episode 203 「決別」
イバルの案内で島を探索するゼロたち。それほど大きな島ではないため、目的地は直ぐに現れた。
「ここだ。仲間はここにいる」
手作りだろうか、そこには粗末な小屋が建っていた。小屋へと入っていくイバルとバルト、そしてレミィ。その中には一人の男が横たわっていた。外傷はほぼなく、まるで眠っているだけのようだった。
「スパーダ、聞こえているか? ゼロだ。本物のゼロだ。お前、憧れていただろう?」
イバルが眠っている男に声をかける。スパーダと呼ばれた男に反応はない。
「生きているのか?」
「ああ。だが目を覚まさない。帝国軍にやられた傷はほぼ完治している。原因は他にあるのかもしれない」
ゼロの質問に答えるイバル。
「ワルター、お前はどう考える?」
ワルターの方を振り向くゼロ。しかし次の瞬間にはワルターを連れてきたことを後悔する。
「俺はワルター。君は何て言うのかな?」
「レミィ……」
「レミィか! いい名前だね。俺たちと一緒に来ないかい?」
さっそく初対面のレミィを口説き始めるワルターに無言のプレッシャーを与えるゼロ。ワルターは全く気がつかないが、周りにいるイバルとバルトは恐怖で震える。レミィの様子もおかしくなり、ようやく気がつくワルター。
「なんだいゼロ。あまり怖がらせちゃ話が出来ないじゃないか」
不満な顔をするワルター。
「ワルター。お前は何をしに来たんだ。そもそもその女もレイアやリースを傷つけたんだぞ。よくそんな態度を……」
「ああ。だからこそ彼女たちを連れていって謝らせる。俺たちの都合で考えてはいけないよ。被害を受けたのは俺たちではなく、彼女たちなんだから」
微笑みかけてくるワルターに複雑な表情のゼロ。
「そうね。確かにあなたたちにまだ謝罪をしていなかった。ごめんなさい」
ワルターの言葉を受けて頭を下げるレミィ。イバルとバルトも同様に頭を下げて謝罪をする。
「……俺はもういい。必ず謝罪しろ、レイアたちにもな」
「ええ、わかったわ」
舌打ちをするゼロ。気持ちを切り替えて目の前の眠った男を見つめる。
「目覚めない理由に心当たりはあるのか?」
ゼロの質問に考え込むイバル。
「スパーダはもともと臆病な男だった。極度の先端恐怖症でな、剣を突きつけられただけで動けなくなるほどだった。だが今回はそんなことは関係なかったがな」
イバルはジャンヌと対峙したことを思い出す。
勝負はあっという間だった。剣を抜いたことすら二人は気づけなかった。顔を合わせた次の瞬間には、体から血を流して地面に倒されていたからだ。
「俺も未だに恐怖を拭い去れない」
ジャンヌの顔が脳裏に浮かぶ。
「剣が怖いのか……ならこうするのはどうだい?」
ワルターが提案する。
「本当にこれでいいのか!?」
バルトが思わず不安を口に出す。それについては他の面々も同意見だった。
ゼロ、ワルター、イバル、バルト、レミィの五人はそれぞれ剣を持ち、スパーダに突きつける。
「これだけ先端に囲まれれば恐怖で目覚めるんじゃないかい? 針のむしろならぬ剣のむしろ作戦さ!」
「こんなのでうまくいくわけ……」
ワルターの真剣な顔に呆れるレミィ。だが効果は直ぐに現れた。
「うぎゃぁぁぁぁ!」
叫び声をあげて飛び起きるスパーダ。
「スパーダ!」
「ぁぁぁって、イバル! あれ、みんな」
驚く一同。ワルターは満足そうに頷く。
「教官とアンは? ってあんた誰? ってゼロ様ぁ!?」
ゼロを見て更に叫び声をあげるスパーダ。
「騒がしい奴だな。少し黙れ」
顔色一つ変えずにスパーダを咎めるゼロ。
「スパーダ、お前には話さなければいけないことが山ほどあるぞ」
「なんだよ、イバル」
イバルはスパーダが気を失ってからの事を話し始める。話が終わったとたん、スパーダは涙を流す。
「そんな、教官が死んだなんて……それにアンまで」
「気持ちはわかるけどよ、今はケイトを助けることを考えようぜ?」
スパーダの肩に手を乗せるバルト。涙を拭くスパーダ。
「そうだな。ゼロ様がついてるなら百人力だ!」
「様はやめろ」
スパーダを含めた六人は小屋を出る。
「もうここには戻らない。俺たちは教官の死を乗り越えて先に進む」
イバルの合図で小屋を破壊する四人。全員ゼロとワルターに背を向けていたが、泣いているのは明白だった。
「待たせた。行こう」
ゼロたちの船へと急ぐ六人。そこには干からび寸前のクイーンがフェンリーの作り出した氷をなめて必死に命を繋いでいた。
「お! 戻ったか! で、水は見つかったか?」
ジャックが駆け寄ってくる。すっかりクイーンの事を忘れていたゼロとワルターはゆっくり後ずさりをして、イバルたちと共に先程破壊した小屋に戻って水を取ってきたのだった。




