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スティールスマイル  作者: ガブ
第一章 ゼロとレイア
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episode 21 「港町ベルシカ」

ケイトを旅の仲間に率いれたゼロとレイアは、再びモルガント帝国を目指して歩き続けていた。道中ケイトはレイアに自分が組織に属していた殺し屋だと言うことを告げるが、今までの経験からかさほど驚く様子も見せず話を受け入れていた。


「少し離れろ。歩きにくい」


ケイトはゼロの腕にしがみついて離さない。レイアは正直いい気分ではなかったが、お姉さんなので我慢していた。だが、やっぱりもやもやとする。


「ケイトちゃん、わたくしと手を繋ぎましょう」


何とかゼロからケイトを引きはなそうとレイアが差しのべたキレイな手を見つめるケイト。しかしケイトはその手を握ろうとはしない。それはゼロから手を離したくないからという理由だけではない。


「私は絞殺のケイト。こう見えても、たくさんの人を殺めているの。この薄汚れた手であなたの手は握れない」


俺は良いのかと思うゼロ。レイアはその話を聞いても少しも躊躇う様子を見せず、すぐさま小さなケイトの手をとる。


「それはとてもいけない事です。でも、もう人殺しなんて辞めたんですよね? だからついてきたんですよね? でしたらもうわたくしは気にしません、仲間なのですから」


ケイトはレイアの真っ直ぐな優しさにふれ、恥ずかしがりながらもその暖かい手を握り返す。そして、ありがと。そう小さく呟いて歩き出す。


このまま歩けば明日には港町につくだろう。モルガントへはそこから船に乗ることになる。港町ベルシカは漁業が盛んな町だ。が、野菜はあまりとれないためケイトがよく売りに来ていた(ほとんど盗み食いしていたが)。


道中脇に逸れたところに河原があったため、今夜はそこで野宿をすることにした。レイアの作った食事に感動するケイト。夜が更けてくると、ゼロは見張りのため火から離れるが、ケイトはゼロから離れない。そんな彼女をレイアは無理やり自分の寝床に引きずり込み、ブーブー文句を言っていたケイトを寝かしつけた。


「眠ったか。やっと静かになったな」

「ふふ、妹ができたみたいで楽しいです」


ケイトが眠ったことで、ようやく2人きりで会話ができて素直に嬉しいレイア。

静かで心地よい夜が過ぎていく。


次の朝、寝癖でボサボサのケイトの髪をとかすレイア。


「やめて、恥ずかしい」

「ダメですよ。女の子なのですから」


そう言いつつも、レイアに身を任せるケイト。どうやら羞恥というよりも困惑に近いらしい。微笑ましいやり取りを見守るゼロ。


きれいになったケイトの頭を撫で、先へと歩いていく。いつもは適当に結んでいた髪をレイアに整えてもらったことで、るんるん気分になったケイトもついていく。レイアもはしゃぐケイトを見守りながら歩く。その日の夕方、ようやくベルシカの町が見えてきた。


町の入り口付近はたくさんの漁師で賑わっており、人通りが激しい。どこに組織の人間が紛れ込んでいるかも分からないため、一層警戒をするゼロ。するとその中の1人に明らかに異彩を放っている人物がいた。

二メートルはあるだろう長身にツンツンの青い髪、厚手のコートに咥えタバコ。男もこちらに気づいたようだ。ゆっくりこちらに向かって歩いてくる。


「あの方って確か……」


レイアも気づいたようだ。ケイトは心当たりがないようで、きょとんとしている。


「よぉ久しぶりだなゼロ、お嬢ちゃん。おっと一人見ねぇ顔のおちびちゃんがいるな」


行きなり現れて失礼な大人だな、と睨むケイト。


「私はケイト、おちびちゃんじゃない」

「そいつは悪かったな、おちびちゃん」


ぶーとふくれるケイト。だが確かにただ者ではないらしい。それはこの男の纏うオーラと、彼を見るゼロの様子を見れば明らかだ。


「フェンリー、お前にはいくつか聞きたいことがある」

「まぁ、こんなところで立ち話もなんだ。俺の家にでもこいや。ここは俺の故郷だ」


そういってフェンリーは3人をベルシカへと案内する。その道中、急に立ち止まったフェンリーは、思い出したかのようにケイトに振り向く。


「て、お前はよく町で魚を盗み食いしてるガキじゃねぇか。いつもはもっと小汚ないから気づかなかったぜ」


そういってフェンリーはケイトにデコピンする。あいた!とデコを押さえてフェンリー睨み付けるケイト。ゼロとレイアに助けを求めるも、お前が悪いと言いたげな視線を送られるだけだった。


フェンリーの家は人通りの少ない町外れにあった。外装はけして派手ではないが、貧相といえるほど質素でもなかった。家の中はタバコの臭いが満ち溢れており、ケイトは不機嫌そうだ。


「まぁ、言いたいことは大方予想がつく。俺が組織を抜けていながら、なぜ追われていないかだろ?」


フェンリーは椅子に腰掛け語り始める。


「俺は組織とは違う、別の組織に属している。組織に対抗するための組織だ。規模もそれなりにある。連中もそう易々と手出しは出来ないって訳だ。なんならお前も入るか?」


フェンリーはまるで断るのが分かっているかのように軽く誘う。


「論外だ。所属を変えたところで意味はない。その組織が新しい組織になるだけだ」


ケイトも同じ気持ちのようだ。


「まぁ、無理強いはしないぜ。決めるのはお前だ。だが忘れるな、俺は敵じゃねぇ。ま、味方ともいえないがな」


そういってフェンリーは3人に食事を用意する。レイアは目を輝かせ、ケイトはよだれをすすっている。今晩はフェンリーの家に泊めてもらうことになった。


「あいつは信用ならない。乱暴だし、臭いし、嫌いだ」


そういって逃げようとするケイトを押さえつけるレイア。疲れて眠るまで話し相手になった。組織のこと、おばあちゃんのこと、ゼロのこと。たくさんの話をしてよりケイトの事を知られて喜ぶレイア。ケイトもケイトで言いたいことをたくさんしゃべって大満足だ。


ゼロはフェンリーと居間にいた。


「俺たちと一緒に来てくれないか」


ゼロが話を切り出す。フェンリーの強さは、身をもって知っていた。彼が付いてきてくれれば、よりレイアを守りやすくなる。だがレイリーは首を縦には降らない。


「お前が俺の仲間になることはあっても、俺がお前の仲間になることはない。つまりノーだ」


フェンリーは、フーと煙をはく。フェンリーの意志が固いとみると、ゼロもそれ以上は聞こうとしない。それでもゼロはフェンリーに頭を下げる。いつもの癖で見張りに向かおうとするゼロだが、フェンリーがそれをとめる。


「安心しな。この町には俺の仲間が大勢潜んでる。組織の連中が忍び込んだらすぐにでも知らせがくるさ」


それでも寝ようとはしないゼロを半ば強引に部屋に押し込め、フェンリーは再びタバコに火を付ける。煙と微かな塩の香りが心地よく漂い、ベルシカの夜は更けていく。

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