episode 184 「ヴァベル」
モルガント帝国から遥か離れた国。そこで一人の女性が色黒の男に命を狙われていた。
命を狙われている女性は貴族のようなきらびやかな身なりをしていた。男は手に持っている宝石を色黒の男に差し出し、命乞いを始める。
「金ならある! だがら、命だけは……!」
だが色黒の男はまったく宝石に興味を示さない。色黒の男は低い声で女性に語りかける。
「曼珠沙華という花を知っているか?」
「え、は?」
色黒の男は針のように長く、鋭い刃物を取り出す。
「お前のように醜く肥えた豚には似つかわしくない美しい花だ。だが、せめてもの情けだ。地獄へ持って逝くといい」
色黒の男は彼岸花を取り出し、女性に投げつける。
「では死ね」
「ひぃぃ!」
女性は悲鳴をあげる。その悲鳴に共鳴するように男のもつ端末が呼び出し音を鳴らす。針のような剣を女性の目の前で止め、端末の呼び出しに答える男。
「はい」
「ヴァベル! 直ぐに戻ってこい、一大事だ!」
「エクシルか。いきなり騒々しいな」
ヴァベルと呼ばれた男はしばらくエクシルと話していた。その間女性は恐怖で腰がぬけてしまい、まったく動けなかった。
「いいな。任務は放棄し、直ぐに戻ってこい!」
「了解、任務は放棄する」
ヴァベルは端末の電源を落とす。任務は放棄するという言葉を聞いた女性はほっとした表情を見せ、地面に頭を擦り付けて命乞いを始める。
「いま、放棄するって言ったわね? 言ったわよね? なら助けてよ、お願いよぉ」
女性はペロペロとヴァベルの靴をなめ始める。
「頭をあげろ」
女性が頭をあげるとヴァベルは針のような剣で女性の喉を突き刺す。
「かっ!」
言葉にならない悲鳴をあげる女性。
「お前はもう喋るな。散り際ぐらいは花のように凛々しくあれ」
ヴァベルは剣ごと女性を天に向け、剣に付いているスイッチを押す。すると剣の刃がまるで傘のように開き、女性の頭と体を微塵に切り裂きながら吹き飛ばす。空中に飛ばされた女性だった肉片は大量の血と共に地面へと降り注ぐ。ヴァベルは剣を傘のようにさし、それを回避する。
「綺麗だ。やはり女は外より内だな」
ヴァベルはすべての血が降り終わるまでうっとりした表情でそれを楽しんだ。
「しかしあのアーノルトが任務を失敗するとはな。相手にはそれほどの強者がいるわけだ」
血の余韻に浸りながら紅茶を飲むヴァベル。エクシルからの報告を読む。
「裏切り者は少なくともケイト、オイゲン、ニコル、ジャック、クイーン、ワルター、そしてゼロか」
不気味に笑うヴァベル。
「ニコルとクイーンか。楽しみだ奴等はどんな花を咲かせるのか」
ヴァベルは組織本部に向かって動き出した。
その頃組織本部でも着々と準備が進められていた。
「まさか、ゲイリーをすべて使うことになるなんてな」
エクシルは待機してあるゲイリーの起動を始める。その数三十五。
「これで終わりだ兵士ども。そして必ず殺してやる、ゼロ!」
ブーンという起動音と共に薄暗い部屋に七十の光が現れる。
「ガハハハ、ガハハハ、ガハハハ!」
部屋の中のゲイリーの笑い声が響き渡る。




