episode 127 「始動」
エクシルは一件の任務完了報告を受ける。
「ん、おお。遂にサヌスを始末したか! ふむ、ふむ、なるほど。ならお前も直ぐにグリフィーに向かってくれ」
「なに? 既にいる? そうか、ならクイーンの捜索を……なんだと?」
エンヴァーの遺した爪痕は凄まじく、炎は三日三晩町を燃やし続けた。燃やせるものがなくなった三日目、グリフィーはハウエリスの地図から消滅した。
合流した面々は町の住民にトエフから持参した花を手向ける。誰一人口を開かないなか、セシルの涙を拭う音だけが聞こえている。
フェンリーに偉そうな口をききながらも、ゼロの心にも相当な負荷がかかっていた。
そんなゼロたちのもとにクイーンが現れる。
「ゲイリーを倒したのね。次は私の番よ」
クイーンは弓を構える。
「やあ、無事だったんだね!? 良かった。もう怪我はいいのかい?」
ワルターが臨戦体勢のクイーンに話しかける。
「あんた誰よ」
「俺はワルター。君と同じ殺し屋さ」
その言葉を聞いて弓をしまい、指令書を確認するクイーン。
「ワルター、あんたの名前も出てないわね。まったく、何人裏切り者がいるのかしら」
ニコルの方を向くクイーン。
「あら、あなたもエンヴァーを射たじゃない。立派な裏切りよ」
「あれは裏切りじゃないわ、正当な権利の主張よ!」
「そう。組織もそう受け取ってくれるといいわね」
「どういう意味よ」
ピコンとクイーンの持つ端末に通知が入る。それを見て青ざめるクイーン。端末には何十通もエクシルから連絡が来ていた。
「な……あんたたちとの決着は後回しよ!」
そう言ってクイーンはどこかへ去っていく。
「いったい何をしてたんだい?」
「ふふ、秘密よ」
ワルターの質問を受け流すニコル。セシルもクスッと笑っている。
隣町のトエフはグリフィーの事件の噂で持ちきりだった。友人がグリフィーに住んでいる者も多く、グリフィーの様子を確かめようと人々が大勢押し掛ける。そしてその全員が絶望的な状況を目の当たりにして言葉を失う。一行は何もできなかったいたたまれなさでうつ向く。
絶望にうちひしがれた人々は徐々に顔を上げ、誰だか判別のつかない焼死体を埋葬すべく動き出した。互いに互いを励まし合いながら、涙をぬぐい前へ進む人々に心を打たれるフェンリー。
「ゼロ、俺は行くぜ。止めても無駄だ」
人々を手伝おうと駆け出すフェンリーの肩をつかむゼロ。
「おい、無駄だって言ったろ」
「そうじゃない。俺たちも行こう」
驚いた顔を一瞬見せ、にっこり笑うフェンリー。
六人は人々の方へ駆け出した。
組織本部。
「クイーンは何を考えている……なぜ連絡が無い……そしてなぜエンヴァーの邪魔をする」
エクシルがゼロたちの対策に頭を悩ませていると、一人の男が現れる。
「おお! やっと来てくれたか!」
男は全く音を立てずにエクシルに忍び寄る。
「ゼロとオイゲンが現れたそうだな。それは本当か?」
男から放たれる憎悪といかりに身を震わせるエクシル。
「俺も最初は半信半疑だった。だが偵察に向かわせたヤン、ゲイリーが死亡。クイーン、エンヴァーからの連絡がない。これほどのことができるのはやつらの他に居ないだろう」
「そうか。では次は誰が向かう?」
男は椅子に腰かけ、エクシルの言葉を待つ。男から放たれる殺気が怒りのほどを伺わせる。エクシルと男は組織発足当時からの中だが、ここまで彼が感情を露にしたのは今回が初めてのことだった。
「行ってくれるか?」
「当然だ」
その言葉を待っていたかのように男は立ち上がり、その場を後にする。
(ゼロ、随分とエージェントを葬ってくれたが今回でお前たちは終わりだ。以前のお前ならいず知らず、今のお前では到底叶わないだろう)
「フハ、フハハハ!」
エクシルが笑い出す。
「ようやくお前の死に顔を拝める! 頼んだぞ!アーノルト!」
遂に動き出した組織最強の殺し屋、暗殺のアーノルト。果たしてゼロたちは死神の魔の手から逃れることができるのか。




