episode 215 「テノン神殿」
レイアは厨房で頭を悩ませていた。食材がほとんど無いのだ。
(どうしましょう……ガイアさん、ずっとムスっとしているから美味しいご飯を作ってあげたかったのに……)
出会ってから一度も笑顔を見せないガイアに多少なりとも怯えるレイア。
どうやらこの神殿はテノン神殿というらしい。それは至るところにあるレリーフから見てとれる。
「……アテナ」
ガイアはレイアの手料理を待ちながら、レリーフに記されたもう一つの名を手でなぞる。
アテナ。十闘神第四神の名だ。ここはアテナを祀った神殿なのだろう。その名以外ほとんどアテナの情報を持たないガイアだったが、幸いここにはアテナに関する資料がいくらでもあった。
膨大な数の資料に目を通していたガイアの鼻に美味しそうな臭いがやって来た。
「できましたよ、ガイアさん!」
レイアがガイアのもとにたくさんの食事を運んでやって来た。
「ごめんなさい、肉も魚も見つからなくて……」
「なぜ謝る?」
申し訳なさそうな顔をするレイアに尋ねるガイア。
「ほら、男の人って肉が好きっていうじゃないですか……」
「ハハ」
もじもじするレイアを見て思わず吹き出すガイア。初めて見たガイアのにこやかな顔にすっかり緊張が解けるレイア。
「俺は野菜の方が好きなんだ」
ガイアはレイアが持ってきた野菜サラダを一口頬張る。そして目を輝かせ、二口、三口と次々に口に運んでいく。
「美味しいよ、とても。ゼロ君が羨ましい。君は良いお嫁さんになれるだろう」
ガイアの言葉に顔を真っ赤にするレイア。手足をばたつかせて恥ずかしさをごまかす。
「もう! からかわないでください!」
すっかり仲良くなった二人。二人で仲良く食事をしたあとはこれまでの事を話し合う。
「そうか……君もずいぶん大変な思いをしてきたんだな」
レイアはガイアにゼロと出会ってからの事を語る。
「はい。ゼロさんはわたくしの恩人なのです。ですから、わたくしは何があってもあの方を助けたい」
ガイアは真剣なレイアの目を見つめる。
「安心しろ。ゼロ君は必ず俺たちが見つける。君には食事の恩があるからな」
「ありがとうございます! いくらでも作ります!」
ガイアもレイアもこんなに人と話し込んだのは久しぶりのことだった。あっという間に夜は更けていき、辺りを暗闇が支配していく。
「そろそろ休むとしよう。いつまでも明かりをつけておいては不審がられる」
ガイアは明かりを消す。そしてそそくさと寝床につく。
「良いんですか? 見張りとか。わたくしからいきましょうか?」
「構わん。あまり気にしすぎるのは良くない。それに君も今の俺もたとえ敵が来ようとも対処できない。無駄なことは考えずに休むとしよう」
そう言い残してガイアは寝息をたてる。レイアもそれ以上は何も言わずにおとなしくベッドに入る。
レイアが完全に眠ったのを確認するとガイアはベッドがら起き上がる。
(囲まれているな。俺たちが寝静まるまで待っていたということはそれほど大人数ではないのか、それとも腕に自信がないのか……せめてダインスレイヴさえあったらな)
ガイアの持つ七聖剣ダインスレイヴは島が破壊された衝撃で何処かへと流されてしまった。
壁を伝いながら少しずつ移動するガイア。神殿の入り口に身を潜め、敵の登場を待つ。だがいつまで経っても敵は侵入してこない。
(妙だな。諦めたのか?)
だがその楽観的な考えはすぐに覆される。
ガタっと神殿の奥の方から音が聞こえる。
(しまった! 他にも入り口が!)
ガイアが引き返そうとした次の瞬間、奥からレイアの悲鳴が聞こえてくる。
「キャァァァァァ!」
「クソ!」
ガイアは足を庇わず無理やり引き返していく。
(やらせるか……もう誰一人として仲間を失うわけにはいかない!)




