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スティールスマイル  作者: ガブ
第四章 激突
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episode 170 「鳴咽」

イシュタルは意識不明のヌルを抱え、何処かへ立ち去ろうとする。慌ててそれを止めるワルター。


「元帥殿! どちらに行かれるのですか、フェンリーの治療を!」


イシュタルは切羽詰まっているワルターを横目で睨み付ける。


「大佐、我々は敵を取り逃がしたのだ。そしてその敵はかつて無いほど強大である。野放しにすればいずれ帝国にも被害が及ぶだろう。その時貴様はどちら側につくのだ?」

「ど、どちら側とは?」


イシュタルは地面を思い切り踏みつける。地響きが起こり、木々がざわめく。


「とぼけるなワルター・フェンサー。貴様が先程の男と同等の組織に属していることは調べがついている。その事について言及するつもりはない。貴様ごとき一兵士の動向など、帝国にとって何の驚異とも成り得んからな。だが、帝国に仇なすのなら話は別である。貴様は排除すべき標的だ」


イシュタルはヌルを地面に下ろし、剣を構える。軍剣ではなく、聖剣エクスカリバーを。


プレッシャーに押し潰されそうになるワルター。アーノルトとの一戦の後だというのに、その左手に宿りし回復の加護によってダメージはすべて完治していた。


万全の状態のイシュタルを前にして正気を保っていられるものは多くない。しかも相手は今自分を殺そうと殺気を漂わせているのだ。


だが、ワルターはガタガタと震えながらも自らも剣を抜く。エクスカリバーと同様の七聖剣の一本、雷電丸の破片が埋め込まれている雷剣を。



「敵意有りとみなすが」

「敵意などありません。俺は帝国に救われています。元帥殿にも帝国にも仇なすつもりはありません」


イシュタルの殺気に突き刺されながらも必死に答えるワルター。


「ならなぜ剣をとる?」

「フェンリーを、そして今あなたの足元にいるゼロを守る為です!」


ワルターは先手必勝と言わんばかりにイシュタルに向けて雷撃を放つ。放たれた雷撃は猛スピードで進んでいく。だがその進撃もイシュタルの手前で突如消え失せる。



「聖剣エクスカリバー。この剣に触れし全ての加護は消滅する。その様な紛い物の力でこの儂に届くとでも?」

「いいえ、思いませんよ!」


ワルターは雷撃を放ちまくりながらイシュタル目掛けて突っ込んでいく。イシュタルが雷撃を防いでいる間に一撃食らわせようという算段だ。


「ハァ!」


思い切り振り下ろした一撃は簡単に受け止められてしまう。


「ま、そううまくはいかないよね?」


一瞬気が緩んでしまうワルター。


「貴様の敗けだ、大佐」

「しまっ!」


思い出したときにはもう遅かった。イシュタルは右手をワルターの頭部に伸ばす。するとワルターの意識が遠退いていく。


掌握の加護。イシュタルが有するもう一つの力。対象の頭部に手を当てることでその者の人格を奪い、別の人格を埋め込む。その最大人数は五人。現在ゼロに対して使用中であり、三人分の人格を埋め込んでいる。ヌルはその内の一人である。


「貴様には取って置きの人格を授けてやろう。儂に忠実な兵士と成るようにな」


イシュタルがワルターから手を離すと、ワルターは剣を捨て、ふらふらと動き出す。


「くっ」

「無駄だ。もう逃れることはできん」

「うおおおおおおおお!」



ワルターは最後の力を振り絞り、雄叫びを上げる。そして思い切り頭を地面に叩きつける。



掌握を解く方法は二つ。


一つは脳内に存在する埋め込まれた人物を打ち破ること。もう一つは頭部に衝撃を加えること。ただし術者であるイシュタルが近くにいればいるほど埋め込まれた人格は強大な力を得る。そして並大抵の衝撃では意識を取り戻すことはできない。



「愚かな」



ワルターは頭部から血をだらだらと流しながら立ち上がる。


「ハハ! さあ、続きをやりましょう!」



痛みで恐怖が吹き飛ぶワルター。剣を握りしめ、気分がハイになる。雷剣からバチバチと電気が流れ、ワルターの体を包んでいく。


「これでもう俺に触れられませんよ。感電したいのなら別ですがね!」

「未熟者が、我が聖剣の力を忘れたか。貴様は儂に触れることすらできずに両断される」

「じゃあ勝負だ! 元帥殿!」


ワルターは特攻覚悟でイシュタルに体当たりを仕掛ける。が、その体はイシュタルに届く前に倒れ込んでしまう。



「とうに限界を過ぎておったか」



イシュタルは意識を失っているワルターの頭部に触れる。右手ではなく左手で。


「だが貴様のその力、ここで殺すには惜しい。貴様にはまだまだ帝国に身を捧げてもらわねばな」


ワルターの額の傷が消えていく。


「さて、次はあの男か」


イシュタルは洞窟へと進んでいく。そして倒れているフェンリーに左手を当てる。どんどんとフェンリーに血の気が戻っていき、しばらくするとイシュタルの左腕が凍りだす。イシュタルは手を離し、洞窟を出る。



「それで? 貴様はいつまでそうしているのだ?」


イシュタルは木陰に問いかける。するとそこからヌルが、いやゼロが現れた。



「気づいていたか」

「当たり前だ。ヌルの気配が消えていたからな。だがどうやって掌握を解いた?」


ゼロはワルターの状態を確かめながら答える。


「簡単なことだ。ヌルがアーノルトを恐れ、お前がアーノルトに意識を向け続けた結果だ」

「確かに貴様の存在は儂の頭の中から消えていた。それほどまでに強敵だった。ヌルは死んでいないな? 何処にいる」


ゼロはワルターが大事に至らないことを確めると洞窟の中を覗きこむ。


「奴は俺の頭の中で震えているさ。お前には礼をいう。どんな魂胆があるかは知らんが仲間を救ってもらったことは事実だ。感謝する」


ゼロは銃を地面に置き、イシュタルに頭を下げる。



「貴様らの為ではない。我が国のためだ。よって今すぐ貴様を滅ぼしたいところだが今は帝国へ戻り、組織なるものへの対策をとる方が先決だ。その命、今しばらく預けておく」



イシュタルはそう言い残し、帝国の方へと消えていった。


ゼロは洞窟内のフェンリーの様子を確かめる。フェンリーは完全に体温を取り戻していた。フェンリーを壁にもたれさせ、その横で顔を覆うゼロ。



「良かった……本当に良かった」



もし今敵に襲われたら成す統べなく殺されてしまうだろう。それほど無防備にゼロはただただ鳴咽をもらした。






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