episode 114 「ケイトのドキドキクッキング」
強敵ラティックを倒したゼロたち。その頃ヴァルキリア邸では使用人たちのお腹が未曾有のピンチを迎えていた!?
モルガント帝国首都、帝都モルガント。帝国最強の兵士、元帥イシュタルと死闘を繰り広げたその地で、レイアは独特な臭いに目を覚まされる。
ヴァルキリア邸。帝国軍中将、大佐、中尉にそれぞれ就任する三姉妹の実家、世界四大貴族の一つ。ゼロたちが居ない現在、レイアとケイトはそこで匿われていた。
(なんでしょうこの臭いは……ガスでも漏れているのでしょうか?)
レイアは慎重に臭いのする方へと足を進める。どうやら発生源は厨房のようだ。大事なのか、シェフたちは厨房の外へと避難していた。
「どうされたのですか?」
心配そうに尋ねるレイア。シェフたちはどこか安堵の表情を浮かべ、レイアにすがりつく。
「レイア様! どうかお助けを! あの者を止めてください!」
「あの者?」
その言葉を聞いてピンとくる。どうやらガス漏れではないようだ。厨房の扉を開け、中へとはいるレイア。そこではケイトが腕をふるい、ロープで縛り付けた使用人たちになにかを食べさせていた。
「あ、レイア! 朝ごはんはいかが?」
レイアに気がついたケイトがなにやら黒い物体の乗った皿を手に近づいてくる。
(な、なんでしょう、これは)
レイアの鼻が全力でこれを否定する。しかしケイトの目はとてもキラキラしていて、とても断れる雰囲気ではない。
「ありがとうケイトちゃん。いったい何を作ってくださったのでしょうか?」
「フレンチトースト!」
「……」
どうやらこの黒い物体は焼きすぎて炭になったパンのようだ。レイアは覚悟をきめ、牛乳を用意する。
「では、いただきますね」
「めしあがれ!」
口のなかに炭を押し込み、牛乳で流し込む。溢れそうな涙を必死でこらえてケイトに笑顔を向ける。
(不味い……正直に伝えるべきでしょうか? ですがきっとショックを受けてしまう……しかしケイトちゃんの将来を考えると……)
「どう? 美味しい?」
ケイトがうきうきでレイアに尋ねる。
「ケイトちゃん!」
「は、はい!」
急に大声を出すレイアに驚くケイト。
「これではお嫁に行けません! わたくしと特訓しましょう!」
「は、はい!」
厨房では拍手がおこる。使用人たちはようやく解放され、すぐに医者のもとに駆け込む。
それからケイトの特訓の日々が始まった。
「分量が違います! 目分量ではいけません! 計量器を必ず使ってください!」
「はい!」
レイアは甘やかしたい気持ちをぐっと押さえて、厳しく指導した。
「めんどくさいからといって、工程を省いてはいけません! 手間隙かけたぶんだけ美味しくなります!」
「はい!」
ケイトも欠点を克服しようと必死で努力する。
時にはローズやリースも交えて特訓は続く。
「だいぶ食べられるようになってきたじゃないか」
「はい、これなら医者にかかる必要もありません!」
「リースさん!」
「す、済みません……」
ローズのいうとおり、少しずつではあるが、確実にケイトの腕は上がっていった。もっとももともと0なのだから上がるほかないのだが。
特訓を始めて一週間。
「ケイトちゃん! 今こそ試すときです!」
「だ、大丈夫かな」
「わたくしを、そして自分自身を信じるのです!」
二人は夕食の料理を一品、シェフのものとすり替えることにした。シェフは猛反対したが、ローズの力も借りて押しきった。
「安心しろ。少なくとも死者が出ることはない」
ケイトの聞こえないところでそっとシェフに伝えるローズ。
かくして料理が食卓に並ぶ。見た目的には他のものと遜色ない。
食事が始まる。ローズとリースはこの件を知っているためか、なかなかケイトの料理に手をつけようとしない。ふと使用人の一人がケイトの料理に手をつけた。固唾をのんで見守るレイア。
「ん? これは……」
使用人が眉をひそめる。心臓の鼓動が高まるケイト。
「調味料変えましたか? なにやらスパイシーで酸味も効いていますね。変わった味付けですがとても美味しいです」
パァと顔が明るくなるケイト。それを聞いてぞくぞくケイトの料理に手を出す使用人たち。あっという間に空になる。
食事が終わり、談笑する四人。
「見直したぞケイト。こんなことなら私も食べておけばよかった」
「同感です。また作ってくださいね?」
「うん!」
ローズとリースがケイトを誉める。満面の笑みを浮かべるケイト。
「大成功ですね! ゼロさんたちが帰ってきたらつくって差し上げましょう!」
「わたし、もっともっと練習する!」
厨房ではシェフが後片付けをしていた。ふとなにかが目にはいる。
「これは……!」
ケイトが料理に使ったと思われる鶏肉の残骸。それは傷んでいたため、シェフが捨てようとしていたものだった。
「ま、まずい……」
さっさと捨てていなかった事を悔やむシェフ。
(ま、まさか私の責任!?)
シェフはそっと残骸を処分する。
翌日料理を食べた全員が、謎の腹痛で苦しんだことは言うまでもない。




