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スティールスマイル  作者: ガブ
第三章 もう一人のゼロ
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episode 126 「プロ」

ガスバーナーのような勢いの炎がフェンリーを襲う。避けきれないと判断したフェンリーは眼前に壁を作り出すが、すぐに穴が開き、自分まで炎が到達してしまう。溶けては凍らせ、溶けては凍らせを繰り返し、何とか攻撃を防ぐフェンリー。それを嘲笑うエンヴァー。


「無様だな。お前にできることはその程度だ。その程度で何しに戻ってきた?」


フェンリーは落ちている残骸を凍らせ、猛スピードでエンヴァーに投げつける。


「ムカつくんだよ。だからぶっとばしに来た」


フェンリーの放った氷は、エンヴァーに届くことなく熱によって直前で燃え尽きる。


「フ、見かけによらず熱い男だ。だが俺の熱さを越えられるか?」




全身に炎を纏うエンヴァーに鉄の塊が撃ち込まれる。


「……水をさすやつだ。嫌いなタイプだな」

「貴様に好かれたくなどない」


初めて顔を見合わせる両者。ただ者でないことは直ぐにお互い理解した。


「お前がゼロか。お目にかかれて光栄だよ。俺はエンヴァー。ゲイリーを倒したそうだな?」


火の玉をゼロとフェンリーに投げつけながら話を続けるエンヴァー。


「なかなかやるじゃないか。ゲイリーの耐久力は並みじゃない」

「ああ。俺一人では到底敵わなかっただろう」


火の玉を紙一重で避けながらエンヴァーに撃ち込むゼロ。


「だろうな。お前が勝てる相手じゃない。そもそもなぜ加護を持たないお前やアーノルトが最強と呼ばれているか理解できない」


ゼロの弾は炎に飲み込まれ、溶けてしまう。


「俺やフェンリーの方がよっぽど強いじゃないか」


フェンリーに目線を移すエンヴァー。


「へ、そういってられるのはお前がヤツと会ったことがないからだろ」


フェンリーはアーノルトの恐ろしさを嫌というほど思い知らされていた。


「確かに会ったことはない。だがゼロがこの程度ならたかが知れている」


エンヴァーは鞘から剣を取り出す。指先でそっと剣をなぞるとそれはたちまちに炎を纏う。


「またそれかよ!」

「ああ、そうだ。七聖剣フランジュには遠く及ばないがこれでも名剣だ。ワルターがいない今、お前にこれを防ぐ手段はあるのか?」


ゼロに警戒しながらも、フェンリーに斬りかかるエンヴァー。盾で防げないことは先刻の戦いで判明した。フェンリーに残された手はエンヴァーの意識をこちらに集中させつつ、避け続けることだった。



そうすればきっと。



突如現れた背中の痛みに身をよじらせるエンヴァー。


「ガハッ!」


背中からは血が流れていた。


(バカな! ゼロへの警戒は怠らなかった! 奴からは攻撃する素振りなど微塵も感じられなかった!)


だが確かに攻撃はゼロから放たれていた。


(あり得ない! 奴はなんの感情も無しに攻撃ができるのか!?)


ゼロへと意識を集中すると、今度はフェンリーへの警戒が薄れる。脇腹に重い蹴りを食らってしまう。


「うっ!」

「おまえ、加護にかまけて鍛練を怠ってるな? 雑魚相手には通じてもプロ相手には通じねぇぞ?」

「くそが!」

「おっと!」


直ぐに全身に炎を纏い、フェンリーを下がらせる。


「俺をなめるなぁぁ!」


辺りはすぐさま火の海となる。


「離れるぞ。もう、戦う必要はない」


フェンリーと共にエンヴァーから距離をとるゼロ。エンヴァーの目には既に二人の姿は映っていないようだ。


「俺は加護を受けているんだ! 無能力者が俺に勝てるかぁ!」


なりふり構わず建物や木々に攻撃を仕掛けるエンヴァー。その間にもゼロに受けた傷は広がり続け、血は流れ続けていた。


「なあ、あいつどうするんだ?」


フェンリーが質問する。ゼロは答えずフェンリーを睨み付ける。


「悪かったって……」


フェンリーが謝罪するとゼロが口を開く。


「あいつはもう、俺たちが見えていない。近づくことは難しいが、勝手に自滅するだろう」


その言葉の通り、徐々にエンヴァーの炎は小さくなり、やがて消えた。


エンヴァーに近づく二人。


「……殺せ」


虚ろな目をしたエンヴァーがゼロに呟く。


「殺しはしない。だが、生かす気もない。あとはお前の気力次第だ」


そう言ってその場を去るゼロ。


「俺はお前を許さねぇ。だが、お前みたいになりたくねぇ」


殺意をグッと押さえてゼロのあとを追うフェンリー。


ただ一人、建物の残骸と人々の死体の中に倒れるエンヴァー。


「クソ……」


ただ一言呟き、そして目を閉じた。




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