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スティールスマイル  作者: ガブ
第四章 激突
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episode 135 「ケイトの覚悟」

ケイトはロープでティーチの右腕を絡めとる。


「うん。狙いは正確だ。次はどうする?」


ケイトはロープを思い切り手前に引き寄せる。だがティーチの体はびくともしない。


「体勢を崩した隙に首にロープを掛けるつもりか。作戦は悪くないがこの実力差では効果はないな」


逆にティーチがロープを引き寄せ、カウンターでケイトの腹に強烈な突きをくらわせる。


「っぁ!」


ケイトの小さな体はいとも簡単に吹き飛ばされる。


「さてケイト。こういう場合の選択肢は三つだ。一つ、逃走すること。二つ、服従すること。三つ、諦めて死を受け入れること」


ケイトはボロボロの体を無理やり立たせてリザベルトとセシルのようすを伺う。リザベルトの足は刺し傷が酷く、自力で歩くことが難しそうだ。セシルはいまだに目を覚まさない。


(逃走は困難。服従は死んでも嫌。でも、このままじゃ……)


ケイトはティーチの前に座り込む。


「付いていきます。だから、二人には、手を出さないでください」


膝をつき、ティーチに頭を下げるケイト。ティーチはそんなケイトの頭に手を乗せる。


「正しい判断だ。しかし、こいつらは殺す。それもお前の手でだ」


そう言ってケイトに短剣を渡すティーチ。


「言っておくが変な気は起こすなよ。ろくな結果にはならないぞ」


ケイトはその剣を受け取り、自らの首に突きつける。


「何をしている?」

「みんなを見逃してくれないのなら、私はここで死ぬ!」


呆れた顔で首を横に降るティーチ。


「やれやれ、自分を人質にするなんて事は教えてないぞ。バカな真似はよせ」


短剣が少しずつケイトの細い首に食い込む。血が滴り、皮膚を伝って服の内側へと流れていく。


「私は本気!」

「そうか、なら俺が殺そう」


そう言ってケイトから無理やり短剣を取り上げるティーチ。


「やめて!」

「いいや、やめない」


抵抗するケイトを足であしらいながらセシルの首を掴むティーチ。


「まずはお前だ」


短剣を振り下ろそうとしたその時、倉庫の外から大きな声が聞こえてきた。



「皆さん! こちらです!」



それは紛れもないレイアの声だった。泣き出しそうになるケイトだったが、それをティーチに悟られないよう必死にこらえた。


「チッ、誰か来たな。ケイト! お前もこい!」


短剣を捨て、ケイトの腕を引っ張り倉庫の裏口から逃げ出すティーチ。リザベルトとセシルを救うため、素直に従うケイト。


(みんな、無事でいて……)




セシルはヴァルキリア邸の医務室で目を覚ました。頭がガンガンと痛む。ふと隣に目をやると傷だらけのリザベルトの姿があった。一人の女性が熱心に手当てをしている。


女性はセシルに気がついたのか声をかけてくる。


「あら、目が覚めたの。私はジャンヌ。一応この子の姉よ。あなたはセシルちゃんね?」


体を起こし、ペコリとお辞儀をするセシル。


「ええ、そうですわ。わたくし、一体何が何だか……」


セシルは頭を押さえる。




「セシル!」



レイアが部屋に飛び込んでくる。


「無事だったのですね! 本当によかった!」


レイアはセシルに抱きつき、安堵する。


「レイア、一体何があったのか教えてくださるかしら?」

「覚えてないんですか?」


レイアはセシルに説明を始める。


ケイトとセシルが買い物に出たっきりなかなか戻って来なかったこと。

リザベルトと手分けして探しに行ったこと。

町の人たちが少女たちを連れた怪しい男を目撃したこと。

そこにいくとセシルと傷だらけのリザベルトが倒れていたこと。


レイアの言葉を聞いてだんだんと思い出してくるセシル。恐怖と共に一つの疑問が浮かび上がる。



「ケイトちゃんはどうしたのです?」



セシルの言葉にしたを向くレイア。


「ケイトちゃんは……見つかりませんでした。あったのはこれだけです」


レイアは倉庫で拾った短剣をセシルに見せる。


「これはおそらくあなたたちを襲った男のものでしょう。ケイトちゃんは連れていかれたんだと思います」


血がベットリと付着した短剣を見つめるセシル。


「そんな……」


楽しかった時間が嘘のように絶望がセシルを襲う。


「探しに……行く」


リザベルトが目を覚ます。


「リズ、まだ寝てなさい。一応ね」


ジャンヌがリザベルトの方を支える。


「姉上……お恥ずかしい姿をお見せしました」

「いいのよ。一応お姉ちゃんなのよ。もっと恥ずかしい姿はいくらでも見てきたしね。おねしょした時の話しましょうか?」

「姉上……連れていかれたのは私の友人なのです」


ボロボロの足で立ち上がろうとするが、体は言うことを聞かない。ジャンヌに支えられてベッドに戻されるリザベルト。


「わかったわ。代わりに私が探す。あなたは大人しくリースとここで待っていなさい」

「姉上! そんな、姉上の手を煩わせるわけには……!」


リザベルトのおでこにでこぴんをするジャンヌ。


「あ、姉上?」

「友達を助けたいんでしょ? 余計なことは考えなくてもいいの。それに、もっと頼ってもいいのよ? 一応、私お姉ちゃんなんだから」


そう言ってリースを呼ぶジャンヌ。その声に応じてリースがすぐに駆けつける。


「リース曹長、参上いたしました!」


元気よくジャンヌに敬礼をするリース。


「リズを頼むわね、リース」

「ハ!」


ジャンヌは医務室を出ていく。体は華奢ながら、その背中から放たれるオーラは計り知れない。


「どこの誰だか知らないけれど、一応私、怒ってるから」


帝国軍中将にして帝国三剣士の一人、帝国屈指の実力を誇る彼女は、大切な妹が傷つけられたことで怒りを露にしていた。



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