episode 137 「招かれざる客」
組織のエージェント、ティーチとその部下アンとスパーダ。三人はヴァルキリア邸の扉を叩く。
「反応がないな……」
屋敷の中は静まり返っている。
「留守でしょうか? 鍵がかかっていますね」
お下げ頭のアンが扉を引くもまったく動かない。
「だったら壊せばいいじゃんか」
スパーダは扉を蹴り飛ばす。扉は留め具ごと吹き飛ばされ、屋敷の中へと侵入する三人。
「もう、乱暴なんだからスパーダは!」
「何甘いこといってんだアン。これから人殺しに行くってのに」
「二人とも、ここは敵地だ。騒ぐなら外で待っていろ」
屋敷の中へと中を物色する三人。どこにも人は見当たらない。
「教官、感づかれたのでは?」
アンが不安そうにティーチに尋ねる。
「かもな」
その時、スパーダが何かを見つけ、大声でティーチを呼ぶ。
「教官! こっちこっち!」
スパーダの声がする方へと急ぐティーチとアン。そこには横たわるリザベルトの姿があった。
「うわ! すごい怪我、痛そう……」
「この女剣士はあの時の……逃げられないと悟って置いていかれたか。不憫だな。すぐ楽にしてやる」
ティーチは短剣を抜く。
「そこまでだ!」
ティーチとアンの後ろから女の声がする。振り向くとそこにはスパーダに剣を突き立てる赤毛の女兵士の姿があった。
「きょ、きょうかーん!」
「……誰だ?」
スパーダは刃を突きつけられ、無様に泣きべそをかいている。
「私はリース。帝国軍曹長、リース・フェンサー! お前たちはここで拘束する! さあ、武器を捨てろ!」
リースは人質を手にいれたことで強気に出るが、ティーチにはまったく堪えていない。それどころかアンまで剣を抜き、リースに向かって突き立てる。
「な! 人質が見えないのか!」
「ひ、ひぃ~!」
リースは驚いてより強くスパーダに刃を突き付ける。首に刃が当たり、うっすらと血がにじみ出す。
スパーダの無様な表情に呆れてため息をつくアン。
「はぁ、スパーダ。いい加減にしてよ。目をつぶればいいじゃない」
「あ、そうか」
言われた通りスパーダは目を閉じる。すると今までの震えが嘘のようにおさまるスパーダ。
「いったい、何を……うっ!」
みぞおちに肘鉄をくらい、後ろに倒れ混むリース。そのときの勢いでスパーダの首にも切り傷が残るが、一切気にしていないスパーダ。
「ふぅ。危なかった。まったく、そんな危険なもの向けんなよな! 俺は先端恐怖症なんだ!」
目を開け、拳を構えるスパーダ。
「げほっ!」
なんとか立ち上がるリース。
ティーチはリザベルトの首もとに短剣を当てる。
「さて、立場は逆転だ。そこから動けばこの剣士は殺す。あとは言わなくてもわかるな?」
リースが剣を地面におこうとしたその時、リザベルトが体を起こす。
「そうはさせない!」
起き上がったリザベルトはティーチから短剣を奪い取り、スパーダに向ける。再び悲鳴をあげるスパーダ。
「ひぃ!」
「まだ動けるのか、しかしその足では時間の問題だぞ?」
ティーチの言葉通り、リザベルトの足のダメージは甚大で、支え無しではまともに立つことすらままならない。
「問題ない、私は姉上が戻ってくるまでの時間稼ぎができればそれでいい」
「なるほどな。目当ての姉上とやらはここには居ないのか。なら待っていてやろう」
「何だと?」
まさかの言葉に警戒するリザベルト。その一瞬の隙をつかれ、アンによって短剣を吹き飛ばされる。
「待っていてやる。そして現れたその女にお前たちの死体を突きつけてやろう」
ティーチは椅子に腰かける。
「アン、スパーダ。その二人はお前たちが始末しろ。その程度の者たちに遅れをとるようなら到底エージェントになぞなれないからな」
「はい!」
「わかったぜ!」
アンはリースと、スパーダはリザベルトとそれぞれ向かい合う。
「リースさん、あなたに恨みはありませんが、死んでくれると助かります」
「ふざけないで! 帝国に仇なす不貞な輩はこの私が叩き潰す!」
「は、早くその剣をしまってくれ!」
「な、なんなんだお前は。だが、容赦はしない!」




