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スティールスマイル  作者: ガブ
第三章 もう一人のゼロ
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episode 115 「ヒエロ」

「俺はこいつを埋葬してくる」


ゼロはラティックの亡骸を抱えて屋敷を出る。いつもの仏頂面がよりいっそう暗く見える。ゼロに心を許しかけていたセシルは彼が殺し屋なのだということを再認識させられる。


「済まねぇ、押し付けちまって……」


フェンリーが申し訳なさそうにゼロに話しかける。


「構わない。言葉で語りかけたところで、こいつは止まらなかっただろう。誰かがやれなければならないことだ」


ゼロが遺体を埋葬し手を合わせていると、セシルが現れ、一緒に手を合わせる。


「理解したか? これが俺たちの世界だ」


とても悲しげなゼロ。


「理解はしましたわ。ですがわたくしは別の解決法があったと信じてますわ」

「残念ながら俺はその方法を知らない。だが、お前なら見つけられるかもな……」


セシルの肩に手を置き、屋敷の中へと戻っていくゼロ。セシルはしばらく墓前で祈り続けていた。


ゼロが屋敷に戻ると、皆で手分けして氷浸けにされたラティックの部下たちを解放している最中だった。彼らは恐怖し、衰弱し、混乱していた。ラティックが死んだことを伝えるとその感情は一層増し、なお立ち向かってくる者は一人も現れなかった。


部下たちを逃がし屋敷内が静まり返った頃、コツンコツンと音が響きだした。そしてその音と共に一人の女性が屋敷の二階から現れた。女性は屋敷の中を見渡し、ラティックの姿が無いことを確認すると大きなため息をついた。


「ラティックを殺したんだな。もったいないことを」


その表情は決して人を憂うものではなく、まるでおもちゃを無くしてしまったかのような淡白なものだった。


「貴様がヒエロか」


ゼロの言葉を聞いて不機嫌な顔をするヒエロ。


「様をつけろとラティックに言われなかったか? まあいい、いかにも私がヒエロだ。で、何だ? いきなり現れておいて、私の部下を殺し、そしてあろうことかこの私にも銃口を向けるか」


端からみれば仲間は全滅し、敵は大勢。絶望的状況にも関わらずヒエロは余裕の表情を見せる。


「ヒエロ、あなたには人身売買の疑いがかけられてますわ」

「おや、アルバートの娘か。とっくに死んだと思っていたよ。惨めに生き延びていたか」


セシルを嘲笑うヒエロ。当然オイゲンが黙ってはいない。ヒエロに詰め寄り、最大限に威圧する。


「撤回しろ。でないと貴様はあの世で後悔することになるぞ」

「撤回などしない。なぜ私が後悔する?」

「貴様……」


今にも手を出しそうなオイゲンを止めるフェンリー。


「まて、この女には聞かなきゃならないことがある」


納得いかない様子のオイゲンの横を通り、ヒエロの胸ぐらを掴むフェンリー。


「俺の仲間をどうした!」

「しらんな。手を離せ下郎が」


依然として高圧的な態度を崩さないヒエロ。


「じゃあ、てめぇをぶっ殺してもいいよなぁ!」

「貴様はいちいち許可をとらなければ人殺しもできないのか。弱者が」


フェンリーの怒りが頂点に達する。すぐさまゼロが止めに入ろうとするが、オイゲンが邪魔をする。


「どけ」

「断る。やらせてやれ」

「ワルター! ニコル!」


ゼロの声に反応し、ニコルはオイゲンに術をかける。一瞬だが動きが止まったオイゲンの横をすり抜け、ワルターと共にフェンリーを止めにはいる。


「離しやがれ!」


無理やりフェンリーをヒエロから引き剥がす。ヒエロは体の一部が凍ってしまったものの、全く怯えるそぶりは見せず、不適な笑みを浮かべている。


「優しいな。いや、愚かか」


ヒエロは体についた氷を剥がし始める。


「さて、諸君らの処分だが。勝手に人の屋敷に上がり込み、私の部下を襲い、あろうことか片腕のラティックを殺害。本来ならば軍に報告し、連行してもらうところだが、そこの没落娘に免じて見逃してやろう。さあ、ご退場願おうか」

「貴様……またしてもお嬢様を!」


飛びかかろうとするオイゲンに抱きつくセシル。


「やめて……もう、人が死ぬところを見たくないですわ」

「……かしこまりました」


前に出るセシル。


「お気遣い感謝しますわ。ここは退散いたします。ですが、必ずまた来ますわよ」

「ああ、構わんよ。そのときはそれ相応の準備でもてなそう」


フェンリーはまだ暴れている。


「てめぇは絶対殺す!」


ヒエロは笑みで答える。


ゼロたちが立ち退いたあと、ヒエロは自室で一台のパソコンと会話をしていた。


「ラティックがやられたよ。別の駒を用意してくれないか?」

「ああわかった。すぐに手配しよう。では」

「待ってくれ」


通信を切ろうとするモニター越しの人物を呼び止めるヒエロ。


「なんだ?」

「いつ私をエージェントにしてくれるんだ? 指令通り物質や素材を送っているだろう」

「働きは認める。この先もその調子で頑張ってくれ」

「……加護を受けた者がいた。ラティックもそいつらにやられたんだ。そいつを送ろう」

「へえ珍しい。どんな加護だ?」

「手のひらから氷を発生させるものだ」

「……な」


モニターの人物が言葉をつまらせる。


「さっきそいつらと言ったな? 詳しく聞かせろ」


モニターの声色が変化する。


「氷を使う長身の男、さらに長身の筋肉質の男、片腕の剣士、マジシャンのような格好をした銃使い、あとは女が二人だ」


モニターの向こうでガタッと音がする。どうやら椅子から立ち上がったようだ。



「はは……」

「?」

「ははははは!」


モニターに映る人物は突然大声で笑い出す。


「ゼロ! オイゲン! 裏切り者が そんなところで何をしているんだ! フェンリーまで! すぐにアーノルトを向かわせよう!」

「そいつらを倒したら、私をエージェントにしてくれか?」

「なんだと?」


ヒエロのテンションが上がってくる。


「アーノルトとやらがくるまでまだ時間がかかるんだろう? だったらそれまでに私が何とかして見せよう」

「たかが市長が驕るなよ。相手はトップクラスの殺し屋だぞ」

「そのトップクラスを始末できれば、はれて私もトップクラスというわけだな」

「……いいだろう。部下も何人か送ってやる。やってみろ。できたらお前もエージェントだ」

「感謝する。エクシル」


通信が切れる。



「チャンスだ、これはチャンスだ。私は市長などで終わる女ではない。この世界を影で操る組織、そのエージェント。いい響きだ。私にこそふさわしい」


ヒエロはにんまりと悪質な笑みを浮かべる。




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