episode 208「格上」
ジャンヌの視界からはゼロ以外のすべてが消え去っていた。
(何者かしら。今までであった誰よりも暗い心を持っているわね)
ゼロも目の前の女剣士に目を奪われていた。
(コイツがローズの姉か。よく似ている。だが、実力は比べ物にならない)
ジャンヌから醸し出される強者のオーラに気圧されそうになるゼロ。気を抜けば押し潰されてしまいそうだ。
(手加減は出来ない。戦えばお互い無事ではすまないだろうな)
銃を握る手に力が入るゼロ。それを見たジャンヌが先に動き出す。ジャンヌの動きに合わせて銃を発砲するも、簡単に避けられて距離を詰められる。
「一応忠告はしたから恨まないでね?」
鋭い突きがゼロを襲う。
「くっ!」
慌てて体を反らすも、無傷で避けることはできず、左腕にダメージを負う。
「あら、素早いのね。一応貫くつもりだったのだけど」
「確かに一筋縄ではいかないな」
余裕たっぷりの表情を見せるジャンヌ。ゼロは冷や汗を流す。
「やっぱあの女、化物だ! ゼロ様ですらあしらってる!」
スパーダが悲痛の表情で叫ぶ。
「だが俺たちでは時間稼ぎにすらならない。ゼロが相手をしている今のうちにアンを奪還する! あの長髪の剣士を倒すぞ!」
イバルはレミィ、バルト、スパーダに声をかけ、アンを見張っているガイアへと突っ込んでいく。
「来るか、賊ども」
ガイアも迎え撃つ気でダインスレイヴを構える。それを見たアンはイバルたちに叫びかける。
「駄目です皆さん! その剣は!」
ダインスレイヴは禍々しいオーラを放ち、新しい獲物を狙っている。イバルたちは恐怖と焦りでそれに気づいていない。アンの叫びも助けを求めているようにしか聞こえていないようだ。
(どこの誰だか知らないが、今お前たちに構っている余裕はない。悪いが死んでもらう)
ガイアがイバルたちを殺そうと剣を突き出したその時、ガイアとイバルたちとの間に氷の壁が出現する。ダインスレイヴは氷に飲み込まれ、その氷はガイアの腕にまで這いよってくる。仕方なく剣から手を離すガイア。
「何だこれは」
イバルたちの後ろからフェンリーが姿を現す。
「よう、ここまでにしようぜ。組織を前にして戦力を削るのはもったいねぇ」
「……お前たちは何なんだ。何しに来た」
剣を失ってもなお戦意は衰えず、いきなり現れたフェンリーに対して敵意を抱くガイア。
「俺はフェンリー。俺たちは敵じゃねぇ。俺たちも組織をねらってる」
「フェンリー? どこかで聞いた名だな」
ガイアは思い出した。かつて弟マークと共に帝国軍元帥イシュタルと戦っていた男の名、それがフェンリーだった。
(と、するならば……あの男がゼロか)
ガイアはジャンヌと戦っているゼロの姿を見つめる。
「フェンリーか! それにワルター、ジャック、クイーンまで!」
レイア、ケイトと共に避難していたオイゲンが騒ぎを聞き付けて姿を表す。
「オイゲンか。やっぱお前が案内したんだな、ってケイト!?」
オイゲンの後ろにいるケイトを発見するフェンリー。
「ひさしぶり」
「お前、心配したんだぞ!」
ケイトに駆け寄り、頭をつつくフェンリー。ワルターもやって来る。
「ケイト、無事でよかったよ。兵士たちに保護してもらったんだね?」
「ごめん。で、なんでレミィたちも居るの?」
イバルらに気が付くケイト。緊張が走る。
「お前を助けに来たんだよ! もうその必要は無さそうだけどな!」
バルトがケイトのもとにやって来る。
「何が狙いなの?」
警戒するケイト。
「気持ちはわかるけどよ、俺たちはもう決めたんだ。お前に手は出さねぇよ」
ケイトに告げるバルト。簡単には信用できないケイト。そんな疑心暗鬼なケイトの後ろから勢いよく飛び出してくるレイア。
「ゼロさんは! ゼロさんはどこですか!」
辺りを見渡すレイア。すぐにジャンヌと戦うゼロの姿を発見する。
「ゼロさん!」
ゼロに叫びかけるレイア。ジャンヌとの戦いに集中していたゼロの耳に懐かしく、心地いい声が飛び込んでくる。
「レイ……ア?」
ゼロの緊張の糸が切れる。ジャンヌはその隙を見逃さない。
「どこ見てるのかしら? 一応戦いの途中だけど?」
「しまっ!」
ジャンヌの剣が無防備なゼロの体に襲いかかる。




