episode 118 「ゲイリー」
まさに豪傑。国際的に指名手配されているにも関わらず、全く隠れるそぶりを見せず大胆に姿をさらけ出しているゲイリー。その姿を見たのか、後ろから警備員らしき男たちがやってくる。
「ちょっと君、いいかな?」
「ん? ああ構わんぞ」
警備員らしき男がゲイリーに声をかける。ゲイリーは堂々とした態度で答える。
「名前と職業いってもらっていい?」
「ガハハハ! 俺はゲイリー! 殺し屋だ!」
その堂々とした態度に驚く警備員らしき男。
「な! 何をいっているのかわかっているのか!」
「ああ、もちろんだとも!」
そういってゲイリーは男の顔をわしづかみにする。
「が、は、はなせ!」
「ん? 聞こえないぞ?」
ゲイリーはそのまま男の顔を握りつぶす。グチャっと音がして崩れ落ちる男。オイゲンほどではないが凄まじいパワーだ。
「ガーハハハ! 脆すぎるぞ!」
仲間が目の前で殺され、うろたえる男たち。ゲイリーに向かって一斉に銃を構える。
「動くな! お前を逮捕する!」
「ガーハハハ! 動くさ! 勝負といこうか!」
ゲイリーは構わず男たちに向かって前進する。男たちは銃を発砲する。しかし恐怖でなかなか照準が定まらない。
「うわあわあわあわあわ!」
「ちゃんと狙え! つまらんぞ!」
ゲイリーは先ほど殺した男の体を掴み、豪快に振り回す。そしてそしは血を撒き散らしながら男たちを凪ぎ払う。
男たちは地面に叩きつけられる。すでに戦意は喪失し、残された手は震えながら命乞いをすることだけだった。
「た、たすけ……」
にぃーと笑うゲイリー。
「ガーハハハ! 壮大に逝け!」
ゼロがまばたきする暇もなく、辺りは血と臓物の海となる。
「よき! よき! いい運動になったわ!」
人を殺したあととは思えないほど爽快な顔のゲイリー。背筋を伸ばしながら殺戮の余韻に浸っている。
(この男は危険だ……)
残虐性はメル姉弟やサヌスと同等。しかし彼らとは比べ物にならない戦闘力を誇っている。
(すぐに皆に知らせなければ……)
その場を立ち去ろうとするゼロを激しい殺気が襲う。
「で、そこでこそこそ隠れているのは誰だ?」
ゲイリーの鋭い視線が姿の見えないはずのゼロを突き刺す。すぐさま振り向き銃を撃つゼロ。弾はゲイリーの足元で砂を巻き上げる。
「威嚇射撃? 下らんな、狙うならここだ。心の臓!」
自らの心臓を指差すゲイリー。
「ん? ガーハハハ! ゼロ! ゼロじゃないか! 久しいな!」
「ゲイリー、貴様ここで何をしている」
ゼロに気づいたゲイリーが豪快に笑い飛ばす。
「エクシルに呼ばれてな! お前たちをぶっ殺せって!」
そういうなりゲイリーはゼロに向かって突き進んでくる。鬱蒼と生い茂る林の中へと逃げ込むゼロだったが、バキバキと木々をなぎ倒しながら追いかけてくるゲイリー。
「ガーハハハ! 観念しろ! 呼ばれたのは俺だけじゃないぞ! クイーンとヤンもだ!」
「っ! なぜここがわかった!」
「そんなことどうでもいいだろ! 話し合いは終わり、これからは殺し合だ!」
ゲイリーに引く気配はない。うきうきでゼロの息の根を止めようと追いかけてくる。が、急に足が止まるゲイリー。
「おっと! なんだこりゃ!」
ゲイリーの足元は凍り付き、地面に固められていた。
「たく、現場を放棄してやがるから何事かと思ったら、こんな大事だったのかよ」
「ガーハハハ! これはフェンリー! お前は殺しのリストに無いが、そんなこと関係ないよな!」
ゲイリーはいとも簡単に足元の氷を砕く。
「あーもー嫌だぜ。筋肉バカとの戦いは!」
葉っぱをむしりとり、それを凍らせて手裏剣のように投げるフェンリー。
「ガーハハハ! 面白い小細工だ。だが所詮は氷! ふんっ!」
ゲイリーは両手を思い切り前に突き出す。すると真空波のようなものが発生し、氷の手裏剣を粉々に破壊した。
「おいおい、化物か!」
「ガーハハハ! もっと殺す気でこい!」
ゲイリーはそのまま何発も真空波を飛ばしてくる。それを避けるゼロ。標的を失った真空波は小動物に命中し、それを木っ端微塵に破壊する。まともに食らえばただでは済まないだろう。
何とか隙を作ろうと素早く動いて翻弄するゼロだが、ゲイリーはペースを崩さない。なりふり構わず当たり一面を攻撃し続ける。どんどん林は丸裸になっていく。
「逃げるな! それでは勝てんぞ!」
「くそが! 近づけねぇぞ、どうすんだ!?」
フェンリーがいくら氷を飛ばしてもゲイリーに到達する前に破壊されてしまう。そもそも命中したところでダメージを与えられるかどうかも定かではない。
「ひとまず退散だ! 俺が引き付ける、お前は皆に知らせてグリフィーを発て」
「チッ! しょうがねぇ!」
ゼロがゲイリーの上半身に向かって発砲する。
「お、今度はちゃんと狙ってきたか!」
それに応戦すべくゲイリーの注意がゼロに向く。その隙をついてその場を去るフェンリー。が、そのフェンリーの足元に一本の矢が突き刺さる。
「どこへ行く気? 逃げられると思っているの?」
「……クイーン!」
クイーンが木々の間から姿を表す。
「フェンリー、あんたは標的じゃない。私たちに協力するって言うなら助けてあげるわ」
弓をフェンリーに向かって構えながら脅すクイーン。その弓の先にはなにやら怪しい液体が塗られている。
「掠れば猛毒が血管をめぐって体を蝕むぜ。シシシ」
クイーンの隣から小柄な男が姿を表す。ヤンだ。
「手を出すな! そんな駆け引きなぞつまらん! 殺せばいいであろう!」
「うるさいわね。あんたが何考えてるかなんて考えたくもないわ。私は任務を全うするわ」
クイーンとゲイリーが言い争う。
「ふん! 勝手にせい! フェンリーはくれてやる、その代わりゼロは俺がもらうぞ!」
「どうぞご自由に」
クイーン、ヤンと向かい合うフェンリー。ゲイリーと対峙するゼロ。もはや避けて通れない戦い。
「ガーハハハ! 最強と言われたその実力、存分に発揮してくれ! さあ、死合うとしようか! 」
「……仕方がない。だが殺しはしない。その代わりその口が聞けなくなるまで、存分に痛め付けてやろう」
両者の殺意がぶつかり合う。本当の戦いが始まる。




