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スティールスマイル  作者: ガブ
第四章 激突
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episode 156 「守りたいもの」

ジャックのスピードはやはりこれまで出会った誰よりも速かった。音を置き去りにするそのスピードに始終翻弄されるゼロ。全神経を研ぎ澄ませ、発砲音だけに集中する。



「おいおい、なんだよあの速さは。本当に人間か?」


ジャックの存在は知っていたものの、初めて見るそのスピードに驚愕するフェンリー。



「ああ。そうだね。軍にもあれほどの速さを誇る人間はいないだろうね」


ワルターも目を見開いて戦いを観察する。隙さえあらばいつでも飛び込んでいくつもりだったが、どうやら無理そうだ。



「そして辛うじてながらもそれに反応しているゼロ。なんという反射神経だ」


オイゲンの見ている光景は、ゼロが激しく動いているだけだった。何が起きているのかさっぱりわからない。



「アイツ、絶対私の術にかかると思うのだけれど、まず彼を見続ける事が不可能ね」


ニコルは悩殺を諦め、避難を優先する。



フェンリーの力で、弾丸を防御できるだけの薄い氷の盾を出現させ、その後ろに隠れる四人。弾丸は回避できるものの、ゼロとジャックから放たれる強烈な殺気は、氷をすり抜けて容赦なく四人を襲う。



「えげつねぇな。イシュタル以来だぜ、この嫌な感じ」


フェンリーの全身から嫌な汗がにじみ出る。



皆ジャックの強さに感嘆さえしていたが、実際にジャックと対峙しているゼロは違和感を覚えていた。


(おかしい……動きが直線的すぎる。これじゃまるで素人だ。いくら速くても意味がない)


射撃大会の時のようなトリッキーな動きがまるで感じられない。見えはしないが、発砲音さえわかれば避けるのは難しくない。次の攻撃もある程度予測できる。


(それは奴も分かっているはず。何の作戦だ? 意味もなくこんな悪手をとる男では無いはず……)


しかし、いつまでたっても ジャックの動きは変わらない。ジャックの出現予想ポイントに発砲するゼロ。すると意図も簡単に弾はジャックの体に食い込む。


「うぐっ!」


ジャックの動きが止まる。久しぶりにジャックの姿をとらえる一同。



「よっしゃ! やりやがった!」


フェンリーがはしゃぐ。



「腕を上げたな、ゼロ」

「そういうお前は腕を落としたな、ジャック。余計なことを考えているな」


その場にしゃがみこむジャック。目からは既に生気が失われている。


「お見通し、か。そうだな。俺はさっき、大切な人を撃った。組織の指示とはいえ、撃ったんだ」


そう言ってクイーンの弓を取り出すジャック。


「それは……クイーンの弓か」


ゼロの返しに驚くジャック。


「知ってたか。てかこれ見ただけでわかるってことはそれ以上か?」


ジャックの瞳に再び闘志が宿る。


「クイーンとは何度か戦った。そして俺たちは今、ある理由でクイーンを探している。お前が殺したのか?」


ゼロはジャックに銃を突き付け、質問する。


「黙れよ。お前がクイーンに何の用があるかは知らねぇけどよ、俺は自分の任務をこなしただけだ。文句なんか言わせねぇよ。そしてもうクイーンには関わるな。弟にもだ」

「その口ぶりからするとまだクイーンは生きているんだな? そして弟もここに住んでいるんだな?」


目付きが変わるジャック。


「手出しはさせねぇぞ」

「お前の意思など関係ない。生きているのならこちらで探す」


敵意を剥き出しにするジャックを無視して先へと進もうとするゼロ。当然ジャックも黙って見送りはしない。再び銃を構え、背中を見せるゼロを狙い打つ。が、しかし、まるで背中に目がついているかのようにいとも簡単にそれを避けるゼロ。


「怒りに支配されている今のお前では俺に勝つことは不可能だ。これ以上邪魔をするならそれ相応の結果を招くことになるぞ」

「そんな事はどうでもいい。お前も逆の立場ならそうするだろ」

「確かにな。……フェンリー!」



ゼロはジャックの後方で待機していたフェンリーに声をかける。ゼロに意識を集中しすぎて反応が遅れたジャックは、フェンリーの手によって足元から凍らされてしまう。



「うかつだったぜ。氷殺のフェンリー、噂には聞いていたけどよ、まさかここまでとはな」


肩から上だけ残された状態のジャックがフェンリーの方を向いて称賛する。


「あんたもとんでもねぇスピードだな。サシじゃ敵わねぇよ」


フェンリーも称賛を送り返す。


ジャックはまだ諦めていない。何とか氷を抜け出そうともがくが、まったくびくともしない。


「なぁゼロ。頼むぜ、クイーンには手を出さないでくれよ。アイツを巻き込まないでくれよ」


言葉しか残されていないジャックは涙混じりにゼロに訴えかける。


「お前にとってあの女がどれ程大切なのかはわからない。だがな、俺たちはクイーンを傷つけるつもりはない。むしろ救おうと考えている」

「なんだって!? どういうことだよ」


ゼロはジャックの前に腰かける。



「俺たちは一度あの女に命を救われた。その恩は返す。俺たちのせいでクイーンが組織に追われるのなら、俺たちの手で助け出す。そしてできることなら俺たちに手を貸してもらいたい」



ゼロはアーノルトを討ち取る計画をジャックに伝える。


「はぁ? はぁ!?」

「まあ、そうなるだろうよ」


見飽きた表情に肩をおとすフェンリー。


「いや、まて、ふざけんな! なおさらクイーンに会わせられねぇ!」


ガタガタと暴れるジャック。



「安心しろ。クイーンが拒めば強制はしない」

「あったりめぇだ!」

「お前がクイーンを救うというなら俺たちは手出しをしない。だが、あくまでお前が組織の人間として任務をこなすというならば、その役は俺たちに任せてもらう」



ゼロは困惑するジャックを見つめる。



「……駄目だ。やっぱ巻き込めねぇ。どうしてもっていうんなら、俺を殺せ」


ジャックは死を覚悟し、目をつぶる。ゼロはそれを見るとフェンリーに何やら指示を出し、銃を構える。



「それがお前の選択か」

「ああ。これが俺の選択だ」



ズドン!



ゼロの弾がジャックの氷を直撃する。氷はバラバラに崩れるが、ジャックの体には傷一つ残らなかった。



「何の真似だよ」



ジャックは体にまとわり付く氷を剥がしながら尋ねる。


「クイーンにはお前がついている。それがわかれば安心だ。俺たちは別をあたるさ」


それだけ言うとゼロは来た道を引き返す。フェンリーたちもそれに続く。




「……待てよ!」



ジャックがゼロを引き留める。



「わかったよ。案内してやる。ただし、アーノルトのことは別だぞ」

「ああ。分かっている」


ジャックの案内でトエフへと進むゼロたち。



「こうなるってわかってたの?」


ニコルがゼロに尋ねる。


「まさか」


ゼロは若干口元を緩ませながらそれに答えた。




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