめるセルバ。
「申し遅れた。俺はセルバ。お前をある男のもとに連れていく」
「ま、待て。あの女を放っておくわけには!」
ガイアの意思など関係なしに抱えて進むセルバ。
「安心しろ。手はうってある」
ガイアの意識はそこで途絶えた。




