episode 187 「鋼の軍勢」
一隻の船が小島に到着した。何の変哲もない島だが、ここにはこの世を裏で操る謎の集団、通称組織の本部がある。
到着した船もただの船ではない。この船に乗っているのはモルガント帝国軍の軍人たち、そのなかでも指折りの実力者たちだ。
「本当にこの島に組織とやらの施設があるのか? 見たところそれほど大きな島ではないようだが」
まず島におりたったのは帝国軍准将、ガイア・レオグール。六将軍であるマーク・レオグールの兄であり、帝国三剣士の一人に数えられている。
「准将、迂闊に上陸しないでください。そもそもどこの馬の骨ともわからない小娘の言うことを信用しないでください」
次に島に入ったのはガイアの部下、ロナン・ジミニー大佐。服の襟で口許を隠した不気味な青年だ。
「小娘じゃない、私はケイト」
ケイトが船を降りる。ロナンとはウマがあわない様だ。
つづいてオイゲンも船から出てくる。その後ろからレイアも続く。
「レイアさん。俺から離れないでください」
「レイアでいいですよ」
セシルの友達を守ろうと必死になるオイゲン。ここは敵の本拠地、どこに危険が潜んでいるかわからない。必然的にオイゲンは目付きが険しくなる。
「そう緊張するな! 俺たちが付いている! 君たちは案内することだけに集中してくい!」
アフロにグラサンのボンズ大佐がオイゲンの肩を掴む。オイゲンに負けない体格のボンズの力はすさまじく、オイゲンの鋼の肉体にくっきりと跡が残ってしまう。
「ボンズ、対抗心燃やしてどうするの? 一応仲間なのよ?」
たくさんの部下が降りたあと、最後にジャンヌが姿を表す。帝国軍においてその名を知らぬものはいない最強の女剣士。六将軍リザベルト中尉、ローズ大佐の姉であり、ガイアと同じく三剣士の一人である。
「ジャンヌ中将、そうもいってはいられない。この肉体を見て血が騒がない訳がないだろう!」
ボンズはバシバシとオイゲンの体を叩く。大きな音が島中に響き渡る。
「ボンズ大佐、静かにしてください。敵に居場所がばれてしまう」
ロナンが興奮するボンズを咎める。
「いいではないか! 知らせてしまおう、探す手間が省けるわ!」
「いい加減に……」
バシバシと体を叩かれつづけ、イライラしだすオイゲン。そろそろ反撃をしようとしたその時、聞いたことのある嫌な笑い声が聞こえてくる。
「ガーハハハ! たくさん獲物が居るわい!」
次の瞬間ポンッと音がし、兵士の首が飛ぶ。その音は連鎖し、あちこちで鳴り響く。
「気を付けろ! 敵襲だ!」
ガイアの叫びで一斉に身構える兵士たち。一ヶ所に固まり、防御を固める。
次第に兵士を襲った者の正体が明らかになっていく。最初に気がついたのはオイゲンだった。だが直ぐに目を擦り、目の前の光景が真実かどうかを疑い始める。
「バカな、お前は俺が破壊したはず……」
オイゲンの驚いた表情を、刺客は豪快に笑い飛ばす。
「ガーハハハ! まさかこのゲイリーが一人だけとでも?」
いたるところからゲイリーが姿を表す。その数およそ十。オイゲンは絶望の表情でそれを迎える。
(ふざけるな、あれを一体倒すのにどれだけ……)
「ガーハハハ! 驚いたか! 絶望したか! まだだ、もっと、もっと、嘆き悲しみ、そして死ねぇ!!」
一斉に飛びかかってくるゲイリーたち。
「逃げろ! この数では太刀打ちできない!」
オイゲンが兵士たちに向かって叫ぶ。その口をボンズがふさぐ。
「な、何を!」
「黙ってろい! いまジャンヌ中将の邪魔をするとお前も殺されるぜ」
ジャンヌは部下を殺され、非常に気がたっていた。四方八方に針のような鋭い殺気が放たれる。
「……」
「女ァ! 隙だらけだぞ!」
ゲイリーの内の一体がジャンヌに思い切り殴りかかる。凄まじい衝撃が起こり、辺りの木々をなぎ倒していく。だがその衝撃も、ジャンヌの一振りで掻き消され、さらにゲイリーにダメージを与える。ゲイリーの服が消し飛び、鉄の体がむき出しになる。
「な!」
「あらあなた、人じゃないのね。なら手加減の必要はないわね」
次の瞬間、ゲイリーの上半身が宙を舞う。そしてむき出しになったコアを剣で突き刺すジャンヌ。
「次」
ジャンヌの冷たい視線がゲイリーたちに向けられる。
「あなたたちは離れていて。一応手加減できないから」
ジャンヌの怒りが爆発する。




