表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スティールスマイル  作者: ガブ
第一章 ゼロとレイア
18/621

episode 18 「抵抗」

レイリーは一定の距離を保ちつつ、ナイフをゼロに向かって投げつける。ナイフには何かが塗りつけてあるようで、ゼロは慎重に避ける。標的を失ったナイフは、辛うじて息のある執事に着地すると、その意識を一瞬で奪い去った。


「強力な神経毒さ、少しでもかすれば一瞬で眠りに落ちる。体をいじるときに暴れられると面倒だからね」

「当たらなければ意味はない」


お気に入りのナイフをぎらつかせながら、再び投げつけるレイリー。ゼロはそれを華麗に回避しながらレイリーに向けて発砲する。弾はレイリーの左太ももに命中し、貫通する。その勢いで床に倒れ込むレイリー。


「全く、痛いじゃないか」


そういうとレイリーは怯むことなく攻撃を再開する。ゼロは一旦距離をとり、ムースの様子を伺う。


「エレナ、確認しておきたいの。あなたは私たちの妹よねぇ。妹なら姉に従うのは当然よねぇ」


ムースの問いかけにエレナは黙って震えていることしかできない。そんなエレナの様子に、レイアは代弁するようにムースに叫びかける。


「貴方こそエレナの姉なら妹を大切にするべきではないのですか!」


それを聞くと、ムースは表情ひとつ変えずにエレナから目をはなさいままレイアを蹴りつける。悲鳴を上げて転ぶレイアを見下ろしながら、ムースは冷たい視線を浴びせながら告げる。


「レイア、姉妹の話に口を挟むんじゃないわよ。どっち道あなたは死ぬの。なら私をイラつかせるんじゃないわよ。おとなしくそこで震えてなさい」


「貴様……!」


それを見てゼロはムース目掛けて走り出すが、レイリーがすぐさま追いかけて攻撃を仕掛けてくる。


「ねぇさんの邪魔をするなよ」


ゼロは焦っていた。レイアとエレナの前でムースとレイリーを殺すつもりは無いが、殺さずに二人を止める方法が思い付かなかったからだ。


蹴り飛ばされたレイアは額から血を流し、気絶していた。それを見たゼロの顔から血の気が引き、代わりに怒りが溢れてくる。ゼロの形相を見て震えて喜ぶムース。


「あん。もんゼロ君! いいわよその顔! 私を殺したい? 殺したい? でもねぇゼロ君、殺されるのはあなたの方なの」


ムースの煽りを受け流す余裕などないゼロは、レイリーを無理矢理突破しムースに向かって突進する。


グサッ


ゼロの背中を激痛が襲う。レイリーの事などまったく気にしていなかったゼロが攻撃を受けるのは当然の事だった。


「敵に背を向けるなよ。全くもって美しくないぞ。」

「がァ! レイ、リー!」


痛みは背中から全身へと駆け巡る。指先が麻痺し、足も動かない。呼吸もままならず、足元から崩れ落ちるゼロ。


「残念ねぇゼロ君。これでみーんな死んじゃうわねぇ」


ムースはしゅんとした表情を見せるが、すぐさまけたけた笑いだす。レイリーもつられて嗤い出し、屋敷の中は死にかけの執事の呻き声と2人の声だけがこだまし続けている。


「で、エレナ。あなたはどうするのかしら」


一通り楽しむと、ムースは真顔になりエレナを睨み付ける。ガタガタ震えるエレナ。


「もう、本当にかわいいんだから。お願いだからあなたを殺すなんて残念な結果にはしないでちょうだい」


そういうとムースはナイフをエレナに渡す。エレナはムースの言わんとしていることを一瞬で理解し、それを受けとる。


「さぁ、殺しなさい。証明しなさい」


ムースはレイアを指差す。


「簡単よ? 魚を捌くのと一緒。骨の位置に気を付けるのよ」


ムースはエレナの体を支え、ナイフを差し込む位置を丁寧に説明する。エレナは思考を停止した様子でふらふらとレイアのもとに向かう。


「く、やめ……ろ」

「おや、まだ意識があるのかい? 良かったじゃないか、これで彼女の死に目に会える」


レイリーはゼロの上に腰かけ、ショーを観戦するかのように輝いた眼差しでエレナとムースを眺めている。ゼロは必死に止めようとするが、全く体が動かない。




エレナは気絶するレイアのもとに座り込むと、彼女の耳元で小さく呟いた。


「ごめんね、レイア。こんなことに巻き込んでしまって。ありがとう、私を信じてくれて」


そういうとエレナは叫び声をあげながらムースに向かって突撃し、思いきりナイフを突き立てる。しかし、そのナイフはムースには届かない。まるで予想していたかのように簡単にナイフを受けとめるムース。


「本当に、バカな子ねぇ」


グサッ


ムースはそのナイフを奪い取ると、エレナの柔らかい腹にそれを突き立てる。みるみると絶望の表情に変わるエレナ。そして徐々に生気が消えていく。


「ゼロ……レイアを頼んだわよ」


僅かな力を振り絞り、そう言い残してエレナはこの世を去った。

エレナの安らかな顔を見て、つまらなそうな表情のムース。やれやれといった感じのレイリー。


情けない。何が最強だ、何が死神だ。大切な人の友達一人すら救えない。ゼロの心が暗く、冷たくなっていく。


「はぁ、なんかつまんなくなっちゃった。レイリー! レイアはあんたにやる約束だったわよね。さっさと殺っちゃって!」


ムースはエレナの死体をもってどこかに行ってしまった。


「やれやれ、ねぇさんにも困ったものだ。なぁゼロ」


レイアに近づいていくレイリー。ムースが去ってしまった事でだいぶやる気を無くしてしまっているようだ。それでも当初の目的を達成するため、重い腰を上げてレイアに向かって歩いていく。


「レイア、安心するといい。君はゴミにはさせない。キレイなまま永遠に飾ってあげるよ」


そういうとレイリーは薬品を取り出し、それを注射しようとする。何の薬品だかは分からないが、どう考えても良い結果にはならないだろう。


うごけ! うごけ! うごけ! うごけ! うごけ!


ゼロは必死に指を動かす。劇鉄をあげ、引き金に手をかける。狙いを定める暇など無い。

銃声に振り向くレイリー。弾はゼロの脇腹を貫通していた。


「まさか痛みで神経毒を無効化する気か!? あり得ない、死ぬぞ!」


叫ぶレイリーに、血反吐を吐きながら近づき、思いっきり殴り飛ばすゼロ。


「レイアに手を出すな。そいつは俺の女だ!」


血だらけになりながらも、ゼロは立ち上がる。何があろうともレイアだけは助ける。エレナに託された。例え自らの命を失ったとしても。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