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スティールスマイル  作者: ガブ
第一章 ゼロとレイア
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episode 19 「愛」

ゼロは渾身の一撃をはなったつもりだったが、思ったよりも自身のダメージが深刻らしく、くらったレイリーにそれほどダメージはない様子だ。だが、作業の邪魔をされたレイリーの怒りは大きかった。


「ゼロ、ねぇさんの次は俺の邪魔をするっていうのか。つくづく腹立たしいヤツだな」


レイリーは標的をレイアからゼロに変更する。ゼロも銃を握りしめ迎撃するが、なかなか弾が当たらない。


「どこ狙ってんだよ、死に損ない」


レイリーのナイフがゼロの顔目掛けて襲いかかる。辛うじて直撃は避けるものの、頬にぱっくり傷がつく。


正直なところゼロは限界だった。ジャック戦で負った傷もまだ完治しておらず、血液はどんどん流れ落ちている。自分が死ねばレイアも死ぬ。ただそれだけがゼロを動かす原動力となっていた。


「楽に死ねると思うなよ、ゼロ。貴様を剥製にする気はない。存分にいたぶって、瀕死の状態でねぇさんに渡してやる。そして貴様の苦しみ顔をたっぷりねぇさんに届けるんだ」


興奮状態ながらも、レイリーは正確にナイフを投擲してくる。それはゼロだけでなく、レイアの方にも向かっていく。レイアの方向に向かって避けたゼロは、そのまま腕を伸ばしてレイアに刺さるはずのナイフを自らの体でガードする。


「必死だなゼロ。ねぇさんに渡す前に死んでくれるなよ」

「よくしゃべるな。舌を噛むぞ」


どう考えてもゼロの体は限界だ。そんな死にかけのゼロの言葉にカチンと来るレイリー。余裕の表情が堪らなく憎たらしい。


「貴様は言葉を選らんでしゃべろ。どれが最期の言葉になるかわからないからな」


怒りを全面に押し出すレイリーだが、それでもゼロの事を侮ろうとはしない。自分自身の力が劣っているとは毛ほどにも思っていないが、ゼロの実力は腹立たしいながらも認めていた。何より姉のお気に入りだということがゼロの強さを証明していると感じていた。



血の臭いがする。レイアはうっすらと目を開けた。最初に目にはいったのは血だらけのゼロ。慌てて側によろうとするが、先にエレナの姿が見当たらない事に気がつく。よくみるとムースもいない。嫌な予感がする。


「無事か、レイア」

「ゼロさん、エレナはどこですか?」


ゼロの言葉に質問で返すレイア。その表情を見て思わず言葉を詰まらせるゼロだが、ただ一言だけ答える。


「……済まない」


済まない? それはどういう? 頭が混乱するレイア。恐怖と不安に満ちた表情を浮かべるレイアを見たレイリーは、ムースのようにゼロを嘲笑う。


「はっきりいってあげたらどうだ? エレナはねぇさんが殺して、どこかにつれていっちゃいましたとな」


レイリーの言葉で、レイアの思考は停止する。言葉の意味を受け入れられない。嘘だと否定してもらう為、ゼロの方を見るが、ゼロは無言で目をそらす。


エレナは死んだ、紛れもなく。レイアはそう確信する。


「ゼロさん、エレナは死んだんですね? 苦しんでませんよね?」


せめてもと、レイアは涙を必死にこらえてゼロに尋ねる。


「ああ。安らかに逝った」


そう告げるゼロ。実際は苦しんだだろうが、とてもレイアにそう伝えることはできない。

涙がこぼれるレイア。もうエレナは居ない。大切な友達だったエレナは居ない。レイアは涙を拭くとキリッと前を向き、レイリーに問いかける。


「悲しくないのですか? あなた方の妹なのでしょう?」


意味が分からないといった表情を見せると、レイリーはいたって真面目に答える。


「なぜ妹なら悲しまなくてはいけない? 俺がこの世で大切なのはねぇさんだけだ。ただ血が繋がっているだけで、そこに情は存在しない」


レイアは唇を噛み締める。薄々感づいてはいたものの、実際に言葉にされると堪らなく胸が締め付けられる。


「許せない……」


レイアは落ちているナイフを拾い上げる。まだダメージが残っているのか、体はガタガタ震え足はおぼつかないが、はっきりとレイリーに敵意を向ける。


「おいおい。頼むから大人しくしておいてくれレイア。傷付けたく無いって言っているだろう?」


そういいつつもレイリーはレイアに向かって殺意を放つ。たとえ道端の石ころ程度の戦力だとしても侮ることはない。


「エレナの仇!」


レイアは怒りの形相でナイフをも持つと、レイリーに向かって突撃する。


「仇は俺じゃなくてねぇさんだって」


レイリーもゼロに警戒をし続けながら迎え撃つ。

ゼロは必死に体を起こし、二人の間に割って入る。レイアを傷つける事も、レイアが誰かを傷つけてその心が傷ついてしまうことも許せない。


「レイア、お前がそんな顔をするな! エレナを救えなかったのは俺の責任だ! 責任は俺が果たす!」

「ゼロさん!」


レイアはゼロの想いに応え、握りしめたナイフと怒りをゼロへと託す。それをしっかりと受け止めたゼロは、再びレイリーに立ち向かう。


「責任は俺が果たす、か、なかなかいい最期の言葉じゃないか」


両手にナイフを握りしめながら構えるレイリー。これ以上姉を待たせるわけにはいかないと、全力でゼロを潰しに掛かる。


「レイア、少し目を瞑っていてくれ」


そう言うと、ゼロは限界を超えて前へと進む。レイリーはナイフを投げつつ、突っ走ってくる。ゼロは避けることを完全にやめ、体制を低くして突っ込む。全身にナイフを浴びながらも、ゼロは止まらない。レイリーも攻撃をやめないが、ゼロの特攻の前に脇腹に一撃受けてしまう。


