episode 206 「不信感」
組織のある小島に到着したゼロら九人。上陸してすぐに見たことのない船が停まっていることに気が付く。
「何かしらあれ、まさか組織が援軍を……」
「いや、あれは」
警戒するクイーン。唯一なんの船だかわかったワルターが先に船を降りる。
「気を付けろよ。いきなり敵が飛び出してくるかも知れないぜ?」
フェンリーが当たりを見渡す。
「ああ。気配はない。大丈夫さ」
船へと近づき、それは確信へと変わる。
「やっぱり。ジャンヌ中将の船だ」
ジャンヌの名前が出て顔色が変わるイバルら四人。
「どうした?」
ゼロが尋ねるもイバルは答えない。スパーダは尋常じゃないほど震えている。
「居るのね。あの女が」
ようやく口を開くレミィ。レミィの顔も恐怖に満ちている。
「知っているのか?」
「ええ。彼女は私たちが出会った人物の中でもっとも恐ろしく、もっとも強かった。おそらくその実力はアーノルト様と変わらないわ」
レミィはジャンヌと戦ったときの事を思い出す。正格にいえば戦いにはなっていなかったが。
「そうか、君たちは中将にやられたのか。それは災難だったね。彼女は帝国軍五本指に入る実力者さ」
船に戻ってきたワルターがイバルに声をかける。イバルは何も答えない。
「ジャンヌとは一体何者なんだ、なぜここに居る?」
ゼロがワルターに尋ねる。
「おそらく元帥殿だろう。あの人は直接アーノルトと戦ったからね。ようやく組織の驚異に対して行動を始めたんじゃないかな」
ジャンヌに加え、イシュタルまでもがこの場に居る可能性が出てきたことで一気に安心感に満たされるワルター。
「だがこの場所はどうやって……」
「ニコルかオイゲンにでも聞いたんじゃないかな」
「無事だといいが」
浮かない顔のゼロ。確かに一度は敵対したもの同士だ。二人が無傷でいられる保証はない。
「安心してくれ。元帥殿はそこまで非情な御方ではない」
確かにワルターとフェンリーの傷を直してもらった事実もある。
「だけどよ、そのジャンヌとやらは大丈夫なのかよ。俺たちと例え目的が同じでも、俺たちが組織の人間だとわかったら襲いかかってくるかもしれねーぞ!?」
ジャックが横から話に割り込んでくる。ゼロたちと違い、帝国軍と全く関わりがないジャック。抱いている感情はイバルたちと大差なかった。
「それは大丈夫さ。彼女は俺のよく知った人物。もちろんゼロ、君たちもよく知っているはずさ」
そう言うワルター。だがゼロたちに全く覚えはない。
「何言ってんだ? 知らねぇぞそんなやつ」
「確かに中将自体は知らないかもしれない。だけどローズ大佐やリザベルト中尉のことは知っているだろう?」
頭を掻くフェンリーに答えるワルター。
「あ? それとなんの関係が……」
「まさか……」
フェンリーより一足早く事実にたどり着くゼロ。
「そう。彼女の名はジャンヌ・ヴァルキリア。帝国軍中将にして帝国三剣士の一人、そしてローズとリザベルトの姉さ」
九人は島へと上陸する。すっかり安心したゼロ、ワルター、フェンリーの三人。そして若干の警戒を見せるジャックとクイーン。警戒を一切緩めないイバルら四人。
先を進むゼロら三人は進んですぐに目を疑う光景に出くわす。
「おい、これってまさか」
「それも一体じゃないね」
「ああ。間違いないゲイリーだ」
残りの六人も辺りに散らばったゲイリーの破片をまじまじと見つめる。訓練生の四人は初めて見たようで、理解が追い付いていない。ジャックとクイーンもゲイリーが多数存在していたこと、そもそも機械仕掛けだったことも知らなかった様子だ。
「機械だと言うことを知った時から複数存在することは予想していたが……実際に目の前にすると圧巻だな」
散らばっているゲイリーは十体近くありそうだ。
「それもそうだが、問題はそこじゃねぇ。俺たちがコイツ一体倒すのにどれだけ苦労したと思ってんだ。ジャンヌってやつはホントに化物か?」
フェンリーが冷や汗をかく。
「どうやらそれだけじゃなさそうだよ」
ワルターがなにやら干からびたものを発見する。その周りに集まる八人。
「これは……まさか」
「ヴァベル様!」
ゼロを遮って反応するスパーダ。それはまさに組織のエージェント、ヴァベルだった。体から血がすべて抜けているようで、ミイラのようになっていた。
「ワルター。ジャンヌに加護はあるのか?」
「いや、聞いたことないけれど」
険しい顔になるゼロ。
「皆警戒しろ。この島で何かが起きている」
ゼロたちはゆっくりと島の中心地へ進んでいく。




