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スティールスマイル  作者: ガブ
第四章 激突
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episode 152 「人質交換」

アン、レミィ、バルトの三人はここでの生活に慣れ始めていた。初めは生活環境や食事に文句を言っていた三人だったが、ローズの計らいでそれは改善された。問題があるとすれば全く光が当たらないことと、暇を持て余してしまうことぐらいだ。


「なぁ、しりとりでもしようぜ」


バルトが隣の牢に入れられているであろうレミィとアンに声をかける。


「嫌よ。一人でやりなさい」

「つめてーな」


レミィは肌の荒れ具合にイライラし始めていた。アンに至っては寝てしまっているのか返事すら返ってこない。


「ちぇ、俺も寝るとするかな」


ふて寝しようとしていたバルトを邪魔するかのように施設内に警報が鳴り響く。



「な、なんだ!?」


飛び起きるバルト。アンも重たいまぶたを開く。


「うるさいですね。止めてやりましょうか息の根を」


恐ろしいことを口走るアンたちの元に兵士が大勢押し掛けてくる。


「お前たち! 手を頭の後ろで組み、扉から離れろ!」


先頭にいた兵士がなにやら慌てた様子で牢の扉を開ける。


「何があったのかしら?」

「口を閉じろ、犯罪者どもが!」


兵士がレミィの質問に答えるはずもなく、三人は拘束されてその場から連れ出される。


レミィたちだけではない。他の牢の者たちも同様に連れ出されている。何かしらの問題が起きたことは明白だった。


(まさか、教官?)


淡い希望を抱きながら兵士たちに付いていくレミィ。そしてすぐさま希望は確信へと変わった。


いたるところから火の手が上がり、その鎮火に兵士たちが大勢駆り出されている。末端の兵士には情報が行き届いていないのか、混乱しているものも少なくはない。


「おい! いったい何があったんだ!」

「わからない、わからないんだ!」

「誰かが攻めてきたって話だぞ」

「正気か? ここは軍の施設だぞ!?」


混乱しながらも兵士と囚人たちは施設の外へと飛び出す。そこに待ったいたのは四人の女性を人質にとる男の姿だった。



「誰だ貴様は。その人たちを離せ。……ヴァルキリア中尉!」


リザベルトの姿に気がつく兵士。その声を聞いてローズも姿を表す。


「リザベルト! リース! レイアまで、それに……セシル?」


四人に気がつくローズ。四人は手足を拘束され、猿ぐつわをはめられている。


「なんだ、四人とも面識があるのか。なら話は早い。お前たちが捕らえたイバル、スパーダ、レミィ、バルト、アンを引き渡せ」


ティーチはリザベルトから奪った剣を人質たちに向ける。


「何の事だ? と言いたいところだがすべてお見通しのようだな。いいだろう奴らは解放してやる。ただし、お前たち生きて帰れると思うなよ」


ローズは部下に指示を出し、五人を連れてこさせる。


「教官!」


レミィが叫ぶ。


イバルとスパーダは未だ意識不明のようでベッドに乗せられたまま運び込まれる。


「レミィ、バルト、アン、無事だったか。イバルとスパーダを連れてこっちに来るんだ」

「ダメだ。リザベルトたちを先に解放しろ」


ティーチがレミィたちを連れてこさせようとするがそれをローズが止める。


「従うのはお前の方だ。レミィたちが船に乗り込み次第こいつらは解放してやる」


ティーチに譲る気は無い。ローズによく見えるように剣をレイアに向ける。仕方なく従うローズ。



「大佐、よろしいのですか? 相手は未知の組織の構成員ですよ?」


ローズに耳打ちをする部下。


「仕方あるまい。一般人を巻き込むわけにはいかない。それにたとえやつらを逃がしたとしてもそこの男は必ず捕まえる」


ティーチを睨み付けるローズ。


「さて、作戦会議は終わったか? 時間の無駄だ。早く事を済ませよう」



ティーチの指示通り五人を解放するローズ。レミィとバルトがイバルとスパーダを背負って連れてくる。


「教官、申し訳ありません……」


下を向くレミィの頭に手をのせるティーチ。


「気にするな。イバルたちを船に運んでくれ」

「はい!」


レミィとバルトはイバルとスパーダをレイアたちが乗ってきた船へと乗せる。



「さあ、次はお前の番だ。人質たちを解放してもらおうか」


ローズが剣を抜く。


「ああ。もちろんだ。俺は約束は守る」


レイアたちの拘束を解くティーチ。


「やけに聞き覚えがいいな。人質はお前の最後の武器だろう? そう簡単に解放していいのか? それともこの人数を相手に逃げきる自信があるとでも?」


てっきり人質解放を渋るかと思ったが、あっさり解放したことに動揺するローズ。ティーチの表情にも別段焦った様子もない。



「俺は俺のやるべき事をする。それだけのことさ」



ティーチはリザベルトから奪った剣を構え、千の敵を見据える。



「教官?」



いつまでたっても船に上ってこないティーチを不安がるレミィ。ティーチは船を止めてあるロープを切断する。


「教官!」

「なにやってんですか!」

「レミィ、バルト。頼んだぞ」



ティーチは振り返らずに二人に手で合図を送る。船はみるみるうちに流されていく。



「で、お前は何でそこにいるんだ? アン」

「だって、こっちの方が面白そうじゃないですか!」

「フ、お前は本当に変わったやつだ」



ティーチはリースから奪った剣をアンに渡す。


「アン、正直お前に教えることはもうない」

「そうですか。なら見ていてください!」


二人は千の敵に向かって突っ込む。



「かかれ!」



ローズの指示で兵士たちもたった二人の敵に立ち向かう。



「教官、教官!」

「ふざけんなよ!」


レミィの声はもうティーチには届かない。バルトの怒号も風にかき消される。



レイアの目に写るかつての敵は、自分自身の守るべき者のために戦っていた。その姿は獣のようであり、悪魔のようであり、そして何より子供を守る父のようだった。




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