episode 15 「エレナ」
レイアはゼロが手にした賞金で、久し振りにショッピングを楽しんでいた。
「ふふ。どうですか?ゼロさん」
片っ端から服をかき集め、その中の一着を試着したレイアが嬉しそうにゼロに感想を求める。
「ああ、悪くない」
「ゼロさん!」
ゼロとしては素直に褒めたつもりだったが、レイアに詰め寄られ動揺する。
「な、なんだ?」
「悪くない、じゃなくて、いい、って言ってください!」
乙女心は難しいと思うゼロ。
新しい服に身を包むと、メル家を目指す準備に取りかかる二人。取り敢えず水と食料を買い、武器屋に向かう。そこにいたのは先程壮絶な死闘を繰り広げたあの男だった。
「お、チャンピオンじゃん。デートですかぁ?」
「……ここで何をしている、ジャック」
不機嫌そうな顔をするゼロ。1度は自分を殺そうとした人間の登場に、レイアも不安そうにゼロの後ろにかくれている。
「そう怯えるなよ、襲いたくなっちゃうぞ」
震えるレイアに話しかけるジャックを睨み付けるゼロ。しっかりと殺意のこもった瞳に、慌てて離れるジャック。
「まてまて、俺はただ預けていた武器を取りに来ただけさ。まさかこれを持って町中うろつくわけにもいかねぇからな」
そういってジャックは店主からライフルを受けとる。2メートルはあるだろうか、確かに町をうろつくのにこれは不必要だろう。
「で、お前は何しに来たんだ? そのおんぼろ銃を新調しに来たか? それ組織から支給される訓練用のヤツだろ」
ジャックは受け取った銃を丁寧に点検しながらゼロに問いかける。ゼロは銃を撫でながら質問に答える。
「ああ。だが新調はしない。これは俺が初めて人を殺した時に使用したものだ。戒めだ。手放すことはできない」
そういってゼロはガンオイルと弾を物色し始める。よく分からないが、とりあえずレイアも後ろについて行く。俺は邪魔物か、そう言いたげにジャックは去っていった。
たくさんの人々に見送られながらチャンピオンたちは町を去った。今までの人生で味わったことの無い奇妙な感覚を抱きながら。
そしてその日の夕方にはメル家のあるルーカスの都に着いたのだった。
ルーカスはメル家が治める都だ。メル家はルーカスで一番の高台に位置している。レイアはメル家の二女エレナと友達だった。最近は滅多に会うこともないが、昔はよく一緒に遊んだ。
「エレナはとってもいいこなんですよ」
レイアはとても嬉しそうに思い出話をゼロに聞かせる。
「ここです!」
それはスチュワートの倍はありそうな大きな屋敷だった。レイアが門の前にたつと、庭にいた執事が駆け寄ってくる。
「スチュワート様! ご無事でしたか!」
執事はとても驚いた様子で急いで門を開ける。どうやらレイアの事情はある程度伝わっているらしい。
「風の噂でスチュワート家が襲われたと聞いたものですから……」
ホッとした様子の執事に真実を伝えるレイア。
「そうですか、それは大変な思いをされましたね。ですが、ここに来ればもう安心です。ところで……」
執事はレイアの隣に立っているゼロのことが気になるようだ。身なりは気品が感じられるが、その瞳の奥にはしっかりと闇が感じられる。とても使用人とは思えない。
「この方はわたくしのボディーガードです。怖い顔をしていますが、とても優しい方なのですよ」
レイアの紹介に預かり、ペコリとお辞儀をするゼロ。執事も安心したようで二人を屋敷内に招き入れる。内装もスチュワートとはまるで違う。金がそこらかしこに装飾されており、目のやり場に困る。
「エレナお嬢様をおよびいたしますゆえこちらの応接間にておくつろぎくださいませ」
執事は2人を応接間へと案内する。そこにも巨大な絵や高価であろう壺が飾られている。しばらくくつろいでいると浮かない顔の少女がやって来た。
「お久しぶりね、レイア。」
「エレナ!」
装飾が施された椅子から飛び上がり、現れた友達のもとへと走っていくレイア。確かにそこにいたのは懐かしのエレナだったが、彼女の様子は何処かおかしく、髪はぼさぼさで目の下には濃い隈がある。
「ごめんなさいね。みっともない姿で」
友達の変わり果てた姿に驚くレイア。
「どうしたのですか? 体の具合でも悪いのですか?」
「実はそうなの。でも気にしないで。レイアもゼロさんもゆっくりおくつろぎになってね」
それだけ言い残すと、エレナは自室へと戻っていった。
とまどいつつもつかの間の安息を堪能する二人。食事を頂き、入浴をし、寝床に入る。
そんな当たり前の日常を、レイアは久し振りに過ごした。
「レイア、質問がある」
布団をかぶり、うとうとし始めていたレイアに突然質問をするゼロ。
「な、なんでしゅか?」
思わず噛んでしまい、布団に顔を埋めるレイアにゼロはいたって真剣な顔で続ける。
「応接間であったエレナという少女。彼女は信頼できるか?」
友達を悪く言われたのかとムッとなるレイア。いくらゼロとはいえ、聞き逃すことはできないと、布団から飛び出て反論する。
「勿論です! 5つの頃から友達です!」
「あいつは俺の名前を知っていた。組織と繋がりがあるのかもしれない」
確かにゼロは、エレナは愚か屋敷の人たちにも名前は伝えていなかった。その真実を突きつけられ、絶句するレイア。
「俺たちは罠にかかったのかもしれない」
底知れぬ不安がレイアを襲った。




