episode 205 「決戦の前」
組織と帝国軍が死線を繰り広げている島まではそう遠くはない 。今日中には着きそうだ。スパーダはすっかり機嫌を直し、むしろ彼らエージェントたちと一緒の船に乗っている事に興奮しっぱなしだった。中でもジャックには非常になついていた。
「ジャック様! 俺にも銃の扱い方を教えて下さいよ!」
スパーダは極度の先端恐怖症で、剣を突きつけられると動きが止まってしまう。自分で扱うことも出来ないので、普段は拳で戦っていた。以前は銃に手を出したこともあったが、あまりの下手さに断念していた。
そんなスパーダにとって、銃の扱いに長けたゼロやジャックは憧れの的だった。
「気持ちはわかるけどよ、そんな付け焼き刃じゃ、かえって危険だぜ?」
若干めんどくさいジャックは、それっぽい事を言ってスパーダを拒絶する。
「それもそうかもしれませんが……ゼロ様!」
ジャックから断られたスパーダ。めげずに今度はゼロに声をかける。
「……様はやめろと言っている。俺は人に教える気はない。ジャックの言うとおり自分に合った戦い方をしろ」
「はい! 了解です。ゼロ様、ジャック様!」
二人から言われたスパーダは素直に言うことを聞く。
イバル、バルト、レミィの三人はワルターの軍服を見つめていた。
「なんだい? 俺に何か用でもあるのかい?」
それに気がついたワルターが三人に尋ねる。どうやらあまりいい感情は向けられてはいないようだ。
「その服、あなた軍人よね? 本当に組織の人間なのかしら?」
彼女ら訓練生にとってワルターの身に付けている軍服はまさに悪魔の衣装だった。
「ああ。そうさ。もっとも今は裏切り者だけどね。君たちはこの服に見覚えがあるのかい?」
ワルターの言葉に、忘れたはずのティーチの顔が浮かぶ三人。
「ええ、嫌というほど」
うつむくレミィに何かを察したのか、すぐさま謝罪するワルター。
「すまなかったね。仲間が君たちに迷惑をかけたようだ。でもわかってほしい、彼らには国を守るという仕事があるんだ」
「ええ、そうね。わかっているわ」
そう答えるレミィだが、顔はうつ向いたままだ。イバルとバルトは何も答えない。
「そうかい? 君たちには申し訳ないけど俺はこの服は脱がないよ。俺は兵士としても組織を壊滅させたい。国を守りたい」
ワルターはレミィたちの気持ちを知りつつも、自分の意思は貫き通す。
「いいわ。私たちもあなたたちの友人を傷つけてしまっていることだし」
フェンリーとゼロとクイーンは甲板で水平線を見つめていた。
「ワルターから聞いたがよ、お前よく耐えたな。レイアを傷つけられたんだろ?」
フェンリーは一服しながらゼロに話しかける。
「レイア? 誰それ?」
クイーンが興味ありげに話に乗っかってくる。
「お前には関係のない話だ、クイーン」
ゼロは素っ気ない態度をとる。怒ってはいるようだ。
「なによ、私だけ仲間外れにしようってわけ?」
「ゼロのコレだ」
ふてくされるクイーンに、小指を立ててみせるフェンリー。
「あら」
小バカにしたような態度を見せるクイーンを睨み付けるゼロ。
「そんなものではない。ただ、俺はレイアに笑っていて欲しいだけだ」
「そう、片思いってわけね」
よりいっそうクイーンを睨み付けるゼロ。
「あーこわいこわい。私は退散させてもらうわ」
そう言ってクイーンは船室へと入っていく。
遠くを見つめるフェンリー。ふとゼロに語りかける。
「……怖くねぇのか? 組織の連中と戦うことが」
「怖いさ。レイアを失うことがな」
思わず吹き出すフェンリー。
「はは! そうでなきゃな!」
水平線の彼方に島がうっすら見えてくる。
「よっしゃ! 気合い入れてこうぜ!」
手を上げるフェンリー。ハイタッチをしようとしているようだ。
「……届かんぞ」
そう言って通りすぎていくゼロ。その口元は戦いの前だというのに明らかに緩んでいた。




