episode 188 「ガイア」
ジャンヌの姿を見て、笑うのをやめるゲイリーたち。
「やるではないか。お主名はなんという?」
「私はジャンヌ。一応言っておくけれど、あなたたち生きては帰さないから」
ぎろりとゲイリーたちを睨み付けるジャンヌ。だがゲイリーたちも黙ってやられるわけにはいかない。
「面白い。久々に全力を出すとしよう!」
ゲイリーたちの衣服が消し飛ぶ。身体中からエネルギーが溢れだし、足元の草が枯れ始める。人の顔を完全に捨て、機械の頭が兵士たちの前に現れる。
「准将、我々もいきますか?」
ゲイリーの変化を見て、ロナンがガイアに声をかける。
「ロナン、ジャンヌ中将の話を聞いていなかったのか? 手を出すな」
「ですが准将!」
ロナンが敵から目をガイアに移した瞬間、林の奥から何やら物音が聞こえてくる。
「ガーハハハ! 組織の訓練生ども! 敵を倒したやつは特別にエージェントに昇進だ! 何しろ空きはたくさんでるからなぁ!」
ゲイリーの声に反応して数十人の訓練生が一斉に兵士たちに向かって飛びかかってくる。ジャンヌは訓練生には目もくれず、ガイアに指示を出す。
「ガイア! 雑魚は任せるわ!」
「了解」
ガイアはそう言うと剣を取り出す。その刀身は乾いた血のようにどす黒く、鞘から引き抜く音はまるで悪魔の叫び声だった。
「なに、あれは……」
ケイトの呟きに答えるロナン。
「あれは七聖剣ダインスレイブ。聖剣とは名ばかりの悪魔の剣だ」
ダインスレイブを構えるガイア。気のせいだろうか、その刀身はグニグニと動いているように見える。
「そんな剣一本で何ができるってんだ!」
訓練生たちがガイアめがけて突っ込んでくる。
「何もできないのは貴様らだ」
ガイアは剣を前方に向けて思い切り突き出す。
『白雨!』
すると剣先から鋭い衝撃が放たれ、敵を突き刺し、なぎ倒す。
「ちっ! 加護だ! 警戒しろ!」
「加護? 違うな。この剣の力はこんなものではない。むしろこれで死ねるのなら神に感謝するべきだな」
警戒し、近づいてこない訓練生たち。
「それで俺から逃げたつもりか?」
ガイアは今度は天空に向かって思い切り剣を突き上げる。
「退避! 退避!」
ガイアの構えを見たロナンが兵士たちに声を飛ばす。
『驟雨!』
雲一つ無い晴天の空に突如雨雲が現れる。そして先程の衝撃と共に雨が訓練生に向かって降り注ぐ。
「あがあああああ!」
絶叫し、血を撒き散らしながら倒れていく訓練生たち。それを激しく雨が洗い流す。
「さあ、吸え。魔剣よ」
ガイアはダインスレイブの剣先を雨の混じった血に当てる。すると剣がまるで生きているように血を啜り始める。
「あれが魔剣たる由縁。一定期間ごとに剣を血にさらさなければ、持ち主を殺してでも血を得ようとする。まさに呪われた剣だ」
怯えた表情を見せるケイトに説明するロナン。
ガイアの活躍を横目で確認するジャンヌ。
「一応問題はないと思っていたけれど。やるじゃない」
「余裕じゃないか! 余所見など!」
思い切り殴りかかってくるゲイリー。それを容易く避けるジャンヌ。
「ええそうね。余裕だもの」
ジャンヌは振り向き様に剣を振るい、ゲイリーの鋼鉄の腕を切り捨てる。
その様子をゲイリーに内蔵されているカメラから見ていたエクシルはジャンヌとガイアの強さに驚愕していた。
(なんということだ……ゲイリーをまるで子供扱い、兵士ごときにこれほどの実力者が潜んでいたか)
キィと音がしてエクシルの部屋の扉が開く。警戒するエクシルだが、現れた男の顔をみて安堵の表情を見せる。
「呼んだかな?」
「来たか……! ヴァベル!」
彼岸花を全身にあしらった衣装に身を包んだエージェント、弁殺ヴァベルが戦場に到着した。




