episode 178 「ローズ&シオンvsアン」
ドアを開けた瞬間、いきなりアンが切りかかってくる。アンの存在が頭に入っていなければ、何もできずに殺されていただろう。
「ほっといてくれませんか?」
そんなことを言いながらどんどん切りかかってくるアン。
「そういうわけにはいかない」
ローズがアンの相手をしている隙にアンがいた部屋の中を覗くシオン。そこには他の家と同様に死体が腐敗していた。
「うぅ」
アンのヤバさを思い知らされるシオン。
「そこの雪女さん。あなたも掛かってきたらどうですか? 私いますこぶる調子がいいんです!」
ローズの相手をしているというのに、余所見をしてシオンに話しかけてくるアン。
「余裕だな!」
「はい余裕です」
ローズが剣の勢いを増すが、アンは難なくそれを受けきる。よく見るとアンの傷はまだ完全には治っていない。剣の勢いに体がついていけず、傷口が開きはじめている。
「どうした? 随分と我慢しているようじゃないか」
「我慢? しませんよ、いま私は殺りたいことを殺っています」
直ぐにアンは血だらけになるが、まったく動きが衰えない。
シオンは部屋の中の死体の異変に気がつく。アンに殺されたであろうその死体。死体は死因がわからないほど切り刻まれており、なぜか一口サイズに切り分けられていた。その隣にはおそらく血だろうか、赤い液体が入ったボトルが数本ある。さらにその隣には空になったボトルも。
「……まさか食べたんですか?」
アンに恐る恐る問いかけるシオン。
「はいそうです! 興味はあったのですが、以前食べたときは生臭くてとてもダメだったんですけど今ならいけるかなって」
ローズの剣を捌きながらシオンの質問に答えるアン。
「貴様、それでも人間か?」
「それよく聞かれるんですよね。見ればわかるのに」
驚愕するローズの蔑みに一切の感情無く答えるアン。
「やはり私は間違っていたのかもしれない。お前はここで殺さなければならない」
ローズは生け捕りを諦め、アンを葬るべく殺意をもって剣を握る。
「素人ですね。殺す殺すって、そんなのいちいち口に出さなくてもいいんですよ……行動で示せば」
殺意を察知したのか、アンもいままで以上に剣の威力を増す。
シオンも黙っては居なかった。
『双氷葬!』
シオンは両手の掌底を合わせ、掌をアンの背中に思い切りぶち当てる。するとアンに当たった瞬間、シオンの両手から氷の花が咲き、アンの背中を突き刺す。
「うわっ!」
血を撒き散らしながら宙を舞うアン。シオンの両手に咲く花は赤く染まっていた。
「驚いたなナルス少佐。戦闘能力も申し分ないとは」
「生きるため、必死に努力しましたから。それに驚いたのは私の方です」
氷牙拳法。六将軍であるシオン・ナルス少佐が操る拳法である。全部で十の形があり、先程アンに放った双氷葬はそのうちの一つである。拳法と言いつつも実態は殺人拳であり、相手を殺すための術が詰まっている。その氷牙拳法の使い手であるシオンにとって、この技を受けて立っていられるアンの存在は驚異そのものだった。
「びっくりしましたよ。あ、背中の肉がえぐれてますね」
シオンの氷が背中に張り付いているせいか出血はないが、通常なら激痛で気絶しかねない攻撃をものともせず、再び向かってくるアン。
「死んでください!」
驚きで一瞬反応が遅れるシオンをカバーするローズ。アンの剣圧はまったく衰えを知らない。
「あ、ありがとうございます」
「礼はいい。話はこいつを無力化したあとだ、少佐」
「わかりました。私も殺す気で行きます!」
シオンは再び拳に氷を集める。
「なんですか? さっきの技ならもうくらいませんよ?」
アンが目線をシオンに移動する。
「双氷葬はあくまで基本の形。今度は奥義をおみまいします!」
シオンが構えをとる。ニヤリと笑うアン。
「良いですね! 私とどっちが強いか比べてみましょう!」
「大佐、下がっていてください。あなたを巻き込んでしまいます」
シオンの言葉通り後ろに下がるローズ。すると辺りに霧のようなものが漂い始める。
「みせてあげる! 氷牙拳法第三の形!」
漂う霧がアンの体に密着し、凍っていく。あっという間に動けなくなるアン。
シオンはアンに突撃し、氷の拳を突き出す。
『氷牙三連撃!』




