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スティールスマイル  作者: ガブ
第五章 最後の戦い
186/621

episode 186 「平穏を求めて」

「おいおい、マジかよ!」



ハウエリス五大都市の一つ、パピ。そこの宿屋でジャックが声をあげる。


「なによ、うるさいわね。サンが起きちゃうじゃない」


弟であるサンを寝かしつけながらジャックに嫌な顔をするクイーン。そのクイーンにエージェントに渡されている端末の画面をつき出すジャック。


「ふ、え!?」


クイーンも変な声が出てしまう。何か言いたそうなジャックに対して咳払いをし、画面をまじまじと見つめるクイーン。



「アーノルトが、敗れた?」



端末にはアーノルトからの報告が詳細に書き出されていた。アーノルトが任務に失敗し、本部へ逃げ帰ったこと。その相手がゼロではなく、モルガント帝国の兵士だったこと。そして恐らくその兵士がゼロたちと協力状態にあり、本部まで攻めてくる可能性があること。トエフの森で起こったこと全てが記されていた。


「たまげたわね、アーノルト以上が存在するなんて」


クイーンが驚愕の表情を浮かべているなか、ジャックは難しい顔で何やら考え事をしていた。


「なによ、似合わないことして」

「これはチャンスかも知れないぜ?」

「チャンス?」


ジャックが語りだしたことに全力で反対するクイーン。


「ハァ? なにいってんの!? 何のために逃げてきたと思ってるのよ! サンを危険に晒さないためでしょ! 行きたいなら一人で行きなさいよ!」

「戦力は多い方がいい! サンはあの司祭に預けりゃ大丈夫だ!」

「大丈夫なわけないでしょ! あの坊主どう見ても聖職者じゃないわ! どっちかっていうと殺し屋さんじゃない!」

「な、お前失礼だぞ!」


大声で言い合う二人。サンが目を覚ますのは必然だった。


「おねえちゃん?」

「あ、ごめんねサン。ほら起きちゃったじゃない!」


ジャックを怒鳴り付けるクイーン。気まずそうな顔をするジャック。


「わかったよ、俺一人で行く」


そそくさと準備を始めるジャックに不安そうに声をかけてくるサン。


「行っちゃうの?」

「ああ、悪いやつらを倒しにいくんだ」


ジャックは黙々と準備を進める。


「おねえちゃんは?」

「私は行かないわ。あなたのそばに居るもの」


それを聞いてサンは嬉しいような悲しいような表情を浮かべる。


「どうしたの?」

「おねえちゃんは悪い人を倒しにいかないんだね。ジャックは行くのに」

「え?」


サンの表情が険しくなる。


「おねえちゃんも倒しに行ってよ! 悪い事をしたらいけないっていつもいってるじゃない」


サンがそんなことを言うと微塵も思っていなかったクイーンは慌てて答える。


「そ、そうよ。でもサン、あなたをまたひとりぼっちにさせてしまうのよ? おねえちゃんと一緒に居たいでしょ?」

「居たいよ! でも僕はカッコいいおねえちゃんが好きなんだ! 悪い人がいるのに無視するおねえちゃんなんてカッコ悪いよ!」


サンは泣きながらクイーンに訴えかける。本当は寂しくて仕方がないのだ。


「サン、あなた男ね」


クイーンはサンの頭に手を乗せて、くしゃくしゃっと撫で回す。


「ジャック、さっきの訂正。私も行くわ。この子の平穏を守る為に、そしてカッコいい私である為に」

「決まりだな!」



二人はサンを預けるために再び教会に訪れた。教会はまた儀式を行っていたが、二人の姿を見るとネフ司祭は儀式を中断してこちらにやって来た。



「これはこれはお二方。そして君は……」


相変わらず聖職者には必要ないであろう肉体を誇るネフがサンに話しかける。


「こんにちは。僕はサンです」

「これはご丁寧に。私はネフと申します」


お互いにお辞儀をするネフとサン。クイーンはここに来た理由を説明する。



「そうですか。わかりました。しばらくの間サン君はこちらでお預かりいたしましょう。ですが殺しはよくありません。他の道を探すべきです」



サンを預かることは快く受け入れたくれたネフだったが、アーノルト、及び組織を壊滅させることについては難色をしめす。


「あなた方が何を抱え、何を相手にしているのかは私の知るところではありませんが、よくお考えになってから行動すべきですよ」

「ああ、ありがとよ」


ネフに礼を言うジャック。



「それじゃあね、サン。いい子にしているのよ? ちゃんと寝る前には歯を磨きなさい? ご挨拶をしっかりね? ネフさんの言うことを聞くのよ? それから……」

「わかってるよ! 心配しないで」


次から次へと言葉が出てくるクイーンに返事をするサン。子供扱いされたくないようだ。



二人は改めてネフに頭を下げ、教会を出ていく。


「サーン! 絶対にカッコいいおねえちゃんになって戻ってくるからねー!」



クイーンはサンが見えなくなるまでいつまでも手を降り続けていた。




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