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スティールスマイル  作者: ガブ
第四章 激突
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episode 179 「奥義」

身動きのとれなくなったアンに氷をまとったシオンの正拳突きが炸裂する。


「波ァ!」


その一撃でアンにまとわり付いていた氷は粉々に砕け散る。が、拳が命中した場所から再び凍りだす。


「勢!」


その凍った部分に逆の手で再び正拳突きをくらわせるシオン。先程と同様に氷が砕け、再び凍りだす。氷が砕ける度にアンには相当量のダメージが残る。


「これでトドメ!」



『氷牙三連拳!』



ふらふらとふらつくアンの腹に双氷葬を繰り出すシオン。


「ごぱぁ!」


口と腹から血を吹き出しながら吹き飛ばされるアン。空中にはキラキラと氷の結晶が舞っている。


「ハァハァハァ」


シオンの拳にもダメージがあるようで、真っ白な肌に赤い血が映えている。


吹っ飛んだアンは剣を杖代わりにして立ち上がるが、足元がふらつき再び転んでしまう。地面に叩きつけられた衝撃で足の骨が折れてしまったようだ。


「諦めてください。あなたの体はもう死に向かって歩き出しています。気合いでなんとかなるレベルじゃ無いですよ」


氷のように冷たく言い放つシオン。


ローズは、ただただ圧倒されていた。


(この少女一見天真爛漫に見えるが、いざ殺し合いとなればここまで冷血な表情ができるのか。そしてそれに伴う実力も兼ね備えている)


アンは口から血をドバトバ吐きながらもシオンたちに対する敵意を絶やさない。


「ペッ! やりますね。確かに私は死ぬかもしれません。ですがまだ死にたくないんですよ、だってまだまだ殺し足りないんですもん!」


アンはむちゃくちゃな動きでシオンに突っ込んでくる。進む度に体のいたるところから骨のきしむ音と血しぶきが上がる。目は血走っており、血涙を流しながら獲物を狙っている。



「そんな! 奥義を受けてまだ動けるなんて!」


シオンは奥義の反動で体が思うように動かせない。技を繰り出す余力も残っていない。


「くっ!」


まるでフェンリーのように氷で盾を作ろうとするが、シオンの氷は脆く、形にならない。


奇声を上げながら突っ込んでくるアン。しかしアンはシオンに届く前にローズによって行く手を阻まれる。


「まずはあなたの方ですか!」


アンは目の前のローズに切りかかるが、まともに立つことさえ出来ないアンの剣がローズに届くはずもない。ローズは簡単にアンの剣を捌き、逆にアンの腱を切りつける。


「うわっ」


アンの体が崩れ落ちる。それでもアンは残された手でローズに再び刃を向ける。ローズはアンの腕ごとそれを切り落とす。アンはそれでも諦めない。歯で思い切りローズの甲冑を噛みつける。


「ころひてひゃる」


睨み付けてくるアンを容赦なく蹴りつける。


「た、大佐。やりすぎじゃ……」

「少佐、これは殺し合だ。やり過ぎなどない」


ローズの豹変ぶりに困惑するシオン。ローズはそれほどまでに必死だった。もはや何もできなくなったアンを必要以上に痛め付けるローズ。


「まったく全然効かないですよ。だって私はまだ生きてる」


動かせるのが口だけになったいまでもアンは諦めていない。


「ああ。お前はちゃんと、ここで殺す」


ローズは剣を握りしめる。



「ははは。はははははははは!」



アンの笑いは首が胴体から離れるまで途切れなかった。




「たすかったよ、ナルス少佐。君は強いな」


村の人々の亡骸を埋葬しながらローズがシオンに話しかける。


「そんな、私なんて今でもゲロ吐きそうですよ」


ようやく体が自由に動かせるようになったシオンが答える。


実際シオンは今回の任務でかなり堪えていた。シオンはこの任務の前、同じく六将軍であるマーク・レオグールと共に行動していた。モルガント帝国によって滅ぼされた国、セルフィシー王国の王子を監視するためだ。そこで数々の経験をしてきたが、今回のアンの衝撃はそれら全てを塗り替えた。



「大丈夫か? ナルス少佐」

「え、ああ、大丈夫です。それにシオンでいいですよ、大佐」


ぼーとするシオンに声をかけるローズ。二人はイシュタルに報告すべく帝都へと向かった。



その夜。


村の人々が埋葬された墓地では何かが蠢いていた。そしてなにやら咀嚼音のようなものが辺りに響いている。



「あまいですね。私はまだ生きている」



首だけになってもなお、アンは生きていた。埋葬された人々の死肉を食らい、無いはずの腹を満たす。



「ありがとうございます。神様」


アンは目には見えない手で天を仰いだ。





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