episode 16 「メル家」
薄暗いエレナの自室。執事ははそこを訪れていた。レイアたちのもとを離れてから、エレナは毛布にくるまりがだがた震えていた。執事は部屋の明かりを付け、エレナに声をかける。
「エレナお嬢様、御姉様にご報告なされないのですか?」
執事の口調は実に穏やかだが、その顔はとても険しい。執事の声を聞くと、エレナは更に気を取り乱す。
「できない! やっぱり私できない! レイアは友達よ! 失いたくない!」
毛布を執事に取り上げられるが、今度は枕に突っ伏せながら抵抗するエレナ。
エレナの対処に手を焼く執事の端末がなる。
「お噂をすれば御姉様です」
騒いでいたエレナは急に黙る。緊張して汗をかき、目を見開いている。
「あら、エレナそこにいるの? 元気かしら、あれからゼロ君とレイアは訪れてきた?」
執事から押し付けられた端末から流れてくる音声に恐怖するエレナ。
「……いいえ、御姉様」
「……アンタいま嘘をついたわね」
ブッ!
通信が途切れる。エレナはいまにも泣き出しそうなくらい追い詰められた表情で執事を見る。
「お嬢様、逆らってはなりません」
執事はエレナに手を差しのべることもなく突き放すと、長女を出迎える準備に取りかかる。エレナは再びベッドに倒れ、赤子のように泣きじゃくる。
「どうして! 私はレイアを裏切りたくない! どうして放っておいてくれないの? 私が何をしたっていうの……誰か助けてよ!」
助けなどくるはずもない、そう思いながらも叫び続けるエレナ。するとガチャリと音を立てて扉が開く。扉の隙間から気まずいような、申し訳ないような表情でレイアが覗いていた。
「ごめんなさい、エレナ。盗み聞きするつもりはなくて、ゼロさんがあなたの事を……あ、ゼロさんっていうのはわたくしのボディーガードで……」
「いい、全部知ってる。ゼロのことも組織のことも」
レイアの登場に初めは驚いていたが、救われたような表情を見せると自分の知っていることを話し始めるエレナ。彼女から放たれた言葉は、レイアの不安を現実にする。
「メル家はね、代々組織の一員なの」
涙混じりに語るエレナの言葉に、ショクを隠せないレイア。何か答えようとするが、言葉が出てこない。
「わたしはまだしたっぱだけど、御姉様と御兄様は組織のエージェントなの。そしてその二人にゼロとあなたの抹殺という指令が降りた」
エレナはレイアの拒絶にもにた表情を見て、さらに涙が溢れてくる。レイアの目にも涙が溢れてくる。
「そして私にも指令が下った! レイア、あなた達が訪れてきたら必ず足止めをして、御姉様に報告する事!」
涙で顔がグシャグシャになるエレナ。それでも必死にレイアに伝える。
「きっと御姉様は帰ってくる! 逃げて! あなたが殺されるところなんて見たくない!」
ペチン!
エレナの告白に応えるかのように、頬を打つレイア。
「謝ってください! わたくしは、あなたを信じていたのに!」
レイアの目からも大粒の涙がこぼれる。友の見せたことの無い顔に、罪悪感が溢れ出る。
「ごめん、ごめんなさい、ごめんなさいレイア!」
お互いわんわん泣きながら抱き合う。その様子を見守るゼロ。そしてさらにその様子をう執事が伺う。
「お嬢様、外部の人間に勝手なことを話されては困ります。ムース様がご到着される前に逃げ出されでもしたらどうするおつもりですか?」
執事は手に鋭利な棒を持ち、それを巧みに操りながら三人の方へと近づいてくる。明らかな殺意に対抗すべく、ゼロも銃へとてを伸ばす。
「ゼロさん!」
「分かっている。殺しはしない」
レイアにそう答え、ゼロは執事の行く手を塞ぐ。執事も標的を完全にゼロに絞り、ものすごいスピードで迫り来る。
「伝説と言われたその実力、特と拝見させて頂きますよ!」
「残念だがそれはできない」
挑戦者の顔で獲物を振るう執事に、ゼロは冷たくいい放つ。だがその言葉が執事に届くことはなかった。それが届くよりも早く、彼の意識はゼロの手刀によってたたれてしまったからだ。
「凄い……」
ゼロの強さを目の当たりにしたエレナが驚嘆の声を洩らす。が、これで執事の攻撃が終わったわけではない。1人片付けようとも、執事は次から次へと現れる。
「ただの執事と侮ってもらっては困ります。メル家と同様に私たち執事も全員が組織の人間! 例えあなたを倒すことはできなくとも、ムース様がお戻りになるまでの時間稼ぎぐらいなら可能でしょう!」
新たに現れた執事たちは凄まじいコンビネーションでゼロを取り囲んだ。




