episode 193 「シオンVSリラ」
六将軍中佐のマークは、攻めてきた殺し屋の中の一人に見覚えがあった。
「お前……パーシアスか?」
殺し屋の一人、騎士風の男パーシアス。彼はかつて帝国軍の兵士に憧れ、希望を胸に抱いて帝都の門を叩いた。
身体能力は充分基準に達していたが、試験会場で気に入らない上官を半殺しにしてしまい、帝国から追放されてしまった。
「久しいな、マーク。六将軍か、ずいぶんと偉くなったものだな。嬉しいよ、お前を叩き落とすには充分な高さだ」
パーシアスは怒りと歓びの表情を浮かべ、剣を抜く。
「マーク、あの人知ってるの?」
「ああ。彼はパーシアス。かつて志を共にし、一緒に兵士を目指した友だ」
シオンの問いかけに答えるマーク。目の前のかつての友人に応戦すべく剣を構える。
「リラ、イルベルト。マークは俺が始末する。手を出すな」
「始末するな。生け捕りだ」
長身の男、イルベルトがパーシアスに注意するが、既にイルベルトはマークに向かって突っ走ったあとだった。
頭を抱えるイルベルト。
「仕方ない、俺は男どもを片付ける。リラは女どもを片付けろ。リザベルト以外は殺していい」
「了解」
二人の間に割り込むようにしてゼクスが攻撃を仕掛ける。
「誰を前にして話しこんでんだオラァ!」
間一髪で避ける二人。リラはそのままリザベルトに向かって針を飛ばす。
「大丈夫。殺しはしないわ。ただちょっと手足は穴だらけになってもらうけどね!」
無数の針がリザベルトに向かって飛んでいく。
「リズちゃんにそんなもの飛ばさないで!」
「がっ!」
リラの脇腹をシオンの拳が襲う。吐血しながら吹き飛ぶリラ。意識が揺れたせいで針は地面に落ちる。
「大丈夫? 怪我してない?」
リザベルトに駆け寄るシオン。
「助かった、ナルス少佐。だが……リズちゃんはやめてくれ」
「ごめんね。 でも今はそんな事いってる暇無いみたい」
リラが血を拭いながら起き上がる。いや、起き上がるどころかリラの体がふわふわと浮き始める。
「う、浮いてる!?」
「針を操る加護ではないのか」
驚愕する二人を見下ろすリラ。
「驚いた? 私の加護は念動力。簡単にいえば何でも浮かせて操れる。この腐った世界で生きていくためにネス様から授かった力よ」
両手を広げるリラ。無数の瓦礫がリラのまわりに集まる。
「ネス……知ってる? リズちゃん」
「ああ。十闘神ネス。力の序列は……十神中、第二位だ」
瓦礫が二人に向かって降り注ぐ。
「で? テメェは一人で俺らを倒す気か?」
ゼクスが自分達の前に立ちはだかるイルベルトに話しかける。
「我々の目的はマーク、及びリザベルトの拉致だ。お前には興味がない。邪魔立てしなければ助けてやってもいい」
悠々と語るイルベルトに対して怒りをあらわにするゼクス。
「よしよし、よーくわかった! テメェは死刑確定だコラァ!」
「マーク!」
怒り任せにパーシアスが剣を振るう。
「パーシアス!」
マークは背中からもう一本の剣を抜き、それを受ける。そして七聖剣ウォーパルンでパーシアスを狙う。
ウォーパルンの性質を知っているのか、受けずに避けるパーシアス。
「それが水の加護を受けし剣か。忌々しい! 確認されているだけで三本、七本中三本だ! なぜ貴様ら帝国軍だけが力を独占する!」
「貴様に語ることは何もない! 国を裏切った貴様には!」
瓦礫に埋もれたシオンとリザベルトを天から見下ろすリラ。
「死んでないわよね。そのために手加減したんだから」
瓦礫から顔を出すシオンとリザベルト。シオンは身体中打撲だらけで拳から血を流している。
「いったぁー! もうこんなの反則! 大丈夫、リズちゃん?」
「ああ。ありがとう少佐」
シオンとは違い、リザベルトはほぼ無傷に近い。リザベルトに襲いかかった瓦礫は全てシオンが叩き壊したのだ。
リザベルトが無傷であり、それをかばったシオンにもたいしたダメージが無いことに驚きを隠せないリラ。
「もう少し本気を出しても良さそうね」
リラが指をパチンとならすと、瓦礫が少しずつ集まり、大きくなっていく。
「あなたの拳と私の岩石、どっちが固いか勝負しましょ」
「ちょっとヤバイかも……」
直径三メートルはありそうな岩がシオン目掛けて飛んでいく。




