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スティールスマイル  作者: ガブ
第四章 激突
129/621

episode 129 「最後の晩餐」

ゼロはただひたすらに走った。目の前を走る大切な人を追いかけて。自分に感情をくれた人、自分に笑顔をくれた人、自分を人間にしてくれた人。


「レイア!」


レイアの腕をつかむ。


「離じでぐださい」


鼻水声のレイアが振り向かずに答える。


「俺の話を聞いてくれ」

「ぎぎだぐないです! ぎげば行ってしまうのでしょう?」


レイアが振り向く。顔は涙で溢れていた。ゼロに顔を埋め、ワンワン泣き出す。レイアの頭に優しく手を乗せるゼロ。


「泣くな。お前は俺にとっての灯台だ。灯台に灯りが灯っていなければ、俺は先へと進めない」

「なら帰ってきてください! そのための灯台ですよ!?」


ゼロの手を払い除け、ゼロに叫ぶレイア。


「……今回のことで俺を重い知らされた。俺は常に狙われている。たとえ最強のアーノルトを倒せたとしても、組織が無くなるわけじゃない。お前を巻き込みたくないんだ」

「わかってますよ! でも、でも!」


ガバッとレイアを抱き寄せるゼロ。


「俺だってお前と離れたくはない! 許されるのならいつまでもこうしていたい! だが俺は殺し屋、お前は貴族だ! その現実は一生変わらない!」

「わたくしはあなたを愛しています! その気持ちも一生変わりません!」

「ああ。俺も同じだ……」


二人は夕日を背景に、引き寄せられるように口づけを交わす。



「いつになるかはわからない。だがお前がここで笑い続けると言うならば、俺はそれを頼りに帰ってくる。待っていてくれるか?」


答えはわかっていた。


「いつまでも」


二人は時間の許す限り、お互いの暖かさを伝え合った。



夜が更け、屋敷へと戻った二人をニコルがにやにやして出迎える。


「あら、レイア。 顔が真っ赤ね。よっぽど泣いたのかしら? それとも……」

「何でもありません!」


すでに屋敷では夕食の用意ができていた。


「ゼロ、フェンリー、ワルター、オイゲン、ニコル。今夜は最後の夜だ。存分にもてなそう」


ローズの挨拶で食事を始める一行。


「お、酒があるじゃねーか!」

「父上が隠し持っていた物だ。かなりのマニアでな。味は保証する」

「まじか! 飲むぜオイゲン、ワルター!」


フェンリーはうきうきでグラスに酒を注ぐ。


「いいね。久しぶりだ」

「最後の夜だ。存分に飲み明かそう」


三人はテーブルを離れ、地べたに座り楽しそうに酒を飲み始める。


「ゼロは飲まないのか?」

「俺はまだ未成年だ。それにこっちの方がいい」


ローズにほうじ茶の入ったコップを見せつけるゼロ。


「……渋いやつだ」



ケイトとセシルはすぐに打ち解けた。


「あら、あなたもう少し綺麗にしたら可愛いんじゃないかしら? わたくしの服を貸して差し上げますわ」


自分の服をケイトに差し出すセシル。


「ちょっと大きい。あ、胸のところはぴったしだ」

「な、なんですって!?」




ゼロとレイア、ローズとリースの四人は静かに食事を進める。


「これ美味しい! なんですか?」

「魚のムニエルだ。シェフの自慢作らしいぞ」


リースは初めて食べたのか、そればかり口に運ぶ。


「ふふ。やっぱり皆で食べるご飯は美味しいですね」

「ああ、そうだな」


レイアと笑い合うゼロ。だいぶ笑顔もさまになってきたようだ。



「うひゃーまだまだのむぞ!」


フェンリーが顔を真っ赤にして酒をラッパ飲みしている。


「おいおい、その辺にしておいた方がいいんじゃないかい?」

「うるへぇー!」

「悪酔いするやつだな」


ワルターの忠告を無視し、どんどんアルコールを摂取するフェンリーを冷ややかな目でみるオイゲン。


「ふふ。楽しそうね」


ニコルが追加の酒を持って三人のもとにやって来る。


「お、ねぇーひゃんいっひょにのもうや!」


フェンリーが呂律が回らず、ニコルが誰だか識別もできていないようだ。


「ご一緒しても?」

「ああ、もちろんさ!」


ニコルをワルターは快く受け入れるが、オイゲンはそうでもない。


「俺はお前を許した覚えはない」

「そう、なら私は失礼するわ」


去ろうとするニコルを呼び止めるオイゲン。


「だがここは酒の場だ。しがらみは切り捨てて飲み交わそう」


ニコルは少し微笑んでその場に座る。



最後の晩餐は夜遅くまで続いた。







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