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スティールスマイル  作者: ガブ
第五章 最後の戦い
216/621

episode 216 「セレーネ」

ガイアと弟のマークはモルガント帝国の出身ではない。二人は十一ある国の中で最小の面積の国、カグラで産まれた。ガイアは今から二十五年前、そしてマークはその八年後に産まれている。


カグラは独自の文化が色濃く存在する国で、ほかの国々とは交流を持たず鎖国状態にあった。


二人の両親であるレオグール夫妻は代々十闘神を祀る神社の神主だった。とても温厚な両親で、信仰心も篤くカグラの人々から愛されていた。その両親の愛をめいいっぱい受けて育ったガイアとマークもいずれはこの神社を継ぐだろう、誰もがそう信じて疑わなかった。



「これは何? すごくきれい」


当時五才だったマークは神社に奉納されていた一本の剣に目を奪われていた。剣というにはあまりにも巨大で、あまりにもでたらめな形をしていたが、この国の人々はこの剣を代々崇めてきた。


「これは十闘神スサノオ様の御剣、雷電丸よ」


マークの疑問に巫女服を身にまとった一人の少女が答える。マークは振り返りその少女を発見すると目を輝かせて少女に抱きつく。


「セレーネお姉ちゃん! いつ帰ってきたの!?」

「ついさっき。また大きくなったわね、マーク」


セレーネ・レオグール。マークより五つ年上の姉である。セレーネは巫女になるべく、マークの両親とともに国中の神社を巡礼しており、ほとんど家には帰っていなかった。


久々の再開を喜ぶ二人。セレーネはマークの小さな体を抱きかかえる。


「お兄様は? ご挨拶しないと……」


セレーネはガイアを探し、きょろきょろと神社の中を見回す。


「裏山。また修行だって」

「まあ、またなの。お兄様ったら、こんなにかわいい弟を一人にして」


セレーネはマークの頭をくしゃくしゃっと撫でまわし、ほっぺにキスをする。


「私、お兄様を呼んでまいります。マーク、あなたは母屋で待っていて。お父様とお母様も帰ってきていらっしゃるから」

「わあ本当!?」


マークは満面の笑みで両親の待つ母屋のほうへと駆けていく。セレーネもガイアを呼び戻すべく、神社の裏山へと入っていく。



ガイアは裏山の頂上で剣を振るっていた。ガイアはこの国、カグラを創ったとされるスサノオに強い憧れを抱き、物心ついたころからこの裏山で修業を重ねてきた。ここは非常に空気が薄く、修業にはもってこいだったのだ。そのおかげでガイアは十三にしてカグラ有数の剣士にまで成長していた。


(もっとだ。もっと強くならなければ。このカグラでさえ俺は一番になれていない。世界は広い、きっと俺より強い者はいくらでもいる……)


ガイアは一心不乱に剣を振り続ける。そんなガイアを驚かせようと後ろからこっそり近づくセレーネ。


「なんだセレーネ」

「わ! お兄様。気づいてらっしゃったの」


背を向けたまま、近づいてきたセレーネに声をかけるガイア。セレーネは驚かせるつもりが、自分が驚いてしまいしりもちをつく。


「お帰りセレーネ。父さんと母さんも元気か?」


セレーネに手を差し伸べながら語り掛けるガイア。


「ええ元気。お兄様も相変わらず元気ですね」


にっこり笑ってその手を取るセレーネ。


「しかしセレーネ。お前よく一人でこの山を登ってこれたな。それも巫女の力に関係しているのか?」

「どうでしょう? 実感はありませんが」


この裏山の標高は二千メートル近くある。五合目までは観光用に整備されているが、それ以降はほとんど崖のような険しい山道で、十才のセレーネには到底登りきることはできないと考えていたガイア。


だがセレーネは一人でこの山を登りきった。それもそのはず、セレーネはただの十才の少女ではない。



この国カグラの巫女たちには、代々不思議な力が宿っていた。それは巫女見習のセレーネにも備わっており、彼女の場合は途切れることのない精神力と無尽蔵のスタミナだ。その力のおかげでこの険しい山でもまるでハイキング感覚で登りきることができたのだ。


カグラの人々はこの力を授力と呼んでいたが、これは紛れもなく加護である。



「さ、お兄様。戻りましょう。お母様が手料理を作ってくださっているはずです」


ガイアの手を引っ張るセレーネ。


「俺はもう少しここで修業をする。悪いが先にもどっていてくれ」

「お兄様!」


手を放すガイアを怖い顔でにらむセレーネ。


「な、何だ?」


いつも天使のような表情のセレーネの迫力ある顔にたじろぐガイア。


「そうやっていつもマークのことも構ってあげていないのでしょ! マークはまだ五つなのです、もっと面倒を見て差し上げないとグレてしまうかもしれませんよ!」

「最低限の面倒は見ているさ」


気まずそうに答えるガイア。セレーネの迫力はさらに増す。


「最大限に見てください! それが兄というものです!」

「す、済まん……」


思わず謝ってしまう。


「それに……私のことも構っていただきたいです」


小さな声でつぶやくセレーネ。


「ん? 何か言ったか? よく聞こえない」

「なんでもありません! 行きますわよ!」


ガイアは仕方なくセレーネに引っ張られて山を下りていく。













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