episode 207 「かたき」
アンとガイアの戦いは、もはや戦いではなくなっていた。
剣の腕では圧倒的に劣るアン。体中に傷を作りまくる。だがいくら傷ができてもアンは止まらない。たとえ致命傷と呼ばれる傷だったとしてもだ。
辺りは血で赤く染まり、地獄の風景と化していた。ケイトとレイアは目を覆い、オイゲンでさえも言葉が出ない。
七聖剣ダインスレイヴ。聖剣とは名ばかりの呪われた邪剣。使った者も使われた者も命を吸われる。この剣を手にしてからガイアは一体一の戦いで破れたことは一度もなかった。だが今回は戦いが終わるようすがない。
「いいですねあなた! 強い強い! その剣もいい感じに終わってます!」
アンは愉快に嗤う。ガイアは笑えない。
いくら攻撃し、いくら切り刻んでも、いくら血を吸いとっても、アンの命は終わらない。加護がアンを生かし続ける。
十闘神アテナ。彼女から授かった加護は不死。アンの命は文字通りアテナの手に握られており、いくら肉体が傷つけられようともアンの動きが止まることはない。命と同時に感覚の大部分も奪われており、感情も不安定になっていた。
戦いが長引けば長引くほどガイアは不利になっていく。アンのスタミナは無尽蔵、それに対してガイアのスタミナはダインスレイヴに吸われ続け、枯渇していく。実力が劣るとはいえ、アンの剣は決して素人のものではない。当然いつかは戦況が逆転する。
「ガイア、きりがないわ。とりあえず動きを封じましょう」
しばらく観戦していたジャンヌが動き出す。そう言うなりアンに向けて突っ込むジャンヌ。
「来ましたね! さあ殺し……」
言い終わる前にアンの右腕が宙を舞う。
(速い! 全く反応できない!)
間髪いれずに左腕も切り離される。アンは抵抗できずに血を撒き散らす。とんだ腕をあっけにとられるロナンとボンズに預ける。
「ロナンは右、ボンズは左。一応気を付けなさい。動くから」
ジャンヌの言葉通り切り離されたアンの腕はうねうねと蠢いていた。
「うおっ気持ち悪いぜい!」
ボンズは腕を踏みつける。ロナンも預かった腕を更に細切れにして動きを封じる。
アンは次第に不機嫌になっていく。不利になったからではない。楽しめなくなったからだ。
「つまらない、つまらないです。せめて片腕は残しておいてくださいよ。コレじゃ剣が握れません」
「そう、ならこれからもっとつまらなくなるわ」
普段ののほほんとした顔ではなく、鋭い目付きでアンを睨むジャンヌ。さらに足を切り裂こうとするが、不穏な気配を察知して辺りを見渡す。
(まだ敵が隠れているようね。そのまま隠れていればいいのに)
アイコンタクトで部下に指示をだし、気配のする方を探らせるジャンヌ。再びアンに向かおうとするが、部下の悲鳴でまたしても遮られる。
「どうしたの?」
アンをガイアに任せ、悲鳴の聞こえた方へと進むジャンヌ。そこには気絶している部下の姿があった。
「それで? あなたたちは何者かしら?」
ジャンヌの言葉に反応して飛び出す男たち。
「教官の敵、とらせてもらう!」
「イバル!?」
アンが声を上げる。現れたのはイバルら四人だった。
「教官? ああ、あのときの子達ね。一応覚えているわ。でも彼を殺したのは私じゃないわよ?」
いとも簡単に四人の攻撃をよけるジャンヌ。
「そんなことはどうでもいい。お前さえいなければ……レミィ、お前はアンを救出しろ!」
「わかった!」
レミィがアンの方へとかけていく。
「ガイア」
「了解」
ガイアに指示を出すジャンヌ。
「通してはくれないみたいね」
「当たり前だ」
レミィの前に立ちはだかるガイア。
ジャンヌを三人がかりで止めようとするイバルだったが、ジャンヌは三人のことは見てすらいない。
「さっきの気配はあなたたちじゃないわね。他にも居るんでしょ? 三人……いえ、四人かしら?」
どこかへ呼び掛けるジャンヌ。
「いや、五人だ」
ゼロが飛び出し、ジャンヌに銃を突きつける。ジャンヌも素早く反応し、ゼロに剣を突きつける。
「あら、そうだったの。かくれんぼが上手なのね」
「そのくらいにしておけ。もう充分だろう」
アンの無惨な姿を見てジャンヌを睨み付けるゼロ。
「止めたいのならかかってきなさい? 一応命の保証はしないけど?」
「上等だ」
ジャンヌとゼロが火花を散らす。




