episode 204 「恐怖と憧れ」
クイーンはなんとか一命をとりとめたものの、ひどく気分が悪かった。単純に体調が優れないのもそうだが、自分の事を忘れ組織の人間と手を組んだことに対して腹が立っていたのだ。
イバルたちを睨み付けるクイーン。
「アンタらがティーチの部下ってわけ? 随分と弱そうね」
「よさないか。彼らは指導者と仲間を失ったんだ。気弱にもなるさ。それに彼らは君の命の恩人じゃないか」
無神経なクイーンをワルターが注意する。
「……そうね。助かったわ」
クイーンがイバルたちに手を差し出す。その手をイバルがとる前にスパーダが勢いよく握りしめる。
「か、感激だ! クイーン様と会話が出きるなんて!」
「く、クイーン様?」
スパーダはゼロの時と同じようにひどく感動し、涙を流しながらクイーンの顔を見つめる。
「ゆるしてあげて、スパーダは極度のエージェントオタクなの」
レミィがフォローに入るが、クイーンはまんざらでもない様子だ。
「ま、まあいいわ。仲間は多い方が良いものね。仲良くしましょう」
クイーンがスパーダに微笑みかけると、すでにそこにはスパーダの姿はなかった。
「組織最速で凄腕のガンマンジャック様! 御一緒できて感動です!」
「お、おう」
スパーダはいつの間にかジャックの手を握って話しかけていた。
「……やっぱりコイツムカつくわね」
まだ組織に入って間もないワルターと、すでに組織を抜けているフェンリーのことは知らないようで、その事をスパーダに伝えると驚き返って急いでメモをしていく。
「素晴らしい……ですがなぜ皆様がお揃いに?」
疑問を口に出すスパーダ。その事についてはイバルたちも気になっているようだ。
「なんだお前ら聞いてねぇのか?」
フェンリーが自分たちの目的を語り出す。それを聞いた彼らの反応はお馴染みのものだった。なかでもスパーダの驚きは郡を抜いていた。
「ははははは! ムリムリ無謀! どうかしてる!」
笑い出すスパーダ。目の照準が合っていない。
「同感。アーノルトってあのアーノルト・レバーでしょ? なら作戦は取り止めね」
レミィも諦めムードだ。
「ケイトはどうするんだ? 教官との誓いは?」
バルトが尋ねる。
「レミィ、スパーダ。もちろん俺も同意見だ。アーノルトがいるのなら作戦成功率はほぼゼロだ。だがゼロたちがいる今がチャンスともとれないか? そしてこんなチャンスは二度と回ってこないだろう。教官との誓いを果たすには今しかない。だろう?」
「さすがイバルだぜ!」
イバルがスパーダとレミィを諭し、それにバルトが賛同する。
「それはそうかもしれないけれど……」
レミィが下を向く。スパーダは話がまともに頭に入っていかない。
「イバル、アンタの話はいつも正しい。だけど今回は別だ! 相手はアーノルト様だ!」
スパーダはイバルに対してわめき散らす。それほど彼にとってアーノルトは絶対的な存在だった。
「では残念だがお前は置いていく。俺は覚悟を決める」
イバルはスパーダに告げる。スパーダは何も答えない。イバルはスパーダを残して船に乗り込む。レミィとバルトもそれに続く。
「……いいのか?」
暗い顔をするイバルに尋ねるゼロ。
「俺が何を言ってもスパーダは聞かないだろう。俺が言ってもな」
そう言って通りすぎていくイバル。ゼロは少し考え、小さくため息をつく。
「スパーダ」
ゼロは機嫌の悪そうなスパーダに声をかける。
「何ですかゼロ様。早く行って下さい、俺は行きたくありません」
スパーダの態度もどこか素っ気ない。
「お前の力が必要だ」
「へ?」
ゼロからの言葉に思わず聞き返すスパーダ。
「お前の力を貸してほしい」
「俺がゼロ様に?」
スパーダの顔がみるみるうちに明るくなっていく。
「俺と一緒に来てほしい」
「喜んで!」
元気のいいスパーダの返事に思わず吹き出すイバル。レミィもバルトもクイーンもみんな笑っていた。ゼロでさえ口元がぴくついている。
「よっしゃ! 出航だ!」
フェンリー船長の掛け声で、再び船は組織本部を目指して進み始める。ゼロはレイアと、イバルたちはアンと再開することになるなど、考えもせずに。




