episode 150 「シアン」
目を覚ますケイト。吹き飛ばされたときに頭を打ったのか、激しい頭痛に襲われる。
(はやく、逃げなきゃ……)
ゲイリーから逃れるべく、無理やり体を起こすケイト。
いつ襲われてもおかしくない。だがいつまでたってもゲイリーは現れない。それどころか辺りを見渡してもゲイリーの姿がない。ゲイリーだけではない。子供たちの姿もなかった。と、いうよりもよくみたらここはコロシアムでもなかった。
(?????)
混乱して頭がおかしくなりそうになるケイト。
「気がついたのか」
「ひゃ!」
突然の後ろからの声に驚いて飛び上がってしまうケイト。声をかけてきたのはシアンだった。パステルの姿もある。
「あ、あなたたちは」
「俺の名前はシアン。この子はパステル」
シアンはパステルの背中に手を回す。
「こんにちは。私はパステル。ありがとう、助けてくれて」
ホタルのような服に身を包んだ少女が満天の笑顔を浮かべる。
未だ状況がつかめないケイト。さらに困惑させるように奥から子供たちが現れる。
「こんちは! 私はエクリュ! ケイトちゃんだったよね? さっきはかっこよかったよ!」
くすんだ黄色い髪の毛を頭上で二つに結んだ少女が声をかけてくる。八重歯がキラリと光るチェックのワンピース風の服を着た少女だ。
「あ、うん」
エクリュの差し出してきた手を握りながら返事をするケイト。
またもや頭痛に襲われるケイト。エクリュから手を離して頭にあてる。
「だいじょぶ? でもその程度で済んだのはヘレンのお陰なんだよ?」
「ヘレン?」
エクリュは全身黒ずくめのオールバックの少女を指差す。ヘレンはペコリと頭を下げ、部屋を出ていく。
「恥ずかしがりやなの」
エクリュは困った顔をする。
「エクリュ、病み上がりだぞ。あまりしつこくするな」
子供たちの中でもひときわ背の高い男が声をかけてくる。筋骨粒々で、顔立ちはまるで三十代だ。本当に子供なのだろうか。
男はエクリュを軽々とつまみあげる。エクリュは猫のように丸まる。
「俺はフォーン。お前のお陰であの連中を退けられた。礼を言う」
「あ、はい」
フォーンはエクリュをつかんだまま部屋を後にする。
フォーンの大きな体がなくなると一人の少年の姿が現れる。年はケイトと大差ないだろう。髪の毛は緑でくるくるの天然パーマだ。チラチラとケイトの方を見ているが声をかけてくる様子は無い。
「フォリッジ、モジモジするんじゃない」
シアンに背中を押されてケイトのもとにやってくる少年。
「ボク、フォリッジ」
フォリッジはケイトに目を合わせられないまま手を差し出す。
「私、ケイト」
その手をとるとフォリッジは少し笑い、スキップなんかしながら部屋を出ていく。
だんだんと落ち着いてきたケイト。そのケイトの腕をシアンが引っ張る。
「な、なに!」
「目覚めたんならすぐに出発だ。いつここが見つかるかわからない」
奥の部屋から準備を済ませた子供たちが顔を出す。
「シアン! 準備でけたよ! そいやクロムは?」
「クロムなら倉庫だろう」
エクリュの質問に答えるシアン。倉庫では一人の少年が笑みを浮かべていた。
「フフ、フフフフ。しんだ。しんだ。いっぱいしんだ」
わけがわからないまま連れ出されるケイト。
「エクシルは? ここはどこ?」
「ここはハウエリスだ。あいつらからは隙を見て逃げ出した。だが見つかるのも時間の問題、すぐに移動する。フォーン、クロムを頼む」
フォーンはうなずき、倉庫へと走っていく。すぐに薄気味悪い笑顔を浮かべるクロムを連れて戻ってくるフォーン。クロムはケイトどころか他のメンバーにも一切目もくれず、なにもない空中を見つめている。
「そろったな、いくぞ」
「いくってどこに?」
頭がパンクしそうなケイト。
「モルガント帝国だ。俺たちの目標はただひとつ。復讐だ。モルガントとセルフィシーの連中を血祭りにあげてやる」
子供たちの無邪気な姿をみてすっかり忘れていたが、彼らはコロシアムで大量殺人をおこなっていた人殺しだ。
復讐と語るシアンの顔は殺し屋と比べても遜色ないレベルで狂気を帯びていた。シアンだけではない。満天の笑顔を浮かべていたパステルや、八重歯を煌めかせるエクリュまでもが恐ろしい殺気を放っている。
息を飲むケイト。
「さあ、行こうか」




