episode 221 「ガイアvs戦僧」
手に持っていたポーを投げ捨て、ヴィクトルたちにとびかかるガイア。その表情はいつにもまして険しく、子供が見たら気絶してしまうほどだった。
「ひぃ! 来るなっ!」
ヴィクトルは近くの椅子を持ち上げ、椅子の足をガイアに向けて突き出す。当然いつものガイアには抵抗にすらならないが、足が折れているガイアにはそれでも充分な脅威だ。椅子につまずき、派手に床に倒れる。
「いまっすよ!」
シェイクの掛け声で一斉にガイアに向かってとびかかる戦僧たち。ガイアは立ち上がるのをあきらめ、その態勢での迎撃を試みる。まずヴィクトルから椅子を奪い取り、その椅子で一番に向かってきたシェイクを薙ぎ払う。
「うわっなんて力すか!」
受け身を取るも、壁際まで吹き飛ばされるシェイク。その衝撃で椅子は砕け散ってしまうが、残った足の部分を掴み、武器にするガイア。
シェイクがあっという間にやられたことで怯むかと思われた戦僧たちだったが、彼らに引き下がる様子はない。双子のディケンズが俊敏な動きでガイアに迫る。
「レフ、押さえろ」
「了解、ライ」
弟のレフがガイアの動かない足に向かって鉄球を投げつける。
「がっ!」
ガイアが痛みに悶えた一瞬の隙にガイアの死角に回り込み。手に持っていた木の棒を蹴り飛ばす。そしてそのまま体ごとガイアに覆いかぶさるレフ。
「いいぞレフ」
兄のライも同じようにガイアに覆いかぶさる。
「ドエフ、今だ」
すっかり身動きが取れなくなってしまったガイアの顔を蹴りつけるドエフ。その巨体から繰り出される蹴りの威力は凄まじく、意識が飛びそうになるガイア。
「ゴフッ!」
「いいっすよドエフ! このままぶったおすっす!」
起き上がったシェイクも一緒になってガイアを袋叩きにする。
「ガイアさん!? ガイアさんですか!?」
「おとなしくするのだ! 危険だぞ!」
レイアが扉越しに伝わる騒ぎに慌て、扉をドンドンと叩く。それを必死に押さえるヴィクトル。
ガイアはゆっくりと攻撃に耐える。そしてじわりじわりと怒りを溜めていく。
「いい加減にしろ。お前たち……」
ガイアの強烈な殺気が小屋の中に充満する。空気が変わり、それに当てられた戦僧たちは動きを止める。
「な、なんすかこのプレッシャーは……」
「うご、けない」
ガイアを襲っていたシェイクとドエフも身動きが取れなくなる。ガイアは体の下に敷いて守っていた右腕で自分の上に乗っかっているディケンズ兄弟を殴り飛ばす。もちろん彼らも眉一つすら動かせない。悲鳴を上げることもなく、気絶する。続いてシェイクを殴り、ドエフにも手をあげる。
「効いたよ、お前の蹴り」
渾身の一撃をドエフに叩き込む。ドエフの巨体が倒れ、影の薄い男セルバがそれに巻き込まれて気絶したことに気づいたものは誰もいなかった。
「う、来る……な」
「驚いたな、まだしゃべれるのか」
ガイアは震え上がるヴィクトルを突き飛ばし、鳴りやまないノックの音がする扉を開ける。
「ガイアさん……」
空いた扉から現れたのは傷だらけで血だらけのガイアだった。
「待たせたな。行くぞ」
ガイアは血にまみれた手を差し出す。その手についた血は彼のものではない、戦僧たちのものだ。レイアはガイアと倒れた戦僧たちを交互に見る。
「大丈夫、ですか……」
レイアは言葉を振り絞る。
(ガイアさんはわたくしのために行動してくださった。ガイアさんは何も悪くない。ですが……)
レイアはガイアに連れられながら倒れているヴィクトルを見る。思えば彼らは悪い男では無かった。彼らもそうだ。彼らはレイアに危害を加えようとはしなかった。それどころかレイアを救おうと行動していた。ガイアと同じ、ただ勘違いしていたに過ぎない。
「……少し待っていてくれ」
「え?」
ガイアは椅子の足を拾い上げ、ヴィクトルに向ける。
「な、なにを」
「息の根を止める。ここで殺さなければまた襲われる」
ガイアは棒を振り上げる。レイアは身を挺してそれを庇う。
「なんの真似だ。そこをどくんだ」
「いいえどきません。この人を殺すことは私が許しませんっ!」
レイアは向けられた視線に涙をこらえて耐えながら、ガイアに言い放つ。
「どうしてもどかない気か、レイア」
ついさっきまで話していたガイアとはまるで別人。
「はい。どきません」
レイアは立ち向かう。たとえガイアと争うことになったとしても。




