episode 155 「JとQ」
ジャックは一人で林の中から出てきた。彼のコートは血で汚れていた。もちろん彼の血ではない。クイーンのものだ。手にはクイーンの血がベッタリと付着した弓もある。
大切な人を失ったように浮かない顔のジャック。一触即発の雰囲気を醸し出す。愛用の銃とクイーンの弓を大切にしまい、人混みを避けるようにしてトエフを抜け出す。
(じゃあな、クイーン)
クイーンは木にもたれかかるように倒れていた。
(はぁはぁはぁ)
ジャックに撃たれた傷が痛む。
(死んでない……心臓を撃ち抜くことなんてワケないでしょうに)
ジャックの弾丸はクイーンの体を突き抜けていた。臓器には触れもしないで。
(ホント、昔から肝心なところで甘さが出るんだから……)
クイーンはゆっくりと体を起こす。
(とりあえず、身を隠した方が良さそうね……待っててサン。おねぇちゃんが必ず迎えにいくからね)
クイーンは林の奥へと姿を消した。
「で、結局来てるじゃないか」
「黙れ」
ゼロたちはクイーンを追ってトエフへとやって来た。ゼロに突っ込みをいれるワルター。
「早いとこ探そうぜ。時間がもったいねぇ」
「そうだな。だがそもそも関わる必要があるのか疑問だがな」
急ぐフェンリーと乗り気じゃないオイゲン。
「仕方ないでしょ、リーダーがそういうんだから」
ニコルがゼロを横目で見る。
「無駄口を叩くな。クイーンは強い。こちらに引き込めるのならそれに越したことはない。とにかくクイーンとその弟を探すぞ」
ゼロは先頭をきって歩き出す。その時、前方から強烈な殺気を感じとる。ゼロはとっさに銃に手をかける。
「おい、どうしたんだよ。……なっ!」
フェンリーも気が付いたようだ。向こうもこちらに気が付いたようで、殺気と足音が急に消える。
辺りが静まり返る。ゼロは回りを警戒しながら後ろにいる仲間たちに声をかける。
「お前たち、気を付けろ。ただ者ではないぞ。警戒を怠るなよ」
しかし、誰からも返事がない。不審に思い、振り向くゼロ。
「よう、やっぱりゼロじゃないか」
「……ジャック!」
仲間たちはあっけにとられていたのだ。その男の驚異的なスピードに。そして簡単にゼロの後ろをとり、銃を突きつけていることに。
「俺は今むしゃくしゃしてんだ。ちょっと八つ当たりさせろや」
いきなり発砲するジャック。紙一重で避けるゼロ。銃弾はゼロの頬をかすめて傷を残す。
「ゼロ! だいじょぶかよ!」
駆け寄ってくるフェンリーを手で制止するゼロ。
「来るな! こいつは本気だ!」
ギロリとフェンリーたちを睨むジャック。
「そうだぜぇ。手ェなんか出すなよフェンリー。なんだほかにも見た顔があんな。てかあのお嬢ちゃんどうした? ん? 殺しちまったか?」
バン!
ゼロが発砲する。ゼロ同様顔に傷を作るジャック。
「レイアがなんだって?」
目だけで人を殺せそうなその殺気にゾクゾクするジャック。
「いいねぇ、その目。昔と変わってねぇや。本気のお前と戦えるってワケだ。ちょうどいい、射撃大会のリベンジといくぜ」
「お前たちは下がっていろ。こいつは俺が殺す」
殺気と殺気がぶつかり合う。




