episode 191 「はちあわせ」
薄暗い部屋の中、エクシルはかつて無いほどの危機に頭を抱えていた。
エクシルは決して彼らをなめてかかっていたのではない。その証拠に体力、防御力、攻撃力その全てが組織トップクラスのゲイリーを十体も派遣した。だが認識が甘かった。たった一人の兵士に全て破壊されるなど、夢にも思っていなかった。
ヴァベルにしてもそうだ。ヴァベルは頭は弱いが腕は確かだ。残忍性も申し分ない。多対一も得意とし、殺害数はアーノルト、ゼロ、バロードに続く数を叩き出している。そのヴァベルが誰一人殺害できることなく、一対一で一方的に殺された。
ジャンヌとガイア。その二人の兵士の存在は、エクシルに多大な恐怖を与えた。だがしかし、ただ指を咥えて運に身を任せるエクシルではなかった。
「ジャンヌにガイアか……たしかワルターからの報告ではこいつらには兄弟姉妹が居るはずだったな。ふ、裏切り者の情報がこんなところで役に立つとはな」
エクシルはモルガント帝国、帝都モルガントに向けてエージェントを派遣する。
「おや? 君は!」
「げ、アンタらも行くわけ?」
ハウエリスの港。そこで五人は顔を合わせた。クイーンとの再開を喜ぶワルターと、アーノルトとの戦いから退いたため、気まずそうな表情を見せるクイーン。
「当然さ! アーノルトを、組織を倒さなければ平和は訪れないからね。ところで君たちはどうして戻ってきたんだい? サンはどうしたんだい?」
「いちいち説明するの面倒ね。アンタたちには連絡来てないわけ?」
めんどくさそうにエクシルからの連絡を見せるクイーン。
「なるほどね。エクシルにとってはアーノルトの敗走がよっぽどショックだったんだね。無理もない、エクシルは元帥殿の力を知らないんだしね」
「その元帥殿ってのはそんなに強いのか?」
興味津々で尋ねるジャック。ジャックにとってもアーノルトが負ける事態は想像できなかったからだ。
「強いなんてもんじゃないさ。ゼロは洗脳され、俺は腕を落とされ、フェンリーにいたっては一度殺されてるからね」
笑いながら答えるワルターにドン引きするジャックとクイーン。
「お前らも大変だったんだな……」
ワルターの肩に手を置くジャック。
「そうか、帝国軍と組織が戦争ね。なんで元帥殿は俺に声をかけてくれないんだ」
ジャックたちから改めて話を聞き、落ち込むワルター。
「で、お前たちはそれに便乗しようってのか。一度逃げておきながら」
「何とでも言えや。俺たちにも守りたいものがある。これは最後のチャンスなんだよ」
あまり良い気持ちじゃないフェンリーに拳を握って答えるジャック。
「ならば行くぞ。これが最後の戦いだ」
ようやく口を開いたゼロ。五人は組織本部の小島を目指すため、船を探す。
「って、一隻も無いじゃない!」
船着き場に着いて開口一番クイーンが口を開く。船は全て出払っているようで、港はがらんとしている。
「まさか泳ぐ気か? 正気の沙汰とは思えないぜ? 島までなんキロあると思ってんだ?」
「俺に任せとけ」
ジャックの型に手を置き、船乗りの男のもとへと歩き出すフェンリー。
「何だ? 金でも握らせる気か?」
「君たち彼と一緒で運が良かったね」
フェンリーは男と話をつけ、すぐさま戻ってきた。
「ちょっと待ってろ。船はすぐ来る。もちろん貸しきりだぜ」
フェンリーの言葉通り船はほどなくして港にやって来た。
「助かったぜ」
「いえいえ、フェンネスさんの頼みを断ったら海で生きてはいけませんよ」
フェンリーは船乗りに礼を言い、船に乗り込む。それに続くゼロとワルター。フェンリーが元海賊ということを知らないジャックとクイーンは何が何だかわからないという様子で立ち尽くす。
「早く来いよ。おいてくぜ」
フェンリーは出港の準備をもくもくと進める。本当に置いていかれるかもしれないと焦った二人は急いで船に駆け込む。
「ちょっと待ちなさいよ! あとでちゃんと説明してもらうからね!」
不満を撒き散らしながらクイーンが船に乗り込む。
「助かったぜフェンリー。ゼロもワルターも便りにしてるぜ!」
意気揚々とジャックが乗り込む。
フェンリー操縦のもと、五人を乗せた船は組織本部の小島を目指して出航した。




