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スティールスマイル  作者: ガブ
第四章 激突
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episode 162 「陰謀」

かつての同僚のあられもない姿に兵士たちは困惑し、手が出せないでいた。ジリジリとゾンビたちは近寄ってくる。このまま対処せずに野放しにすれば、いずれは町の人たちにも被害が及ぶだろう。



「どうしたの? 戦ってよ! 殺し合ってよ!」



クロムが興奮して手を叩いている。ゾンビ兵士の後ろに隠れながらシアンたちも進んでいく。


「クロムを狙う気だな? だが出来るのか? 仲間たちをもう一度殺し、ここまで辿り着くことが」


またしても思考をシアンに読まれてしまう。が、今さらそんな事は関係ない。読まれたとしても読まれていないとしても、どちらにせよワルターは兵士たちに手を出すことができない。


「まいったね、どうも」


その時、ワルターたちの後方から凄まじい風が吹き荒れ、ゾンビ兵士たちを吹き飛ばす。



「な、何だ!」


驚くシアン。明らかに自然発生の風ではない。しかし、誰の脳内にもこの風のことは存在していなかった。



「ワルター、何を手間取っている。戦わないのなら退いていろ。俺が片をつける」


現れたのはオイゲンとニコルだった。風の正体はオイゲンの凄まじい正拳突きが生んだ衝撃波だった。その衝撃でゾンビたちの体はおかしな方向に曲がる。首の折れた者も居る。だがお構いなしに再び敵めがけて歩き出す。



「ゾンビさ」



オイゲンが質問するよりも早くシアンが答える。動く死体、心を読む男、この者たちが尋常でなないことを悟るオイゲン。


ニコルはシアンを悩殺しようとするが、すぐさまシアンは下を向く。


「無駄だよ。あんたらの行動は見切ってる」

「そうみたいね。でも後ろの坊やはどうかしら?」


後ろを振り向くシアン。そこには術にかかったフォリッジの姿があった。


「フォリッジ、お前は何をやっているんだ……フォーン」

「了解」


フォーンは目が虚ろなフォリッジのみぞおちに強烈な突きをくらわせる。


「おご!」


血反吐を吐いて気絶するフォリッジ。



「あら、容赦ないのね。その坊やは仲間でしょ?」

「問題ない。こちらにはヘレンが居る。それに万が一死んだとしてもクロムが居ればなにも変わらない」


ヘレンがフォリッジに近寄り、腹の辺りに手を当てる。すると少しずつ傷が癒え始めた。


「元帥の劣化版か。しかし君たちもう少し仲間を大切にしたらどうかな?」


ワルターの言葉は寝耳に水だった。なんせここに来る前、組織本部のコロシアムで顔見知った人たちを大量に殺してきたのだから。


「ワルター、綺麗事を並べている暇はない。この者たちはお前の仲間か、それとも俺たちを傷つけようとする敵か!」

「仲間だったさ。でも、今は敵だ。行くぞ、お前たち!」



オイゲンに諭され、兵士たちに指示を出すワルター。



「せめて、安らかに」



元兵士といっても所詮は意思を持たないゾンビ。ワルターたちの敵ではなかった。


「首を切断し、足の腱を切れ! むごいかもしれないけど彼らを解放するにはそれしかない!」


覚悟を決めた兵士たちによってゾンビ軍団はあっという間に無力化されていく。


「なるほど、死んでいれば仲間ではないと。素晴らしい仲間意識じゃないか」

「仲間だからこそさ。それと、もう分かっていると思うけどこれ以上俺を怒らせない方がいい」



ワルターから殺気が放たれる。それは兵士としてのものではなく、明らかに殺し屋のそれだった。


「シアン、私怖いよ」


パステルがシアンに隠れる。


「大丈夫だ。俺がついてるよ」


シアンは優しくパステルの頭を撫でる。そしてその手を上にあげる。



「俺たちの敗けだ。降伏するよ」



「確保だ!」



ワルターの掛け声でシアンたちを拘束する兵士。シアンたちは大人しくそれに従う。


「随分と簡単に捕まるんだね。人を殺してるんだ、これからどうなるかは想像がつくだろうに」

「ああ。あんたらの頭を覗けば嫌というほどわかるよ。でもここで戦い続ければパステルに被害が及びかねない。それは嫌だ」


ワルターは怯えきったパステルを見つめる。


「助かるよ」


ワルターがなにか言おうとする前にシアンが答える。



「それとここに来る途中に女の子を一人倒してきた。大丈夫、殺してない。まだ気絶してるかもしれないから助けてやってほしい」

「ああ、わかったよ。特徴とか教えてくれるかな?」



ワルターはシアンたちを縛り上げながら尋ねる。


「身長ははパステルと変わらない。小さなおさげの髪型、名前はケイトだ」


その名前を聞いてシアンが心を読むよりも早く飛び上がるワルター。



「すぐ向かう! 詳しく場所を教えてくれ! 」



シアンからケイトの居場所を聞き出したワルター。しかしここを離れてしまえばシアンたちが逃げ出す恐れもある。ワルターの心を読み、ケイトの存在を知り、ワルターをここから遠ざけるための罠かもしれない。シアンはそれを否定しているが、信用することが出来ない。



「大丈夫だ、行ってこい。こいつらは俺が見張っている」


まるでシアンと同様に心を読んだかのようにオイゲンが声をかけてくる。


「いいのかい? 君はセシルを助けに行きたいんだろう?」


ワルターが申し訳なさそうに答える。



「立場は同じだろう。それに、そこにお嬢様がいらっしゃる可能性だってある。すぐに向かった方がいい」

「そうね、私たちだって見張りくらい出来るわ。行ってらっしゃい」

「オイゲン、ニコル……済まない!」



ワルターは兵士とオイゲン、ニコルにこの場を任せ、シアンに言われた場所へと走っていく。



シアンたちは既に縛り上げられ、身動きがとれなくなっていた。誰もが安心しきっていた。そして誰もが気がつかなかったようだ。不気味な笑みを浮かべる少女の姿に。







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