「ガッ! きさまぁ……」


体制を崩したレイリーにすかさず体当たりし、倒れたところを更にナイフで突き刺すゼロ。ナイフは右の太ももに突き刺さり、レイリーは叫び声をあげる。


「うががががががが! ねぇさん! ねぇさん!」

「もう、黙れ」


ガン!

ゼロは暴れ狂うレイリーの脳天に蹴りを入れる。レイリーはそのまま意識を失った。


「殺したのですか?」


動かなくなったレイリーと、冷たい背中のゼロを見たレイアが心配そうに訪ねる。そして自らが先程レイリーにたいして抱いていた感情にとても後悔する。


「さあな、手加減はした。あとはこいつしだいだ」


そういうとゼロはレイリーをロープで縛り、柱にくくりつける。何とかレイリーは退けたが、それでも代償は大きい。中でも自ら刺した傷はとても深く、流血が止まる様子はない。それでもまだムースが残っている。ゼロはレイアに応急処置をしてもらい、最後の戦いに望む。


ゼロはレイアに支えてもらいながら、ムースを追いかけて屋敷の奥へと入っていく。するとどこからか優しい歌が聞こえてくる。どうやらエレナの寝室のようだ。


らーらーらー


どうやらドアは空いているようだ。慎重に物陰に隠れる2人だったが、今の状態のゼロは簡単にムースに見抜かれてしまう。


「あら、ゼロ君。女性の部屋に勝手に入ってくるなんて無粋ね。レイリーは殺したの?」


ムースはベッドに横たわらせたエレナの亡骸に子守唄を歌っていた。その顔はいつものムースとは比べ物にならないくらい穏やかで優しげだった。

エレナの死体を見て涙が溢れるレイア。


「よくも、エレナを……!」


ゼロを支えていなければ、きっとレイアはすぐにでもムースに飛びかかってしまうだろう。レイアに敵意を向けられながらも、ムースは表情を崩すこと無く、優しい声で語り続ける。


「信じてもらえないかもしれないけれど、私はエレナを愛していたのよ。死んで始めて気づいたの。大切な妹だった。殺したくはなかった」


ムースは優しくエレナの頭を撫でる。


「そんな事、信じられるわけがないです!」

「ムース。お前はどうするつもりだ? まだ俺たちを狙うなら容赦はしない。全力で貴様の命を取りに行く」


ムースの言葉を全く信用しないレイアを鎮めながらも、変わり果てたムースに多少の戸惑いを見せるゼロ。だが確かに敵意は感じられない。


「手を引くわ。もうどうでもいい。二人にしてちょうだい」


ムースはそういうとまたエレナを撫でつつ子守唄を唄う。もうゼロとレイアの事は頭にないようだ。


ゼロは納得していないようすのレイアをつれて屋敷を出た。


「レイア、済まない。ここはこうするしかない。無防備のムースを攻撃することはできない」

「わかっています! でも、納得できません!」


正直今の状態で戦いになったらゼロに勝ち目は無かっただろう。戦いを避けられたことはゼロにとって幸運だった。しかしレイアは何一つ許すことができない。屋敷をでてからしばらく、レイアは黙りこくっていた。


ゼロたちが屋敷を出て僅か数分後、レイリーは目を覚ました。全身の痛みが、敗北と自らの生存を教えてくれる。


「俺は、負けたのか」


だが驚くほど後悔は無い。レイアを手に入れられなかったこたは多少残念だが、彼の生きる理由はあくまでも姉なのだ。すぐにムースの安否を心配し、足を引きずり屋敷を探す。ムースは変わらずエレナの部屋にいた。


「ねぇさん! 無事だったんだね! ゼロとレイアは? 殺したの!?」


ムースはすっかり冷たくなったエレナの頭をなで続けている。


「あら、レイリー。どうかしたの? 静かにしてちょうだい。エレナが起きてしまうでしょ」


もともとまともな人間ではないが、それでも明らかに様子のおかしいムース。


「何を言っているのねぇさん! エレナはもう死んでいるでしょ! ゼロは!」


ムースは子守唄を唄い続ける。レイリーのことすらもう頭には無いようだ。レイリーはショックが隠せない。


「こんなねぇさん、美しくない……」


レイリーはナイフに手をかける。そして変わり果てた一番大切なものに近づいていく。


「ゼロ、お前のせいだ。お前のせいでねぇさんは死んだ。許すまじ! 許すまじ! 許すまじ! 必ず復讐してやる!」


レイリーはムースの死体を抱き抱えながら復讐を誓った。


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