episode 140「奪還」
「みなさん、お話があります」
レイアは皆を広場に集める。
「ケイトちゃんが組織の手にわたりました。わたくしは救出に向かいます。ですが、わたくし一人の力では到底不可能です。ですから、みなさんの力を貸してください。お願い致します!」
レイアは深々と頭を下げる。
「すぐに参りましょう! 時間がもったいないです!」
「レイアの友人は私の友人だ」
「わたくしも行きますわ! まだお話ししたいことたくさんありますもの!」
リース、リザベルト、セシルの三人はその言葉を待っていたかのように準備を進める。ジャンヌはティーチの居る地下牢へと降りていく。
足音よりも早くそのまがまがしい殺気を感じとるティーチ。
「おやおや、クイーンの登場か。何のようかな?」
その質問には答えず牢の鍵を開けるジャンヌ。
「あなたには道案内をしてもらうわよ」
「素直に従うとでも?」
ティーチに手錠をして牢へから連れ出すジャンヌ。
「命が惜しくないのかしら?」
「命? そんなもの組織に身を置くときに捨ててきた」
「別にあなたの命って訳じゃないのよ?」
「何だと?」
ジャンヌはティーチを屋敷の裏側へと連れていく。そこには拘束された瀕死のイバルとスパーダの姿があった。二人とも身体中傷だらけですぐに手当てをしないと危険な状態だった。
「お前たち、なぜ……」
「あれからのこのこ戻ってきたのよ。せっかくあなたが命がけで逃がしたのにね。随分と泣かせる話ね。一応殺し屋なんでしょ?」
ジャンヌは冷たい目でイバルとスパーダを見る。
「どうするつもりだ」
「それはあなた次第よ。素直に従うなら助けてあげる。従わないのなら……」
ジャンヌは地面に剣を突き刺す。
「そんな脅しに屈するとでも?」
「ええ。そうね」
ジャンヌは剣を引き抜き、イバルに向かって振り下ろす。
「やめ!」
ティーチはとっさに飛び出すが、拘束されていて身動きが取れない。剣はイバルの目の前で動きを止める。
「もういい? 無駄なことはしない主義なんでしょ?」
ティーチは脱力する。
「わかった。ただし身の安全は保証しろ」
「ええ。一応約束は守るつもり」
にっこり笑うジャンヌ。イバルとスパーダは使用人たちの手によってどこかへ運ばれていく。
ティーチを連れて広間へ戻るジャンヌ。すでに一同は準備を大方済ませていた。
「ごめんねレイアちゃん。私は行けないの。でもリズとリースを連れていって。それからこの人も」
ジャンヌは拘束したティーチをレイアに突きだす。
「道案内をしてくれるはずよ」
リザベルトはティーチを睨み付ける。
「なんだ剣士。文句でも?」
「姉上、この男といかなくては行けないのですか?」
ティーチがこちらを向くと、目線を反らしジャンヌに尋ねるリザベルト。
「仕方ないわ。この人しかケイトちゃんの居所を知らないんだもん。大丈夫、手出しはしてこないわ」
リザベルトは足をさする。
「お前のことは守らない」
「好きにするといい。自分より弱いものに守られることもない」
剣を抜こうとするリザベルトを必死に押さえるリース。
「中尉、ここは落ち着きましょう。ケイトの居所を吐かせるのが先です!」
「そ、そうだな」
セシルもティーチの顔を見るなり、あの服屋での記憶が甦る。すっかり怯えきってレイアの後ろに隠れてしまう。
「なんだあの時の娘か。よろしく頼むよ」
にやりと意地悪そうに笑うティーチに耳打ちするジャンヌ。
「いい? いつでも殺せることを忘れないでね?」
その言葉で口を閉じるティーチ。
ジャンヌは皆に別れを言い、任務へと戻っていった。
「ケイトちゃんを連れ戻したらみんなでバカンスにでもいきましょう?」
「お任せください姉上!」
レイアたちはヴァルキリア邸を出発した。




