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スティールスマイル  作者: ガブ
第五章 最後の戦い
211/621

episode 211 「崩壊」

静か。静かすぎる。地下へと続く長い階段を降りながらゼロは不安感にさいなまれていた。


(気配がない。無さすぎる。いくら連中とはいえどもここまで気配が消せるものなのか?)


アーノルト・レバー。組織最強の殺し屋。彼ならば透明人間のように気配を絶つことができるだろう。だが組織の人間誰もがアーノルトほどの使い手というわけではない。おまけにここには殺し屋以外のエージェントも多数在籍している。彼らに戦闘能力はなく、当然気配を絶つなどという芸当は出来ない。


「レイア、俺の後ろから離れるな。何かがおかしい」

「はい……」


ゼロの緊張が背中越しにレイアに伝わってくる。足を踏み外しそうになりながら、慎重に階段を降りる。



ようやく地面に足をつけるゼロたち。辺りは暗く、相変わらず人の気配がない。


「本当にここなのかしら?」


ジャンヌがクイーンを疑ってかかる。


「ええ。間違いない……間違いないはずよ」


クイーンが不安げに答える。確かにここは組織本部だ。今まで何度も足を運んできた。


本部の入り口。必ず二人以上の見張りが居るのだが、見当たらない。鍵もかかっていない。


誘われているのか、扉の先にアーノルトが待ち構えているのか、悪い想像ばかりが脳を支配していく。


「とにかく先へ進むぞ。警戒しろ」


ゼロはレイアを背中に隠しながら慎重に進む。扉に手をかける。勢いよく扉を開け、銃を構える。アーノルトは居ない。いつもならたくさんのエージェントが働いている広間。たが誰もいない。無数にあるパソコンはすべて電源が入ったままで、まるで先程までそこに居たような異様な雰囲気を醸し出す。


逃走。その二文字が皆の頭によぎる。



(逃げたというのか、あのエクシルが? あのアーノルトが? あり得ない……やつらにとっても俺たちを殺す絶好のチャンス。こんなにあっさり引き下がるわけが……)


そこまで考え、何かに気づいて辺りを見渡すゼロ。


「気を付けろ! 来るぞ!」


声を上げる。その声に反応し、兵士たちも剣を抜いて身構える。


(気配を読めないのは何もアーノルトだけではない。ゲイリー、機械であるやつの気配を読むことは困難だ。そして必ずやつはまだ存在している)


だがいつまで警戒してもゲイリーは襲ってこない。


時間だけが過ぎていく。



「気にしすぎじゃないかい? きっと逃げたのさ。無理もないだろ? これだけの人数だ。中将たちの強さも嫌と言うほどわかったんじゃないかな?」


冷や汗を流しまくるゼロに話しかけるワルター。


「いや、そんなはずはない。そんなはずはないんだ。ここで潰さないと……」


苦痛の表情を浮かべるゼロ。いてもたってもいられないレイアはゼロを後ろから抱き締める。


「落ち着いてください。一度お屋敷に戻って考えましょう。これからの事を」

「レイア……」


まるでゼロがどこか遠くへ行ってしまいそうで、胸が締め付けられるレイア。どこにもいかないように強く抱き締める。



「ジャンヌ、いいですね?」


不満そうなジャンヌに声をかけるレイア。


「敵が居ないんじゃ仕方ないわ。でも一応探索はするわよ?」


ジャンヌは数人の部下を引き連れ、さらに奥へと進んでいく。



ようやく緊張の糸が切れたのか、ゼロはその場に座り込む。


「大丈夫ですか?」


心配そうに除きこむレイア。


「ああ。正直ほっとしている。俺はここに死ぬ覚悟できた。だがお前の顔を見て無様にも生きたいと願ってしまった。何十人も殺しておきながらふざけた話だ」


渇いた声で告白するゼロ。今にも消え入りそうだ。


「安心してください。あなたがどれだけ沈んでしまっても、わたくしが必ず救います。あなたが道を間違えても、わたくしが必ず導きます。ですから、わたくしのそばに居てください」


手を差し伸べるレイア。ゼロは迷いなく、その手をとる。


「ああ。よろしく頼む」






一番奥の部屋。普段エクシルが使用している部屋だ。その手前まで来たジャンヌはようやく異常を察知する。


人の気配。

それは熟練されたもの。だが通常の状態ではない。明らかに瀕死であることが読み取れる息づかいだった。


「貴様……何者だ?」


扉の向こうの男が誰かと会話している。だが男以外の気配は感じられない。


(頭がおかしくなったのかしら?)


ジャンヌは部下を下がらせ、耳を澄ませる。



「お前こそ何者だ? 人にしてはやるようだが」


確かに男とは別の声がする。とても透き通った声で、脳に直接響いてくるようだった。


「兵士では無いな。どこの組織の者だ? なぜ我々の邪魔をする?」

「邪魔? 何を言っている。邪魔なのはお前のほうだ。私の国を汚しておきながらよくそのような口を聞けるものだな」


剣を握りしめるジャンヌ。この扉の向こうの存在は明らかに異常だ。そう感じ取ったジャンヌは突入する隙を伺う。が、彼女の意思とは関係なく扉が突如開く。



「そしてお前。いつまでそこに隠れている?」



「!?」



ジャンヌが目にしたもの。背中から翼が生え、体の周りからはエネルギーが目に見えるほど溢れている。そのとなりにいるアーノルトなどまるで目に入らないほど。


「誰、なの?」


頭で考えるよりも先に口が開く。


「私はミカエル。お前たち人が言うところの十闘神だ。お前たちに神罰をあたえにきた」


そう言うとミカエルは腕を高々と上げる。その指先からまばゆいほどの光が放たれ、辺りを包んでいく。


「中将! 何事ですか!」


異変に気がついたガイアが後ろからやって来る。


「来ちゃ駄目! 直ぐに避難を!」

「もう遅い」



次の瞬間、爆音と共に施設が、いや小島が崩壊を始める。



「中将!」

「ガイア!」



二人は崩壊の渦に飲まれていく。


「ゼロさん、なんの音でしょうか?」

「……俺の手を離すな」


地響きがだんだんと押し寄せてくる。


「おいおいヤベェんじゃねぇか!? みんなこっちこい!」


フェンリーは皆を集め、氷の壁で辺りを覆い始める。だが神の力はそれを易々と破壊し、すべてを海へと沈める。


「ゼロさぁぁぁぁん!」

「レイァァァァ!」




島の上空に浮かぶミカエル。


「小さな存在どもが、私たちの世界を汚すんじゃない」



その日、地図に乗っていない島は、文字通り世界から姿を消した。





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