episode 196 「帝国の要」
大小様々なエネルギー弾が、亜空間から持ち主へと向かって飛んでいく。ゼクスは瞬時に同じ大きさのエネルギー弾を作り出し、相殺させていく。
「やるな。だがこれはどうだ?」
異空間の奥から重力の塊が姿を現す。ゼクスが作り出したミニブラックホールだ。
「クソが!」
ゼクスは全速力で駆け出す。ブラックホールは全てを飲み込みながら追いかけてくる。逃げながらエネルギー弾でイルベルトに攻撃を仕掛けるが、全てブラックホールに吸い込まれていく。
(チッ。これじゃブラックホールに質量を与えるだけだな)
ゼクスはエネルギー弾での攻撃をやめ、ナイフを取り出す。そしてブラックホールから逃げつつも方向転換し、イルベルトの方へと駆け出す。
「死ねや!」
だが、イルベルトとブラックホールに集中しすぎたゼクスはリラの存在がすっかり頭から抜けていた。彼女の操る石を避けることができず、後頭部に一撃を浴びてしまう。
「グギ!」
目の前に火花が散るゼクス。そのまま意識を失ってしまう。
イルベルトはブラックホールを再び亜空間へと閉じ込める。そしてゼクスを別の亜空間へと放り投げる。
「よし、お前はパーシアスの援護に向かえ。俺はリザベルトを捕らえる」
「わかったわ」
イルベルトは帝国六将軍のうち三人を蹴散らした。
パーシアスとマークは一進一退の攻防を続けていた。そこにリラの攻撃が加わる。飛んでくる針を避けた際、パーシアスの剣がマークの胸を切り裂く。後ろに飛び退き、胸を押さえるマーク。
(傷は浅い。だが出血が多い……長時間の戦いは難しいか……)
白い軍服を真っ赤に染めながら追撃に備えるマーク。だが絶好のチャンスだというのに、パーシアスは攻撃してこない。それどころか助けに入ったリラに近づき、怒鳴り付ける。
「リラ! 邪魔をするな! これでは俺がマークより上だということが証明できんではないか!」
リラはあきれた表情でそれに答える。
「バカじゃない? パーシアス、あなたは任務で来ているのよ? それわかってる?」
「くっ!」
憤りをぐっと飲み込むパーシアス。
「止めは俺が刺す。いいな?」
「だから殺すなって!」
リラは頭を抱える。
シオンの前にイルベルトが姿を現す。
「そこを退いてくれ。リザベルトに用がある」
「退かないよ! 知ってるでしょ?」
体はリラとの戦いでボロボロになっていたが、大切な友達を守るために拳を構えるシオン。
「そうか、なら俺も殺す気で行く」
イルベルトの両手から黒い塊が現れる。
「これに触れたものはどこかへ飛ばされる。行き先は俺も知らない。五メートル先かもしれないし、隣の国かも知れないし、宇宙の果てかも知れない」
「捕まんなきゃいいんでしょ!」
シオンは口から冷気を吐き出す。だが今回はリラのようにはいかない。冷気は塊に触れた瞬間、全てどこかへと消え去った。
「くっ!」
「見たところ近接戦が得意のようだが、だとしたら好都合だ。お前は俺に触れることはできない」
イルベルトの周りの無数の塊が出現する。
「さあ、好きなものを選べ。安全な出口を祈ってな」
「ずいぶんと情けない姿だな、ナルス少佐」
突然聞こえてきた男の声に警戒するイルベルト。
「元帥さん!」
シオンがその姿をとらえて声をあげる。
「ゼクスはどうした?」
「ゼクスとはあの眼鏡か? それともタイツか? はたまたローブか? いずれにせよ飛ばしてやった。亜空間にな」
シオンが答えるよりも早くイルベルトがイシュタルに告げる。
「そうか、ならばマークとリザベルトは無事なのだな。おおかたその二人を捉えにでも来たのだろう。貴様らにジャンヌとガイアが倒せるはずもない」
戦うマークと気絶するリザベルトを発見するイシュタル。
イルベルトはその老兵の姿に魅いられていた。
(さぞかし昔は高貴な騎士だったのだろう。だが今は所詮枯れかけの老いぼれ。あの世への道を用意してやろう)
イルベルトはシオンのために用意した塊をイシュタル目掛けて投げつける。
「元帥さん! 避けて! それに触れると飛ばされちゃう!」
「避ける? この儂が?」
イシュタルはエクスカリバーを抜き、塊を全て切り裂く。すると加護の力を受けた塊は、エクスカリバーの加護によって跡形もなく消滅した。
「貴様……まさかアーノルトを倒したという……」
とても老兵とは思えない動きを見せたイシュタルに話しかけるイルベルト。
「ほう、やはりあの男の仲間か。いかにも、儂はイシュタル。この帝国の要である」
それを聞いたイルベルトは自らの両サイドに亜空間を作り出す。
「パーシアス! リラ!」
二人の名前を叫び、空間から二人を取り寄せるイルベルト。
「何をするイルベルト! 今はマークとの交戦中だ!」
不満を口に出すパーシアス。
「待ってパーシアス。それどころじゃないようよ」
いつも冷静なイルベルトの横顔が苦痛の表情を見せているのに気がつくリラ。
「マークもリザベルトもあとだ。三人であの老人を殺す。気を付けろ、アーノルトを追い詰めた男だ」
イシュタルもそれに答えるべく構えをとる。
「いいだろう。相手をしてやる。ちょうどいい運動になりそうだ」
マークとシオンは手を出すのをやめ、リザベルトの救護に向かった。




