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スティールスマイル  作者: ガブ
第三章 もう一人のゼロ
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episode 116 「ケンカ」

ヒエロの屋敷から退散した一行。しかし当然フェンリーの怒りは収まらない。なんとしてもヒエロを殺すと憤っている。そして殺しを否定するゼロと真っ向から対立するのであった。

Xの殺し屋、エクシル。厳密に言えば彼は殺し屋ではない。エージェント中、唯一の非戦闘員だ。彼は殺し屋たちの司令塔であり、すべての指令は一度彼のもとに集められ、そこから彼が指示を下す。


「ようやく尻尾を見せたか。しかし何でフェンリー、オイゲンと行動を共にしているんだ? まあいい。全員裏切り者だ」


エクシルはパソコンを操作し、出動可能な殺し屋をピックアップする。


「くそ、アーノルトは遠征中か。今、手が空いているのはゲイリー、ジャック、クイーン、ワルター、ヤン、か。ワルターはしばらく報告が入っていない。どこかでの垂れ死んだか、はたまた裏切りか、どちらにせよ指令には応じないだろう。ジャックは以前ゼロと接触していながら、見逃している……結託されると面倒だな。と、なると」


モニターにはゲイリー、クイーン、ヤンの写真が写し出されている。


「クク、どこまでやれるか見せてもらおうじゃないか、ヒエロ」


エクシルは三人の殺し屋に指令を下した。



ゼロたちはグリフィーの宿屋で休息をとっていた。オイゲンはセシルのおかげでだいぶ平静を取り戻したが、フェンリーの怒りは静まるところを知らない。


「お前らが来てくれたことには感謝する。だけどこれはもともと俺一人の問題だ。あいつは殺す。邪魔だけはしないでくれ」


フェンリーは何とか意識を保とうとタバコに火をつける。


「フェンリー、ここまで一緒に来てその言い方は無いんじゃないかい? 俺たちをもっと頼ってくれてもいいじゃないか」


ワルターがフェンリーの肩に手を置く。


「お前たちをないがしろにしているつもりはねぇ。だがあいつを殺すのに反対なやつとはここでお別れだ」


ゼロを睨むフェンリー。


「……お前がどうしようとお前の勝手だ。だがな、それと同時に俺が何をしようと俺の勝手だ」

「たしかにな。ここでハッキリさせておこうか。ゼロ、お前は俺がヒエロを殺すといったら止めるのか? 自分はラティックを殺しておいて」


ゼロから険悪な空気が溢れる。


「それ以上無駄口をたたくな。お前だからといって、容赦はしないぞ」

「上等だ。初対面の時俺にやられたのを忘れたか?」


一触即発の雰囲気。ニコルが術で介入しようとするが、全く通じない。


「こうなるとお手上げね。やらせてあげましょう」


ニコルは巻き込まれないように部屋の隅に移動する。


「安心しろ、殺しはしない」


銃をしまうゼロ。腕をまくり、拳を握る。


「いいだろう。俺も力は使わねぇ。コレで勝負だ」


手に手袋をはめ、拳を握るフェンリー。


「こんなの間違ってますわ! オイゲン、やめさせて!」

「お嬢様、それはできかねます。見届けましょう」


セシルをつれて離れるオイゲン。


二人の対格差は歴然。まるで子供と大人だ。


「いくぞ! 」


フェンリーが仕掛ける。渾身の右ストレートは簡単に避けられてしまう。


「力になまけて鍛練を怠っているようだな、フェンリー。それでは俺に当たらない」


蹴りを繰り出すゼロ。フェンリーの左脇腹に命中する。が、固い氷に威力を殺される。


「くっ!」

「わりぃな。攻撃には使わねぇが、防御はさせてもらうぜ。なんせ鍛練を怠ってるからよ」


互いに決定打を与えられぬまま、ジリジリと体力をすり減らしていく。スタミナでは僅かにフェンリーが有利か、動きが鈍くなるゼロ。徐々にフェンリーの攻撃が当たり始める。


「ハァハァ」

「どうしたゼロ? 疲れたのか?」


そういうフェンリーもだいぶ氷の維持が難しくなっており、服のしたの鎧にもヒビが入り始めていた。


(お互いそう長くは続かない。そろそろ決着がつく頃だろう)


二人の殴り合いを視ながら分析するオイゲン。ワルターは退屈そうに勝負の行方を見守る。


「俺も戦いたい……」




「なんでヒエロなんかを庇うんだ! あいつは絶対悪人だ! 生かしとく価値なんかねぇぞ!」

「俺たちだって悪人だ。それに俺はラティックの意思を尊重する。ヒエロは殺さない。だが、奴が罪を犯しているというなら報いは必ず受けさせる!」


珍しく熱くなるゼロ。


「言葉は意味を持たねぇな。決着つけようぜ」

「ああ。望むところだ」


二人は最後の力を振り絞って攻撃を繰り出す。フェンリーの拳はゼロのみぞおちをとらえ、またゼロの蹴りも氷の鎧を砕いてフェンリーの脇腹に強烈な一撃を加える。


「がっ!」

「おぼ!」


二人は仰向けに倒れる。


「ハァハァ。その華奢な体のどこにそんな力があるんだよ……」

「お前こそ、凄まじい体力と忍耐力だ。恐れ入る」



フェンリーは震える手でタバコを取り出し、火をつける。


「さっきは悪かった、ラティックのこと。あれほど殺しを否定しているお前が自ら手を下したんだ。余程の覚悟があってのことだろうに……」

「いや、俺こそ済まなかった。お前の気持ちまで考えている余裕がなかったんだ」

「わかったよ。ヒエロは殺さねぇ。だが必ず尻尾をつかんでやる」


オイゲンが二人を支える。


「とりあえず今日は休め。ヒエロのことはもちろん俺たちも協力する。お嬢様を侮辱したことを後悔させてやらんとな」


ゼロとフェンリーは握手を交わす。お互いのぼろぼろ加減に笑いが込み上げてくるフェンリー。それにつられてゼロの口角も少し上がる。


「まったく、男って言うのは野蛮ね。でもなんだかちょっと羨ましいわ」


ニコルが呟く。


宿のなかは久しぶりに和やかなムードが溢れていた。今夜は静かに眠れそうだ。そう思うゼロだった。





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