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スティールスマイル  作者: ガブ
第四章 激突
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episode 128 「帰還」

レイアはローズ、ケイトと共にモルガント帝国、帝都モルガントの門でゼロたちの帰りを待っていた。


ゼロたちがここを出てから約十日が経過していた。その間毎日こうしてレイアは門まで出払っては地平線の彼方を見つめていた。


そしてその日はとうとう訪れた。


見覚えのあるシルエットがうっすらと浮かび上がり、それは徐々にくっきりレイアの目に映る。次第に気持ちは押さえきれなくなり、自然に足が動き出す。やがて希望は確信へと代わり、思いの丈を思いっきりぶつける。


「ゼロさん、ゼロさん! 怪我はありませんか? どこも痛くありませんか?」

「ああ、レイア。いまお前が締め付けている腰以外はな」


ハッとなってゼロから手を離すレイア。


「す、すみません。わたくし、嬉しくなってしまって……」


顔を赤らめ、上目遣いでゼロを見つめるレイア。


「お帰りなさい」

「ああ。ただいま」


互いに見つめ合うゼロとレイア。


「コホン!」


セシルがわざとらしく咳払いする。


「あなたたち、そんな関係だったのね。未成年だと言うのに、いやらしい」

「せ、セシルなのですか!? どうしてここに!」


思わぬ友人の登場に驚くレイア。よくみたらセシル以外にも知らない大男、ニコルにワルターまで一緒にいる。


「今頃気づいたのね。まったく、ゼロしか目に入っていないんだから……」


恥ずかしくなって下を向くレイア。顔はさらに赤みを増している。


「すみません……」


申し訳なさそうにするレイアの前にオイゲンがヌっと現れる。


「な、なんでしょう?」


自分より1メートル以上はありそうな大男に怯えるレイア。そんなレイアに膝まづき、目線を合わせるオイゲン。


「レイア・スチュワート様、どうかお嬢様を……」

「何か訳有りなのですね。話を聞きましょう」


一行はヴァルキリア邸へと場所を移す。





「そんなことが……」



セシルから話を聞き、あまりの出来事に言葉を失うレイア。話すセシルの目にも涙がにじむ。セシルを抱き寄せるレイア。


「もう大丈夫です。わたくしがそばに居ます。リザベルトも、ローズも、みんなあなたの味方です」

「ありがとう……」


安心し、抑えていたものが溢れるセシル。レイアはそれをすべて優しく受け止める。




オイゲンは診療室で看護師たちから治療を受けていた。


「信じられない肉体ね。それと精神力。普通この怪我なら死んでるわよ」


オイゲンの体にできた無数の傷を見て驚愕の表情を浮かべる看護師。


「普通ではお嬢様を守れないからな」

「あなた顔はイマイチだけれどいい男ね」


バチンとオイゲンの背中を叩く看護師。


「うっ!」

「あ、ご免なさい……」




ワルターはリースと久しぶりの再開を果たし、久しぶりの説教を食らっていた。


「兄さん! 勝手にいなくなるなんてどういうつもり? どれだけ心配したと思っているの!」

「すまない妹よ。俺にはどうしてもやらなきゃいけないことがあるんだ。わかって欲しい」


まったく反省の色を見せないワルターにますますリースの怒りが膨れ上がる。


「やらなきゃいけないこと? どうせ強い人と戦いたいとかいいだすんでしょ!」

「さすがは俺の妹だ、兄さんは鼻が高いよ」


カチンときたリースはワルターの脳天に手痛い一撃を浴びせる。



「相変わらずだな」


ローズがリースに声をかける。


「口で言ってわからないならこうするしかないです!」

「はは、まったく頭が上がらないな」


ワルターは久しぶりに心の底から笑顔になった。





「よう、おちびちゃん。俺たちが居ないあいだ寂しくて泣いてないか?」

「きもい、寄らないで」


久しぶりの再会だというのに、ケイトはフェンリーを邪険にする。


「まぁ、そう言うなや。今回で最後になるかも知れねぇんだからな」


フェンリーが今までに無いくらい神妙な顔つきになる。


「それって、どういう意味?」


胸騒ぎがするケイト。




「レイア、そして皆、聞いて欲しい」


ゼロが前に出る。


「俺たちは最後の戦いに挑む。ここにはもう……戻れないかもしれない」


ガタッと立ち上がるレイア。


「それってどういう意味ですか!」

「組織に俺たちの存在がバレた。今回対峙したエージェントたちはアーノルトが来るまでの時間稼ぎだろう。そしておそらくアーノルトはもう動き出している」


つかみかかってくるレイアに優しく語りかけるゼロ。


「ここに戻ってきたのはセシルを保護するため、そしてお前たちに別れを告げるためだ」

「嫌です! 嫌です!わたくしも一緒に!」


レイアは自分でもわかっていた。こういう時、ゼロは決して自分を連れては行かないことを。


「ローズ、お前には迷惑をかける。セシルを頼む」

「安心してくれ。必ず私が守る」


ゼロとローズはガッチリと握手を交わす。


「しかし、本当に行くのか?」

「ああ。もう戦いは避けられない。いつまでもここに居るわけにはいかない。これ以上お前たちをまきこみたくはない」

「そうか、そこまで言うなら止めはしない。だが、いつでもここに戻ってきてもいいんだぞ?」

「感謝する」


おそらくゼロはもう戻ってこないだろう。去り際の顔がそれを物語っていた。



「兄さんも行くの? 何て聞くだけ無駄ね」

「リース、俺は必ず戻ってくる。お前を泣かせたりはしない。約束するよ」

「……バカ」


抱き合うリースとワルター。



「ケイト、レイアを頼んだぞ。セシルとも仲良くしてやってくれ」

「……うん」


何か言いたそうに下を向くケイト。だがその言葉をグッと飲み込み、前を向く。


「無事でいてね」

「ああ、お前もな」




だんだんと現実味を帯びていく。ゼロが居なくなる。遂に涙を留めきれなくなったレイアは部屋を飛び出していってしまう。



「……いいの? 追わなくて」


それを見ていたニコルがゼロに伝える。


「ああ。別れが辛くなる」


無理をしているのは明白だった。


「随分と人間らしいことを言うようになったのね。でも勘違いしてるわね」

「……何がだ」


近づいてくるニコルの方を向くゼロ。


「後悔は先には立たないのよ」

「……!」


すぐさま部屋を飛び出し、レイアを追いかけるゼロ。



「まったく、私がこんなことを言うなんてね……」


だんだんと日が暮れていく。夕日へむかって走っていくゼロを見つめるニコル。その顔は何処か儚げで悲しげだった。




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