episode 145 「裏切り」
三人はローズを取り囲むように散らばる。
「アン! 俺たちが左右から攻める! お前はその隙に正面から斬りかかれ!」
バルトはそう叫んでローズの右側から斬りかかる。と同時にレミィも左側から斬りかかる。
異なる方向からの対応に追われることになったローズだったが、普段から多大な敵と対峙しているローズにとって、この程度の状況など対処するまでの事もなかった。
バルトとレミィを完全に無視し、目の前のアンに向かって突っ込むローズ。
「来い!」
アンも迎え撃つ気満々だ。
「くっそ! 後ろから回り込むぞ!」
作戦失敗に終わったバルトは作戦を切り替え、レミィと共にローズを挟み撃ちする形で後ろから追いかける。
が、それも失敗に終わる。
一瞬でアンを吹き飛ばし、すぐさま反転してバルトとレミィを薙ぎ払うローズ。気がつけば三人とも床に仰向けに倒れていた。
「ここまでだ。大人しく投降しろ。お前たちのような人間を殺したくはない」
ローズは剣を納める。それを合図に屋敷の入り口から大量の兵士たちがなだれ込んでくる。
レミィは諦めたのか、武器を捨て両手を頭の後ろへと移動し立ち上がる。
「レミィ! 最後まで戦いましょう!」
アンは諦めようとしない。剣を再び握りしめる。
「アン、俺たちは諦める訳じゃねぇ。ここで死んだらそれこそ終わりだ。生きていれば次がある」
アンをなだめ、自らも武器を捨てるバルト。アンは躊躇したが、結局同様に武器を捨てる。
「確保せよ!」
ローズの合図で三人は拘束された。
一方その頃ハウエリスではクイーンが氷から解放され、宿に腰を下ろしていた。
「見るんじゃないわよ」
涙と鼻水で真っ赤になった顔が恥ずかしさで更に赤みを増す。
「さあ、話せ。俺たちには時間がない」
「あんた、嫌なやつね」
まったく興味がないように話を急かすゼロに対して嫌な顔をするクイーン。
「そう言わないで聞こう。彼女の命がかかっているのだからね」
ワルターの言葉に機嫌を直したのか語り出すクイーン。
「そうよ、よく聞きなさい。あんたたちのせいで私はエクシルに殺されかけたのよ」
話はクイーンがエクシルからの連絡に気付き、すぐに本部へ戻った頃にさかのぼる。
(まったく、おの女ふざけるんじゃないわよ! こっちは命を救ってあげたのよ? まあ私も救ってもらってるからそれはいいけど……とにかく、エクシルに弁解しないと!)
本部へ訪れたクイーンを待っていたのはいつもとはまったく違った歓迎だった。施設へと通ずる地下通路を抜けた先にはすでにエクシルと数人の部下が待ち構えており、クイーンに対して敵意をむき出しにしていた。
「な、なによ」
エクシルが一歩前に出る。
「クイーン、ゼロたちをエンヴァーから救ったそうだな。それは本当か?」
エクシルから殺意が溢れる。
「ええ、でも」
その言葉を聞いてエクシルの分かたちは一斉にクイーンに武器を向ける。
「ゲイリーとヤンは死に、お前は生きている。その言葉だけで充分だ」
「待って、私の話を聞いて!」
「話は必要ない。お前が裏切っていないと言うなら行動で示せ。今から72時間以内にゼロかオイゲンの首をとって来い。なに、難しい話じゃない。すでにアーノルトもハウエリスへ向けて出発した」
クイーンは恐る恐る尋ねる。
「もし、できなかったら?」
アーノルトがいる。それだけで答えはわかりきっていた。
「その時はアーノルトの指示に従え。きっと俺の悩みを解決してくれる」
(そう、殺されるわけね)
クイーンは追い出される形で本部を後にした。
「それだけか?」
話を聞き終えたゼロが始めに口を開く。
「それだけって……あんたたちのせいで私は命を狙われてるのよ!?」
「何を勘違いしているんだ。俺たちは敵同士、元はお前の方から俺たちの命を狙って来たのだろう?」
「うぐ」
ゼロの言葉に反論できないクイーン。ゼロは更に付け加える。
「お前のために命を投げ出すつもりはない。殺されるのが嫌なら逃げればいいだろう」
クイーンは立ち上がり、両手を大きく広げて反論する。
「簡単に言わないで! 相手はあのアーノルトなのよ!? 逃げられるわけがない!」
「なら俺たちと組まないかい?」
ワルターが横から口を挟む。
「なんですって?」
「私たちはこれからアーノルトを倒しにいくのよ」
ニコルの言葉に驚いてしりもちをつくクイーン。
「な、な、な、な、な!」
言葉が出てこないクイーン。
「驚くのも無理はない。だが俺たちはやつを倒し、組織を壊滅させる」
オイゲンの付け加えで完全に意識が飛ぶクイーン。
ワルターとフェンリーが心配そうに気絶したクイーンの様子をうかがう。
「おいおい、大丈夫かよこんなやつ引き入れて……」
「大丈夫さ、彼女はいいこだよ」
五人は伸びているクイーンを取り囲む。
「仲間は多いに越したことはない。こいつが受け入れればの話だがな」
ゼロたちはクイーンの目覚めを待ちながらつかの間の休息を取るのだった。




