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スティールスマイル  作者: ガブ
第一章 ゼロとレイア
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episode 20 「ケイト」

「次はヴァルキリア家に行こうと思います」


エレナの死後、初めて口を開いたレイアはゼロにそう告げた。


ヴァルキリア家は隣国モルガント帝国に位置し、代々軍人の家系だ。現在ヴァルキリア家には三人の娘が居り、全員が軍に属している。


「あてはあるのか?」


下を向くレイア。どうやらあてはない様子だ。


「とりあえず港を目指しましょう!」


元気に答えるレイア。だがその引きつった表情を見れば、エレナの死を引きずっていることは明らかだった。


(悲しいのは私だけで十分だから)


レイアの言葉を思い出すゼロ。悲しいのは間違いない。怒りが収まらないのも間違いない。それでもレイアは前を向いて歩こうとしている。


ゼロは思わず先を歩くレイアの手を握る。


「ふぁ!? どうしたのですか?」


突然の出来事に思わず謎の奇声をあげてしまうレイア。


「一人で悲しむことはない。俺にも半分分けてくれ。それが共に旅をするというものじゃないか?」


レイアは無言でゼロに抱きつき、そして泣いた。


ぐるるる~


泣いたらおなかがすいたのか、レイアのおなかが悲鳴をあげる。下を向くレイア。顔が真っ赤なのは泣いていたせいだけではないだろう。二人は近くの小さな村に寄ることにした。


到着した村の景気はいいとは思えなず、むしろ劣悪だった。人々は皆痩せこけ、若者も居ない。余所者の二人を快く思っていないようで、時折鋭い視線を感じる。


「あの、少し食べ物を分けていただけませんか? 勿論お金はお支払します」


農作業をしていた老婆に話しかけるレイア。老婆はこちらを少し見て、無言でまた作業に戻る。


「婆さん、聞いているのか ?食料を分けてほしい。一人分でいいんだ。頼む」


ゼロも頭を下げる。1人なら力ずくで奪うこともできるが、レイアの前ではそのような選択肢はあり得ない。


「失せな。こっちは自分達の分を確保するので手一杯なのさ」


冷たい視線を浴びせられたゼロは、それを聞くと無言で老婆に近づきくわを取り上げる。


「な、なんだい! 力ずくで奪おうってのかい! 上等じゃないか、ババア舐めんじゃないよ!」


老婆はこちらを見下ろすゼロに向かって拳を構える。が、ゼロが一歩動くと後ろに倒れ込んでしまった。それをすかさずレイアが受け止める。当たり前だがまだ傷は癒えていない。


「随分ふらふらじゃないか、ババアを襲う暇があったら寝てたらどうだい」

「指示を」


そういうとゼロは畑を耕し始めた。ゼロが弱っていると見て、強気に出ていた老人はポカンする。


「あ、あんた、手伝ってくれるのかい?」

「その代わり食料を頼むぞ」


レイアはにっこり笑ってゼロを支えつづける。


30分後、大方の作業を終え二人は老婆の家に招待されていた。村と同じように家は小さく質素で、貧しさを感じさせる。


「お一人で生活なされているのですか?」


レイアの問いかけに少し泥の混じった水を出しながら答える老婆。


「孫が一人いるわねぇ。ケイトっていうの。今、隣町に野菜を売りにいっているところよ」


すっかりゼロとレイアに心を赦した老婆が答えると、家の腐りかけのドアが開く。そこから現れたのは、ぼろ布をまとった少女だった。


「あらあら、噂をすればね」


余所者のゼロとレイアを警戒して睨み付けていた少女だったが、老婆の表情に安心したのか家の中へと入ってくる。


「だれ、こいつら」


老人の孫のケイトは、まだゼロを睨み付けている。


「農作業を手伝ってくれたゼロとレイアよ」


老婆の言葉に目を見開くケイト。こちらを見返してきたゼロの視線をひらりとかわす。


「ごめん。また、奪われちゃった」


ケイトはそういって空のかごを老婆に渡す。老婆はかごを受け取とると、ひとつも責めるようすなど見せずにケイトの頭を撫でる。


「怪我はないの? 怖くなかった?」


老婆の優しい言葉に後ろめたさを感じているケイトを、ゼロは見逃さなかった。


老婆の好意で泊めてもらうことになった二人。そのお礼としてレイアは自慢の手料理を披露した。萎びた野菜と色の変わった米しか無かったが、それでも老婆の笑顔を作るのには充分だった。


その夜レイアはぐっすりと眠り、ゼロは家の前で見張りをしていた。しばらくするとケイトが家の中から出てくる。ケイトは手にロープを持っていた。


「やはりお前はKか」


ゆっくりと背後にから迫るケイトに声をかけるゼロ。ケイトはそのままロープをゼロの首に回し、思いっきり引っ張る。が、ゼロが手にしていたナイフによって簡単にロープは切り裂かれる。今度は落ちている石を拾ってゼロに殴りかかるケイトだが、軽く避けられて手刀を浴びせられてしまう。


「ぐ! まだ!」


今度は捨て身で飛びかかってくるケイト。だが、10歳かそこらの少女の体当たりなど避けるまでもない。ゼロにぶつかって倒れたのはケイトの方だった。が、その際にゼロから奪ったナイフでさらに追撃を企てる。


殺意を全面に押し出してくるケイトに対し、ゼロはいたって冷静に話しかける。


「目的はなんだ? 流石に組織もお前のような格下にわざわざ死にに行くような指令は出さないだろう」


ゼロは完全に見下した目でケイトを見る。ケイトも勿論自分がいささか以上に劣っている事は理解していた。だが、やるしかなかった。


「確かに私は組織の殺し屋。だけどこんな子供にできる仕事は限られている。仕事がなければ食べることもできない」


ケイトの手に力がこもる。


「あのおばあちゃん、本当のおばあちゃんじゃない。私が盗み食いをして、捕まっていたところを引き取ってくれた」


ケイトはさらに力をこめる。


「そしてわたしは今でも、町に野菜を売りに行くと偽って、おばあちゃんの野菜を盗み食いしてる! きっとおばあちゃんも気づいている、気づいていて野菜を渡してくれている!」


小さい少女からはさらに殺気が放たれると、ゼロも見下すのをやめ、戦闘態勢に入る。


「あなたを差し出せばきっと組織から報酬が出る! そのお金で、私はおばあちゃんに恩返しする!」


飛びかかるケイト。その時ギイイと家の扉が開いた。


「どうしたんだい、騒がしいねぇ。おや?」


騒ぎを聞いて起きてしまった老婆に殺し屋としての姿を見られ、動きが止まるケイト。ゼロは丸腰で、自分はナイフを向けている。どう考えても言い逃れはできない。老婆も混乱した様子で、ナイフを持ちゼロに向けるケイトを見つめる。


「ナイフの扱いを教えていたんだ。こいつがあんたを守るために習いたいと言うものだから」


ゼロの言葉に安心した様子の老婆。


「ケイト。守ってくれるのも結構だけれど、できるだけ争いは避けるんだよ。あたしゃ大切な孫が傷つくのは見たかないよ」


そういって老婆は再び眠りについた。

ケイトは持っていたナイフを地面におとして、わんわん泣き出す。ゼロはナイフを拾い、代わりに自分の着ていた上着をケイトにかけ、その場を去った。


次の日、目を真っ赤にしていたケイトに驚きつつもなにも聞かない老婆。ケイトは上着をゼロに返す。もう殺意は出ていない。なにやら別の感情は向けているようだが。


「ゼロ、私もうやめることにする。だから、私もつれていって!」


そういってケイトは身支度をする。老婆はまるで分かっていたかのように穏やかな目で孫を見つめている。


「本当ですか!」


何も答えないゼロの代わりに、まるで妹ができたかのように喜ぶレイア。


「……覚悟はできているのか?」


拒みはしないものの、遊びではないことをわかっているか確認する。


「わかってる」


ケイトの覚悟は決まっていた。組織を抜ける以上安全なのはゼロのもとにいること。それはゼロもわかっていた。


「いってしまうんだね」


孫の背中に問いかける老婆。分かっていても、別れつらい。


「ごめん、おばあちゃん。私、やりたいことができたの。今までありがとう。ずっと元気でいてね」


ケイトと老婆は抱き合い、涙を流した。


しっかり別れを済ますとら3人は再びモルガント帝国を目指して旅立つ。老婆は残された僅かな食料をゼロたちに渡そうとするが、3人はやんわりとそれを断った。


「俺たちと一緒に来るということは命の保証はできないぞ」

「わかってる」

「ふふ、改めて宜しくね、ケイトちゃん」


レイアはケイトに手をさしのべる。ケイトはその手をとるものの、ギロッとレイアを睨み付ける。


「私、負けないから」

「???」


全く見に覚えのないレイアと、ゼロにしがみつくケイト。またひとつ新たな戦いが始まるのだった。


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