episode 180 「ケベフ」
ハウエリスの都市、ケベフ。グリフィーから見ると西にあたるこの街でゼロとワルターは休息をとっていた。
ここケベフは休息の地として知られており、各国から安らぎを求めて数多くの人々がやって来る。科学的な根拠は示されていないが、この地には神の力が宿っているとここの人々には考えられている。
「フェンリーは目を覚ますかな?」
不安そうにワルターが呟く。
「そうでなければ困る」
ゼロは銃の手入れをしながら答える。
組織最強の殺し屋、アーノルト。彼によって一度殺害されたフェンリーは、帝国最強の兵士イシュタルによって蘇生された。だが生きてはいるものの、未だに目を覚まさない。
そんな時、ここケベフの噂を聞きつけたのだ。
ケベフでは数々の奇跡が報告されている。まずケベフには病院が存在しない。誰も病気にかからないからだ。たとえ怪我をしても小さな怪我なら直ぐに完治してしまう。
病院の代わりにケベフにはたくさんの教会がある。そして街の中心にはホルス教、五大教会のひとつがある。
「ここが十闘神を祀る教会か」
ゼロとワルターは動かないフェンリーを連れて教会の扉を叩いた。
中にはたくさんの信者たちと一人の女性が木彫りの隼に頭を下げていた。フェンリーの様子に気がついた女性はゼロたちの方へと歩いてきた。
「こんにちは。私はシス、ここで司祭をしております」
シスと名乗る女性は二人に頭を下げる。
「やあ、シス。俺はワルター。こっちはゼロだ」
ワルターは自己紹介をし、シスに手を差し出す。シスはにっこり笑って答えるが、手はとらない。
「よろしくお願い致します。ワルターさん、ゼロさん。ところでそちらの男性は?」
シスはぐったりとゼロの肩に埋もれるフェンリーに手のひらを向ける。
「彼はフェンリー。三日前から目を覚まさないんだ。宿屋の主人に話したところここを紹介されてね、やって来たというわけさ」
「そうでございましたか。それは心配ですね。どうぞこちらへ」
ワルターが説明するとシスは二人を小部屋へ案内した。その部屋に入ると二人は妙な気配を感じとる。
「ゼロ、なんだいこれは?」
「わからない。だが敵意は感じない。いや、それどころかなんの感情も読み取れない」
二人が警戒する様子を見て驚くシス。
「あら、お二方。ホルス様の気配がわかるのですか?」
「え、ホルスだって? まさかここにいるのかい!?」
シス以上に驚愕するワルター。辺りをキョロキョロと見渡す。
「まさか、ホルス様が降臨されたのはもう三百年も前の事ですよ」
シスの言葉にゼロも驚きを隠せない。
「これが三百年前の残り香とでも言うつもりか? にわかには信じがたいな」
「信じる信じないはあなたの自由ですが、これが真実です。現にその時私の先祖もお力を授かったのですから」
そういうとシスは両手を天に掲げる。
「さあ、そちらにその方を」
シスのいうとおり台座にフェンリーを寝かせるゼロ。
「お見せしましょう、私の加護を」
掲げた手をフェンリーにあてるシス。するとフェンリーの体が輝き始める。
「ちょっと大丈夫かい!?」
目の前の光景にうろたえるワルター。
「ご安心を。私の加護は生命。死者を蘇らせることは出来ませんが、消えかけの命の灯火を再び灯すことが出来ます」
ピキッ
シスは何やら違和感を感じる。
(何でしょう、この寒気は)
その原因は直ぐにわかった。フェンリーに触れている手が凍りはじめたのだ。
「きゃっ!」
すぐさま手を離すシス。
「たっくなんだよ、頭いてぇな」
聞き覚えのある声が室内に響く。
「フェン、リー?」
ワルターが話しかける。
「ん? ワルターじゃねぇか、てかここどこだ?」
フェンリーに抱きつくワルター。
「フェンリー! フェンリー! 生きているんだな君は!」
「おいおいどうしたってんだよ」
ワルターを引き剥がそうとしながらゼロが目にはいるフェンリー。すると記憶が戻ってくる。
「やったのか?」
「いや、だが俺もお前も生きている。今はそれでいい」
二人は固く握手を交わした。




